第5話訓練前夜の顔合わせ

 チャーティー教官からの歓迎?の挨拶が終わり。初日は持ってきた荷物をそれぞれに割り振られた共同部屋に持っていく事が最初にやる事であると言われた。

 確かに、見た感じ服と武器と言ったら必要最低限の荷物しか持ってない人や、複数人で持っていかないといけないぐらいに荷物が多い人もいる。


 (荷物がバカみたいに多いやつはどうやってここまで持ってきたんだ?)

 そんなどうでもいい事を思いながら荷物を持ち部屋に行く事にした。






 俺たち新人がこれから過ごす場所は訓練所の敷地内に建てられた平屋建ての兵舎だ。男女は分けられておらず部屋は数人単位で集団生活を行っていく、ちなみに個人の部屋なんて物は全くない。


 少し話が脱線するが一部の女性の中には

 「どうして汚らしい男どもと一緒に過ごさなきゃいけないのよ‼︎そんなの女性の権利を侵害しているわ⁉︎」

 と教官たちを責め立てて、自分達で勝手に部屋から男を追い出してそこを女性専用の部屋として占拠すると言った問題も起きた。


 それに対し教官たちは何も言わなかった。だけどその時の目は男性は勿論、女性も含め明らかに彼女たちを侮蔑した眼差しだったのが印象的だった。

 因みに追い出された男たちもこれに反発して、(男のみの聖域)とか言ってコチラも部屋を占拠した。






 さて、話を戻そう。

 俺が過ごす部屋には男性が4人に女性が2人の6人部屋で過ごす事になった。それぞれが自分の寝るベットの近くに荷物を置き、装備品をチェスト内に仕舞った。


 さて、ここから夕食の時間までは荷物の整理しかすることないのでいっそのこと、『同居人全員で自己紹介をしないか?』と1人が言いだした事で整理が終わった段階で自己紹介をする流れになった。


 先ずは言い出しっぺの金髪の青年から始まった。

 「訓練所に居る全員の名前を知るのは流石に無理でも、同じ部屋で生活を共にする仲間同士ぐらいは流石に知っておかないといけないからね。と言う訳で、先ずは俺からだ。

 僕の名前はアベル、いずれは暗黒大陸の全てを踏破する予定の英雄だ。今から僕の名前を知ってゴマすった方が今後の為になるはずだぜ?」


 んまぁ、初っ端からなんて痛い自己紹介をしてくれるんだよって思っちまった。しかもそこまで言えるって事は、実はかなりの実力者なのか?もしくは何にも考えてないし何も見えていないただのアホウかのどちらかだろう。多分だがコイツの場合は後者だろう。

 だが、アベルの実力がどんなものか知りたいし少しだけカマかけてみようと思っていたら、部屋の中で1番ガタイのある男性が言ってくれた?


 「アベルくんって言うんだね?名前は分かったけど、それだと自己紹介にはならないよ?

 少なくても出身や、自己紹介なんだから登録した職業や使う武器、他に特技なんかも言わないと何も分からないよ?」


 軽く笑いながら指摘することで相手から自然と情報を聞き出す。


 「ん?あぁそうだね。僕は聖ダリアス王国出身で、職業は本当は英雄って書きたかったけど無かったから仕方なかったから剣士にしたさ。武器は英雄を目指すのなら剣一本で十分さ‼︎

 剣の流派や特技?そんな物、英雄の僕なら何でも直ぐに覚えるさ!」

 と言い胸の前で拳を固めない親指を立てていた、多分だが彼の国での大丈夫と言ったら合図なのだろう。


 そんな風にカッコつけてるが俺からしたら評価は下の下だぞ⁉︎

 (駄目だコイツ‼︎コイツとは何があっても組みたくない⁉︎組んだら最後とんでもない事をしでかすぞ‼︎

 って言うか多分だが剣の基礎も知らない我流剣術で英雄になるとか言えるなんてやっぱり馬鹿だろ‼︎)


 次に自己紹介するのは俺と同じ黒髪の青年だ髪を短く刈り揃えて肌は日焼けから精悍な印象を受ける。


 「次は我か?我はレーニン、元はグニン共和国で漁師をしていた槍使いだ。

 武器は銛を槍に持ち替えて戦う、後は網も使う」


 短い紹介だが興味深いな。元が漁師で槍を使うって言うなら突きや投げ槍には注意しないとな。後は網ってのは何だ?網をどう言う風に使うんだ?

 それ以上は話そうとしないのでそれについては後々知っていく事にしよう。


 3人目は癖毛の茶髪とそばかすが印象的な女の子だ。その膝下には犬が2匹伏せている。


 「あっ、わっ私の名前はメイって言います。この子たちは相棒のトルフとフングって言います。

 マスタ王国で村ではお父と一緒に狩りをしていたから、ギ、ギルドには弓士のにしてくださいって言いましたけど、なんか分からんけどテイマーってのにも登録されました。」


 かなり内気な感じの子だな。だけど猟師の子って言うなら森での狩りなどでは活躍するだろうな。俺もテイマー?てのがどう言ったモノなのかも知りたいしな。

 もし組むのなら村ではどんな狩猟をしていたのかとかお互いに狩りの情報交換ができたら嬉しいな。


 おっと次は俺か。


 「俺はロベルト。生まれはアルゴス諸島王国だ。

 職業は剣士と弓士を兼ね合いながらしているが、槍などの武器も一通り扱える様にはしている」


 「私しはユリアナ・マーガトロイド。由緒あるフィレンツェ王国がマーガトロイド家の子女ですわ。

 ギルドには魔術師として登録をいたしましたけれども剣術も嗜み程度には扱えますわ。皆さま私しの偉大なる魔法に魂を奪われない様に注意しますことよ」

 俺の紹介の後すぐに言うってどうなのよ?貴族様と言っておりかなり独特な喋り方をした勝気な女性だ。だけど本当に貴族様かもしれないから礼儀などは気をつけないといけないな。

 だけど魔法かぁ、村では巫女さまから教えて貰ったから存在を知ることは出来たけど、誰も使えなくて習う事が出来なかったから気にしてた、魔法とはどんな物なのか是非とも見せてもらいたいと思った。


 最後はアベルに指摘した大男だ。


 「最後は僕だね?僕はローランド。出身はアベルくんと同じ聖ダリアス王国だよ。

 職業は重戦士。武器は主にブロードソードやメイスで、後はスクトゥムがあるかな」


 ローランドは大きな身体とゆったりとした話し方をする男だ。

 スクトゥムとは何か?と聞いたら大型の長方盾らしく、ローランドが少し屈めば身体全体を隠す事が出来る優れ物らしいが現代の主流であるカイトシールドに比べると重くてあまり使われなくなった古い装備だと言う。


 (盾かぁ、アルゴスでは盾を持って戦うなんて風習はなかったから、盾をどんな風に使って戦うのだろうか?)

 アルゴス諸島王国で盾と言うと陣地や戦場に直接置いて身を守る置盾が一般的であり、盾を手に持って戦うと言ったら風潮はない。

 更に言えば、大きめに造られた肩鎧の部分が盾の役割りを果たしているので手に持たずとも良いとも考えているからだ。





 さて、一通り自己紹介を終え、俺の中では色々と聞きたい優先順位を決めていた。

 もちろん相手は相手で決めてるだろうからそこら辺は折り合いを付けながらだが。


 先ずはユリアナ。彼女の扱う魔法と言う物への憧れもあるが、魔法とは一体どんな物なのかが気になる。

 そして俺ならどう扱うのか?そこを考えることで戦術の幅を増やしたい。


 次にメイ、レーニン、ローランドの順だ。


 メイはテイマーがどう言った職業なのかを知りたい。仮に知らないと言ったら最悪、訓練所やギルドでどう言うモノなのか聞けば良い。

 後は猟師であった事から本来はお互いに狩りの方法を教える事は禁止されてるし秘匿扱いで難しいだろうが、そこら辺の情報交換ができれば上々だ。


 レーニンとローランドはお互いに槍と剣の扱い方で交流を深めよう、後は網や盾をどの様に使って戦うのか?それが気になる。


 最後は当然と言うかアベルは論外だ。


 何を条件に情報交換するべきかが分からないし、自分から英雄なんて言う頭の悪さ。後は自己紹介で『何でもすぐ覚える』何て言ってたが覚えるだけなら誰でもできる。

 重要なのは覚えたそれを実際に使う時や、咄嗟の状況でも使う事が出来るか。

 それをどう応用する事が出来るかが大切なんだ。


 それに俺も英雄に憧れているから口に出して言わないが、英雄と言われる者達は初めから英雄と呼ばれた訳では無い。

 英雄とは、何かを得るため‼︎自分が守りたいモノを守るために戦場に立ち。それを見た周りの人々から讃えられることで初めて英雄と言われるんだ。


 つまり、自分から英雄と言う奴は詐欺師と同じだ。と俺は思っている。






 その後は夕食の時間になり、食堂に行くと出されたのは、アホみたいに硬いパンとシチューと言うドロドロした汁だった。食後に軽く身体を動かした後、汚れた身体を冷たい井戸水で拭き清め、その日は寝る事にした。

 ちなみにパンはそのまま食べず口に入れたり、今回のシチューなどに漬けてふやかしながら食べる事には驚いた。


 アルゴスでの食事で例えるとごった煮の中に米や餅を入れて、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べる料理だと考えながら食べる事にした。






 (明日から本格的に訓練が始まる。どんなものかわからないが絶対に合格してやる)

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