第4話過去と現在

 俺の名はチャーティー

 昔の俺は絶対に英雄になる。暗黒大陸で大成してやるとぬかし。20年以上も前に故郷にある全てを捨ててフスロやって来た碌でなしの冒険者だ。と言っても今では色々とあって冒険者を辞め、それからはギルド直属の奴隷であり教官だ。

 今にして思えば過去の俺は本当にバカだった。俺は何でも出来てるし、やる事は全て成功するだなんて何にも考えず本気でそう思ってたんだからな。


 元々は故郷でも冒険者をしており。そこで培った経験と言う名の自信から、暗黒大陸でも同じ様にすれば絶対に成功する物だと本気で思ってたのだから尚のことタチが悪い。


 そして、暗黒大陸に渡って冒険者となってからは最初の目論見どおりに成功を収めていった。危険な未踏破地域の情報を持ち帰ったり。

 クソッタレ亜人どもの集落を見つけては片っ端から集落を燃やし、敵である亜人は大人であろうとも子供であっても関係なしに剣を突き立てて殺し、メスの亜人が居たならば闘いの昂ぶりを発散するためにたっぷりと辱めてから殺したりもした。


 俺が元々住んでた場所では、聖天教会の教えが当たり前であり。亜人とは人類の絶対の敵であり、教会は亜人どもに行う全てのことは何をしても神さまはそれを良き事であるとしてお許しになるのだ。

 だから何をしても良いのだ、むしろ神さまに認められる為にはもっとやるべき事なのだと嬉々としてやっていた。


 最高の仲間も出来た。そいつらが一緒に居たら俺はどんな敵であろうとも戦える、それが例えドラゴンであろうとも力を合わせたならぶっ殺せる‼︎そう思えるほどに馬鹿が増長していた。

 女もだ。故郷では考えられねぇほどの綺麗な女たちをたくさん抱く事が出来たんだ、考え無しに英雄になったら女たち全員を俺の嫁にしてやるとさえ考えていた。

 やっぱり、俺には不可能なんて無い‼︎そんな風に思い上がっていた。






 だからこそ俺たち。いや、俺は暗黒大陸の洗礼を受けた。

 当時のギルドの連中やギルドマスターは過去の惨事を見てきたのだ。だから増長していた俺に忠告をしていたのにも関わらずだ。

 (いいか、コレだけはよく覚えておけよ。ダンジョンに潜るならば『ダンジョンを馬鹿にする事だけは絶対にするな、ダンジョンにおいてそれは大罪である。その大罪をダンジョンは必ずお前たちに償わせてくる事になるだろう。そしてそれは相応にして、死刑よりも酷い仕打ちとして罪を償うことになる』

この言葉だけは覚えておけ。それを理解した上で暗黒大陸がどう言う場所か、今一度しっかりと考えて行動する事だ)


 あの時。しっかりと忠告を聞いてたなら今の俺にはなってないのかもしれない。

 もしくは今の俺が過去に行けたならば、過去の自分に忠告してみるのも良いかもしれない。未来の俺が言ってるんだ、少なくとも赤の他人から言われるよりかは多少は耳を貸すかもしれない。


 いや、仮に俺が言ったとしてもだ。

 案外『変な野郎の戯言』だとか、『本当に未来の俺だったとして、テメェの様に落ちぶれなんてしねぇよ、負け犬の言葉なんぞに何の価値もねぇよ』って言って俺を馬鹿にしているかもしれないな。


 今でもあの時の事を思い出そうとするだけで。いや、何もしてなくてもアイツらが蘇ってくる。死んでいったアイツらの顔が、大切な仲間と言ったにも関わらず死ぬかもしれないって言う恐怖からその大切な仲間を見捨てて無様に逃げた俺を恨む顔が、蔑む顔が、罵詈雑言が今でも蘇る。

 どうして俺はあの時、あの場所で死ななかったのか?今でもその考えが頭の中をずっとよぎる。






 そこからの俺はそれまでの成功が全て嘘だったかの様に転落していった。

 それもそうだ、クランメンバーが全滅した中で1人や2人が生きて帰ってきたら誰もが興味を持つ、そしてそんな人間に対する評価は2つに1つしかない。仲間を失いながらも地獄から生還した英雄か、仲間を見捨てて地獄から逃げ出してきた臆病者この2つだけだ。

 そしてそれは、帰ってきた奴の目を見たら直ぐに分かる。


 地獄から生還してきた奴は例え仲間を失ったとしても復讐やらなにやらに囚われてしまい目標を立て邁進しようとする。そしてその目には『必ず奴を殺す!!』と言う復讐の炎や、『次こそは絶対に失敗をしない!?』と誓う希望と羨望の光が灯ってる。

 そう言った奴らには自然と人が集まり事を成す。それが地獄から生還した奴らだ。


 だが逃げた奴は違う!?あの地獄から目を背けて逃げた奴の目には何も映らない、その目に映るのは虚空だけだ。ただダラダラと生き、自分が死ぬその時まで怯えるしか出来ない生きた屍の出来上がりだ。

 そして、そう言った奴は全ての責任を死んだ奴に押し付け、最終的には「俺は絶対に悪くない」「悪いのは生きてる俺じゃなくて死んでいった奴らにあるんだ」とかを平然と吐かす様になる。


 そんな言葉を言ってしまったら最後、例えどんなに仲が良かった奴でも遠ざかって行くだろうし。赤の他人だったらそんな奴とは関わりあいたくないから誰も近づこうともしないだろう。

 近寄ってくると言ったら端金目的の碌でなしの小悪党ぐらいだ。

 そうして惨めな最後を迎えた奴らを俺はたくさん見てきたし、俺も今の教官って立場になる前はそんな奴らの仲間だった。


 あの時の俺にとっては、ちょっとでも俺に都合の悪い言葉があったなら一切耳を傾けずソイツを邪険したりして遠ざけてしまい、少しでも自分にとって都合の良い事を言ってくれるなら、すぐにそっちに傾倒してしまいそいつを信じてしまう。

 あろうことか言われたら金だろうと物であろうと何でも与えたらしてしまい、「ちっと良い話があるんだが乗らねえか?」って言われて簡単に犯罪を犯してしまうぐらいには自分で考える事を放棄するぐらいには落ちぶれてしまっていた。






 そんな俺を救い出してくれたのは他ならぬギルドマスターだった。

 と言ってもそのやり方は俺が言うのもなんだが一般的に見ると褒められた物ではなかったがな。


 ギルドマスターは当時、俺が行きつけにしていたフスロの路地裏にある安酒場にギルド直轄の冒険者を送り込んで。俺が来た直後にまるで犯罪を犯した人間を捕えるかの如く俺を拉致した後、そのまま冒険者ギルドに連れて行かれた。

 そうして連れて行かれた場所は冒険者ギルド建物の奥にあると言われる窓の無い個室に入れられた。扉が開いたかと思ったらそこにはギルドマスターが居た。


 「やぁ、チャーティー君。元気にしてたかい?最近は全くギルドに顔を出さなくなってたから私としては寂しかったんだよぉ、だけどまさかこんな風にして会うだなんて思わなかったよ」


 そんな風に心配した風に言ってきたギルドマスターに対して俺は開幕一番にギルドマスターを罵った。


 「久しいですねぇ、ギルドマスター。まさか、こんな風にお会いするだなんて思ってもいませんでしたよ?

 冒険者ギルドは人攫いの様な犯罪を平然と行なってる組織とは全くもって思わなかったよギルドマスター?

 それで⁉︎俺の様な人間を攫って一体どうするつもりなんだ‼︎あぁ⁉︎」


 そう言ってから立て続けに。


「言っておくが優秀な俺を攫って金にしようだなんて間違っても思わねえ事だな。

 俺を攫ってどっかに売り付けた。だなんてマックス達が知ったらギルドマスターと言えどただじゃあ済まねえんじゃねえかぁ?」


 ちなみにマックスって言うのは、俺と同じ冒険者で俺が仲間の死の責任から逃げる様に酒に溺れていたいた時に励ましてくれて、俺にとって都合の良い事を宣い、その対価に窃盗や殺しなんかの犯罪を行う際には指示をしていたクズ野郎だ。

 だが、当時の俺にとってはマックスの言ってくれる都合の良く肯定してくれる言葉が心地よく、そんな風に全てを肯定してくれるマックスこそが俺の最大の理解者だと信じ何の疑いもなく行動をしていた。


 「だ・か・ら、さっさとこの縄を解いて俺に対してその頭を下げてから誠心誠意ある謝罪と懐に幾らかお金を恵んでもらわないとなぁ?そうでもしないとアンタ、明日以降どっかの路地裏でのたれ死んだりしても知らねぇからな?」


 そんな、組織の長に対して言ったなら、普通に考えても組織からの除名どころかその場で殺されてもおかしくない脅し文句に対してギルドマスターは髭を摩りながら涼しげな顔でこう告げた。


 「あぁ、マックス君かぁ。残念ながら君が一番頼りにしているマックス君なんだけど、色々とヤンチャしすぎちゃったみたいなんだよねぇ、そのせいで他の仲間たちと一緒に仲良く衛兵のお縄になっちやったんだよぉ。」


 はぁ?何でマックスが捕まったんだ?あんな良いやつが、どうして捕まらないといけないんだ?

 そう思ったら居ても立ってもいられず、声を荒げながらギルドマスターに問いかけた。


 「おい⁉︎マックスが捕まったてのはどう言う事だ‼︎

 まさかとは思うがテメェが告げ口をしたんじゃぁねぇだろうな?もしそうだとしたらテメェの頭かち割ってぶっ殺すぞ‼︎」


 俺の言葉に対してギルドマスターはこう答えた。


 「そうだよぉ、チャーティー君。でもさっき言っただろう?マックス君は『ヤンチャがすぎた』って。これまで逃げられない様にマックス君たちがしてきた犯罪の証拠を裏で集めて、それを元に彼らを捕まえて証拠と一緒に衛兵に報告しただけだよ。

 勿論だけど、この件はフスロ全体に布告するつもりだ。街の住人からの非難も覚悟しているしこれまで野放しにしていた我々ギルドの責任でもある。

 ギルドとしてマックス君の除名処分に加え罪を償って貰うし、彼の口座に残されてるお金とギルド名義でこれまでの分かっている被害者遺族に対して慰謝料を支払う意向だ」


 ふざけた事を吐かしやがって‼︎マックスは俺の最大の理解者なんだ⁉︎なのに何であんなにも良いやつが罪人みてぇな扱いをされならなきゃあいけねぇんだ?


 「チャーティー君、キミにとってマックス君はとても良いやつの様に見えていたんだろうねぇ?だけどねぇ、マックス君にとってキミは都合の良い道具でしかなかったんだよ。

 その証拠に衛兵との取り調べで全てを吐いたよ。冒険者として落ちぶれてしまったキミを手なづけるのは簡単だったてねぇ。

 その上で、これまでの犯罪でキミを使う事で仮に捕まったとしても。全てキミが主導で行なったと言えば全ての罪を擦り付ける事できて自分の罪が軽くする事ができるとも言ったらしい」


 えっ?何だよそれ?どうしてそうなるんだ。だってマックスは『俺たちがこれからやるのは俺がギルドから受けた特別に依頼だ。これから行く屋敷の主人はかなりの金を蓄えてるらしくてなぁ。俺たちはそこを襲撃して蓄えた金を徴収するのが仕事だ。出来るよな?』や

 『この仕事はギルドから信頼されているお前だから任せられた依頼だ。コレから殺す男はとある地区で殺しや盗みで成り上がった野郎で俺たちが治安の為にそいつを殺してくれって依頼を受けた。勿論受けるだろ?』

 って言ってたんだぞ?その全て嘘だったって言うのか?じゃあマックスがこれまで言ってくれた言葉は?


 「勿論、それら全てが嘘だよ。ギルドは街の住人に対し税の徴収を行う依頼は請け負う訳がない。それを行うのは行政館の仕事だ。

 人殺しの依頼なんかも普通に考えたら請け負うわけがないだろう?そんな依頼を受けてしまったら最後、私の首が物理的に飛んじゃうかなねぇ」


 そんな・・・嘘だ⁉︎嘘だと言ってくれ‼︎頼む!そんなの耐えられない‼︎


 「マックス君がキミに言った言葉・・・それは全てキミを都合よく操るための嘘の言葉だ」


 嘘、その言葉を言われた瞬間・・・俺の中で保たれていた感情の枷が壊れた。

 「アァァァァァーーーーーーーー‼︎うぅ嘘だ‼︎ぜ、全部がぁ‼︎お前が言った事全部が嘘だぁ‼︎頼む、頼むから嘘だと言ってくれぇーーーーー‼︎」


 「残念だけどそうはいかない。キミが犯してしまった罪はこんなもんじゃ無い。全ての罪を受け入れた上で償うしかキミには道が残ってないんだ

 だから今は此処で全てを吐き出すんだ。君が築いてきた嘘で塗り固められた虚像。都合のいい様に扱われて犯した罪、その全てをここで吐き出すんだ」


 「ヴアァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎」


 一体どれくらいの時間が経ったんだ?もはや疲れから時間の感覚もなくなり、ずっと叫び続けたからか喉は痛みのせいでマトモに話せる状態ではない。

 そんな状態なのに妙に頭だけはスッキリとしていた。


 「うん。君の中に溜まっていたモノを全部吐き出したおかげで憑き物は離れたみたいだねぇ。これでやっとマトモに話せるよ

 さて、チャーティー君。君が犯した罪はどれ程の物が分かるかい?」


 首を横に振った。そんなのマトモに考えた事が無かったからだ。


 「だろうね。君が行なった罪はギルドが把握してるだけでも強盗6件、殺人10件で普通に考えても絞首刑だ。

 だが、君の実力と力を失うのはギルドとしては大きな損失だ。そこで、君には2つの提案をしたいと思う。」


 提・・・案?何だそれ?


 「1つはこのまま衛兵に出頭する。この場合君は即座に刑が執行される。君の犯した罪はそれほどのものだ。何の懺悔も後悔も言わせずだ。

 次はギルドが君の身分を買い取ると言うものだ。その場合でも衛兵に突き出すが、ギルドが既に身分を買い取ってるから扱いとしては犯罪奴隷となり、処分はギルドが行うことになる」


 どうしてそこまでするんだ?さっさと殺してくれた方がマシだ。

 「死にたいとおもってるだろう?だがそうはしない。君が犯した罪はどうやっても変えられない。だがこれから先は変えることが出来る。過去の冒険で死んでいった仲間の為にも君は生きなきゃいけない。

 辛いだろう、殺してほしいとも言うだろうが我々はそんな事はしない。君は生きなければならない‼︎死んで償うだなんて自己満足にすぎない!生きて生きて最後に死ぬその時まで償い続ける事が君に課す最大の刑罰だ‼︎」


 ギルドマスターが言い終えた後、俺は何も言えずにいた。生きることが死んだ仲間の為になるだなんてただの詭弁だとも思う。


 「答えは直ぐに出さなくても良い、今は死にたいと言う想いが重いだろうからね。

 1日の猶予を与えるからそれまでじっくりと考えるといい。君はどうしなきゃいけないかが分かるはずだ」


 そう言って部屋を出た。俺は考えた、俺は何をすべきなのか?どうしたら良いのかを考え続けた。


 1日が経ったのだろう。ギルドマスターが入ってきた。


 「おはよう。チャーティー君あれから答えは変わったかい?」


 答えは決まった。


 「はい、ギルドマスター。先日までの無礼な言葉に対し謝罪をします。その上で私の身分を全てギルドに売り奴隷として一からやり直そうと思います」






 こうして俺は自分の身分をギルドに売った上で出頭し刑を受けた。

 そのせいもあり、受けた刑罰は永久的な身分の決定。つまりは死ぬその時まで犯罪奴隷として扱い、今後如何なる功績を得たとしても身分を変える事が出来ないと言ったものである。


 普通であれば人の尊厳を蔑ろにした行いだと思うが俺が行った事に比べたらむしろ甘いくらいだ。

 そうして5年が経っち、俺はギルドマスターから教官と言う立場をもらいさらに5年が経った。俺は過去の失敗を踏まえた上で訓練所に来た新人たちに厳しい言葉を投げかけ武器を振るう、俺と同じ運命を辿る人間が生まれない様にと思いながらだ。

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