第6話痛い教訓と長い講義、後はお話し

 朝が始まる前に起きてしまった。外を見るとまだ夜で微かに灯りがある程度で輪郭がぼんやりと見えるぐらいで後は暗くて何も見えない。

 一度起きてしまうともう寝る事が出来ない体質のため寝るのを諦め、服を着込み、剣を持って外で日課だった素振りをすることにした。


 船に乗ってる間は武器を手にするのは手入れぐらいで、武器を使った訓練は諍いの元になるから禁止されていた。逆に出来る事と言うと、腕立てや腹筋といった基礎体力の向上ぐらいだった。

 つまり剣の素振りは鈍った感覚を元に戻す為の訓練でもあった。

 先ずは剣を鞘から抜いて長い航海で錆が出て無いかを確める。よし、錆は出てない。






 さて、先ずは剣を両手で持ち身体の中心を守る様にして構える。そのまましばらく構えたまま静かに時間が経つのを待つ。少ししてから片足を軸として円を描きながら動く。それを左右で行う。


 この訓練はいかに構えを崩さずにいられるかが重要となってくる。構えとは言わば攻撃と防御、それらの行動においてすべての始まりであり。どんなに万全であっても命を堕とす危機があるのに、基本の構えが崩れたままと言う事はそれ自体が死を意味する。

 と、村に居た頃に衛兵のオッちゃんから言われた。


 (戦いとは構えに始まり構えに終わる)

 アルゴスで本格的な剣術道場が創立された時に創始者が弟子に対し伝った言葉であり。アルゴスの男であれば一度は聞く言葉として有名な言葉だ。


 半刻(約1時間)ぐらいが経っただろうか?剣は構えたまま次の動作を始める。


 次は素振りだ。両手、左右片腕ずつをゆっくり振って体と動作を確かめたり、素早く振り抜きながら止める事で膂力を鍛える。


 そうしてる内に空が白んできた。


 すると街にある鐘の音が響き渡ると同時に教官の声が聞こえた。


「起きろ‼︎服を着終わったらすぐに隊舎の外に集まれ‼︎」


 外にいた俺はそのまま剣を鞘に収め、言われた場所へ急いで行った。


 外に居たため1番早く到着する事が出来たが教官から

「なぜ?扉からではなく庭の方から来たんだ?」

 と聞かれたので素直に起きてしまい軽く稽古をしていたと答えた。すると「そうか」ただけ言って整列する様にと言われた。


 そうしている間にも、扉からゾロゾロと人が出てくる、部屋ごとに集まるらしく部屋の人間が集まった所から教官に報告を行っている後ろで、女性の教官が何やら小さく細い棒のような物を燃やしている。

 次々と人が集まって来ており、俺たちの部屋は俺、レーニン、メイ、ユリアナ、ローランドら集まっていたが、アベルだけがまだ来ない。「起こしたはずなのに」とメイが言っており慌てて部屋に呼びに戻ろうとしたが教官が「勝手な行動をするな!」と叱られてしまった。






 棒が燃え尽きたのを確認した教官が、部屋の人間が集まった所は戻って良し。と言ったのを皮切りに集まっていた所の人間は部屋に戻って行った。


 しばらく待つていると、まだ眠たいのか大きな欠伸をしたり目を擦ったりしながら遅れてやって来た奴らが見えた。その中にはアベルの姿もあった、アベルもまだ眠いのか欠伸をしながらやって来た。


 (アイツ、遅れてきたくせになに悪びれもせずにのんびりと来るんだ⁉︎)


そう思っていると教官たちが突然声を荒げながら俺たちを殴りつけた。

 俺は突然の暴力に何故?しかも余り痛くなくもないし何で?と思ってる。遅れて来たアベルたちも突然の出来事に目を丸め固まっている。


 「お前たち(遅れてやって来た奴ら)が遅れたせいで彼らは殴られた‼︎それは何故か⁉︎此処がダンジョンや戦場だったならば‼︎お前たちが勝手な行動を行ったせいで彼ら(先に到着していた者)は行動する事が出来ず、敵に見つかり殺されたからだ‼︎」

 と教官が大声で言う。


続けて

 「いきなり殴られてあり得ないと思うだろ?理不尽だろう?だがなぁダンジョンとはそう言った理不尽が当たり前の様におこる場所だぞ⁉︎たった一つの身勝手な行動が仲間を死に追いやる危険な場所だ‼︎

 訓練はもう始まっている。その事をよく理解した上で次から行動を考える事だ」


 なるほど、その事を教える為に遅れた奴らではなく、先に到着していた俺たちは殴られ事になったと。

 正直殴られた時、とっさに殴り返そうかとも考えてしまったがあまり痛くなかったから躊躇ってしまったが、そう言う意図があったのか。

 だが…よくよく考えても。うん…なるほど。あり得ないほどの理不尽だ。冒険者としてやってきた自信はあるけど正直…この訓練所でやって行けるのかが不安になってきた。






 朝の出来事が終わり、軽く朝食をすませてから、初めての訓練として講義を行うこととなった。

 壇上に立つ教官はローブを着ており魔導士であるとは思うが若いのに白髪の目立つ男性だ。


 「初めまして、私は教官のマイクです。君たちには冒険者の基礎となる道具の使い方や、モンスターの生態など、様々な知識を教える事が私の仕事です。

 この講習において私が言えることは、知識こそが冒険者における最大の武器である…と私は考えてます。もちろんこの中には(そんなものが役立つのか?)と言う方もいらっしゃるかと思いますが。

 ですが、覚えておくだけでも生き残る可能性が大きくなるので、頭の片隅にでも置いておいて下さい。では講義を始めますので紙と筆を出してください」


 こうして始まった講義。木版に木炭で書きながら、先ずは冒険者になったら購入するべき道具とその使い方から始まった。


 「先ず初めに、冒険者として道具の種類や使い方などを教えます。最初に縄や紐、そして楔これの基本的な使い方として、高い場所から降りたり登る際に樹木や岩などにくくりつけたり、そう言った物がない時でも楔などを打ち込むなどして使うと思いますが。

 縄の応用として、即席の武器の修理や作成。楔と合わせて狩りにおけるの罠の作成、休憩時に縄と木材もしくは楔を割った物を合わせ鳴子としたり。敵の捕縛などさまざまな応用がききますよ」


 そう言いつつ木版につらつらと書いてる。

 罠には使ったことがあるが縄でそんな風に使う事が出来るのかと感心した。


 「次にランタンや松明、蝋燭など、あっ油もあると良いですね。夜には灯りとして重宝します。

 ですが、灯りは野盗や亜人の立ち位置からすると、そこに敵がいると言う1つの目安になってしまいます。火を起こす際には敵に灯りを見せない様に工夫をすると良いでしょう。

 敵に見つかるのを承知で使用するもありですし、離れた場所に火を焚いてその周辺の枯れ草に油を染み込ませて、簡単な火計を行うなど罠を仕掛ける使い方もあるので戦い方の一つとして考えてみてください」


 最初の縄の所を消したかと思うと灯りの項目を書き始めた。

 あぁ、確かに初めての野営の時に火を焚いてたら野盗に見つかって襲われた事があったなぁ。あれは痛い思い出だ。


 「続いては、石灰や木炭で造られたチョーク。冒険において道標として簡単な目印を印す為に用いる道具です。

 他にも、罠を仕掛ける時などに、罠の近くにある木や石などに目印としておくと仲間が罠に掛かる可能性が低くなるので覚えておくと良い」


 コレは分かる。村でじっちゃんが罠を仕掛ける時には自分が引っ掛からない様に罠の近くや、危険な場所には必ず石や紐とかで何かしらの目印を立ててたから理解出来る。


 「ちなみにコレらを普通に買い集めるとなると銀貨50枚ほどが掛かりますが、ギルドでは次の講義で教える物を合わせた、冒険者キットとし先ほどの物を纏めて銀貨20枚で販売しています。正式に冒険者になれたなら真っ先に買うべき物となるので参考にしてみてください」


 なるほど、何故安いのかは分からないが買い物をする時の参考にしておこう。


 「ここで一旦ですが、休憩を挟むことにしましょう。次も冒険に役立つ道具の説明を行いますのでしっかり着いてきてください」






 休憩の合間に同室のメイと話をしてみようと思った。彼女は故郷では狩人をしていたと言っていたし、同じく狩りをしていた者同士その辺りの話題からお互いを知っていこう。


 「メイさん」


 「あひゃあ⁉︎ロ、ロベルトさん?い、一体如何したのですか⁇」


 メイは全く話しかけられると思ってなかったのか?驚いて椅子に座ったまま跳んでいた。

 おっちょこちょいなのかな?反応が小動物みたいでちょっと可愛いと思ってしまった。


 「あっあぁ、メイさんとちょっと話したいと思ったんだけど良いかな?」


 そう言うと

 「え?わ、私とお話しですか?良いけど私なんかとお話してもロベルトくんに何の意味も無いと思うんだけどなぁ?」


 自分に自信が持てないと言ったら感じなのかな?かなり卑屈っぽい。だけどそう言った事を加味しても彼女は自分に自信を持っても良いと思う。


 「いや、実は俺も村では狩りをしていたけど、俺の所とメイさんが住んでた場所では違いがあるのかな?って思って気になったんだ」


 「えぇ‼︎ロベルトくんも狩りをしてたの?だけどぉ、狩りの仕方は秘伝になるから教えることは出来ないよ?」


 俺からしたらマスタ王国での狩りのやり方が気になる。それに相棒と言って連れている2匹の犬にはどんな役割があるのか?それだって俺には分からない。


「そう言った事を踏まえて、俺はメイの事を知りたいんだ。同じ狩人として、同じ弓士としてメイを知りたいんだ‼︎」


 先ほどの言葉にしても弓士として、扱う技は一体どう言った型なのか?一撃必殺の剛射型か?それとも、多撃必倒の速射型なのか?もしくは毒物を用いるのか用いないのか用いるのであればどの様な毒物なのかなど?

 彼女の事を色々と知りたいと思っての言葉だ。


 「えっええっとロベルトくん。それだったら、今すぐは難しいからこの後の講義が終わってからで良いかなぁ?

 場所は…あんまり人に知られたくない話だから談話室なんてどうかなぁ?」


 「ありがとう、メイさん。それじゃあ講義の後でまた話しましょう」


 こうして休憩を終えることになった。






 休憩が終わり教官のマイクが壇上に戻ってきた。


 「休憩は済んだかな?それでは続けて講義を行いたいと思う。終わったら食事の時間とし本日の訓練を終わらせるからしっかりと聞くように準備は良いかな?」


 そうして2回目の講義が始まった。


 「さて、最初の講義では縄と楔、灯りに油、最後にチョークを教えましたので続きから始めます」


 そう言ってまた木版につらつらと文字を書いていった。


 「では、後半は砥石の用途から始める。砥石とは言葉どおり刃物を研ぐ為に使われる道具だ。

 私は鍛治屋では無いからあまり詳しくは知らないが。本来であれば刃物を研ぐにあたって砥石には粗さの異なる石を使い研いでいくらしいが、冒険中にそんな悠長な事はしてられない。

 だが刃物は使えば必ず刃が欠けたり、切れ味が鈍るので、冒険中には最低でも1個は持って休息中に応急処置ぐらいはしておく事を推奨する」


 ふーん。砥石にはいろんな種類があるのか?流石に知らなかった。また武器屋とかに行く事がある時には参考に聞いてみよう。


 「では、ここからは暗黒大陸で冒険者として続けていく上で重要な物になるからしっかりと覚えるように。

 先ず、地図や書記などの紙類だ。知っての通り暗黒大陸にはフスロの近くであっても未踏破区域である場所が多く、また新種や亜種と言った魔物の報告例も多い。そうした最新の情報については口頭での報告はギルドは認めるわけにはいかない。

 必ず書類として纏めた上で提出をする事が義務付けられている。

 報酬については報告した直後は1割が支払われ。その後、ギルド直轄の冒険者に確認を取らせた後に残りの報酬が発生する仕組みをとっている為、書類は必ず携行する様に」


 面倒臭いやり方をしてるな。わざわざ報告を受けてから確認を取らせるなんて、直轄の冒険者がわざと報告させず、俺たちに報酬が渡されないとかあるんじゃ無いのか?


 「次に必要なのは、地図の作成に必要な製図キットだ。

 内容品はコンパス、定規、分度器の3つだけだがコレは冒険者用の簡易的な物だ。

 本職の製図師が製図する時には最新の望遠鏡や方位磁針。山の高度や河川などを測る特殊な計測法を使用するらしいが、それは此処では教える事がないから安心してほしい。だが教わるのであれば申告をした上で専門の教育を受けてもらう」


 そんな物まであるのかよ‼︎一体最初の段階でどれだけの出費が必要になってくるんだ?絶対に下手な装備品を買うよりも多い金額になってるんじゃないか?


 「そして、冒険中であれば必ずと言って良いほど必須となってくるのが。水薬や軟膏、丸薬、粉薬と言った薬品類だ。それぞれに長所や短所があり、1つずつ説明していくからしっかりと聞くように。

 最初には水薬。薬草などの薬効を抽出、水に溶け込ませた代物です。使用方法としては、瓶に入った物を飲むか。蜂や蛇の毒袋を加工して作った注射型があります。

 2つ目に軟膏。粉末状にした薬草を水などで練り込み糊状にした物です。使用方法は患部に塗り込んで使用します。

 最後に丸薬と粉薬。薬効を長く保存を高める為に最新の錬金術で何度も煮出して作られた最新の薬品だ、長期の遠征には重宝されてきている代物だ。

 そして効能は状況により変わるのが水薬>軟膏>丸薬=粉薬となるが先ほど言った通り一概に言えない事を覚えておくように」


 薬1つをとっても多いな。こんなの普通に考えて専門の知識と言っても過言じゃ無いぞ⁉︎になってくだろ?

 冒険者としての知識が今の所全く役立たない。一体どうなってるんだ?


 「今回最後に紹介する物は野営物品だ。

 天幕、寝袋の2つだが。天幕は夜間の休憩において設営する事で自身と装備品を雨などから保護すると共に草木などで擬態する事で敵から見つかりにくくする効果もある。

 寝袋も寝る時に暑さや寒さ、害虫などから身を護る事が出来、またしっかりと休む事によって身体の回復は何もしないより劇的に違うから購入は考えておくように」


 身体を休めるのは大切だからな、それに害虫の被害は馬鹿に出来ない。小さい頃に虫の被害で村が酷い事になった過去があるから買う事は考えておこう。


 「本日はここまでにします。今日の講義で分からない事、もっと詳しく聞きたい事があればいつでも私に聞いてください。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る