第3話冒険者としての教訓

 「やっ、やっと見えてきた。アレが冒険者訓練場なのか?

 ギルドからめっちゃ遠いし。しかも、丘の上にあるから馬っ鹿みたいに時間が掛かったぞ。クソッタレが‼︎」


 登録を終えてから俺は、冒険者ギルドを出てから東に見える丘の建物に向かって悪態を吐きながら目指していた。

 こうなるに至った経緯を説明すると。






 〜少し時間をさかのぼる〜


 (ん?最後の仮の冒険者票ってなんだ?)


 そんな事を思っていると小さな木版で出来た簡素な首飾りを渡された。


 「コチラが仮の冒険者票になります。コレを冒険者訓練場の受付に提示して頂ければ職員が後の手続きをいたします。コレは訓練場を合格するまでの間における身分証となりますので大切に身に付けていて下さい。

 もし紛失をなされた場合は。ギルドに申告してもらった後、銀貨5枚を支払ってからの再発行なさいます。

 先ほども言った通り。冒険者の身分を示す物であるため金銭欲しさに高額で売り払い、再発行する事で利益を得るなどの行為を行う方がいらっしゃいます。もしそういった行為が判明した場合には冒険者に対し厳しい処罰を行わなければなりませんので、その様なことをなさいません様に気をつけてください」


 「あの、すみません。仮って言うのは一体どう言う意味ですか?

 以前に居たギルドでは直ぐに冒険者になれたのだが、何か違いがあるのですか?」


 一通り説明が終わった様なのですぐに聞くことにした。コレを聞き逃したら面倒が待ってそうだからだ。

 すると受付さんはそう言った返答が返ってくるのが分かってたかの様に素直に答えてくれた。


 「分かりました。では、改めて説明させていただきます。

 先ず、冒険者訓練場とは。貴方の様に元々別の場所で冒険者として活動してきた方々や、此処で冒険者になる方々にそれまでの常識を全て忘れてもらう為に存在します。

 と言うのも。昔の話ですがフスロが出来た当初のギルドには。大陸から数多くの腕自慢の冒険者たちが渡来し、その中には大陸における最高位の金等級冒険者の方々も多数存在していました。

 「我こそはこの大陸を制覇してみせる」と高らかに宣言を行って出発した冒険者たちのそのほとんどが、今現在も帰って来ておりません。

 それでも運良く帰還をする事が出来た方もいましたが。その方はすでに心が壊れてしまっており、冒険者の身に何があったのか聞き取りをしなければいけなかったので直ぐに宿を手配し、後日聞き取りをとおもってたのですがその後その冒険者は首を切って自殺をしました」


 マジかよ⁉︎過去にそんな事があったのかよ!!

 って言うか。そう言った情報は普通だったら隠すもんだろが‼︎どうして教えるんだよ⁉︎


 「この事件はフスロではとても有名で、少し調べただけでも簡単知ることが出来てしまうほどのギルドの恥です。

 ギルドマスターとしても、そんな事を隠してギルドの信頼を無くすよりも。逆に、広く教えることによって。暗黒大陸がどれほど危険な場所であるのか。

 悲惨な過去を知ってもらった方が冒険者の生存率が上がるのではないかと考えて。あえて、教えているのです。」


 そう言うものなのか?逆に怖くなってギルドに入らなくなると思うのだが?


 「そして冒険者ギルドはその悲惨な過去を教訓とし。

 フスロを始めとする暗黒大陸の冒険者ギルドでは、冒険者として登録するのであれば、冒険者訓練場に入ってもらいその人の適正を測ります。

 そこで主に体力、戦闘技能、基礎的教養の座学などを受けてもらいます。その後その人の冒険者としての適正を調べます。

 ですが仮に適正が無いからと言って冒険者になれない訳ではありません。ギルドとしては暗黒大陸における鉄則として必ず2人以上、ないし複数人によるクランを組む事を規則としています。

 自身が足りない点を他のクランのメンバーに補ってもらう。それが暗黒大陸における冒険者としての在り方です」


 なるほど、暗黒大陸では冒険者はクランを組むことを前提で動くんだな。

 ん〜、だけどそれって狩人だった人や個人で動く事を心情としている人とかはどうしたらいいんだ?

 そう思って聞いてみると。


 「そうですね。クランを組まずにソロで活動されたいと言う冒険者の方は少なからず存在します。

 ですが、我々と致しましてもその様な冒険者の勝手な理由で街を出て、そのまま戻らなかった場合には。冒険者ギルドの管理、及び責任問題となりギルドの信頼を落とす事になりかねます。

 そこで、ギルドとしてはなんとしてでもクランを組んでもらうために、ソロで活動されたいと言った冒険者とは何度か面接を行い。その方の希望に見合った冒険者を紹介しております」


 なるほど。冒険者に何としてでもクランを組んでもらいたいと言う、ギルド側の決意が感じられる。


 「此処での説明は以上となります。後は冒険者訓練場の方でも詳しく説明がされるのでそちらでお聞きになって下さい」


 そう言って受付の人はお辞儀をした。


 「あっ、そう言えば名前を聞いてなかった。これから長い付き合いになると思うから最後に貴女の名前を教えてもらえないか?」


 「そう言えばそうでしたね。失礼しました。

 私の名前は暗黒大陸 冒険者ギルド フスロ支部受付担当員 アルマと言います」


 コレがこれから先、末長くお世話になる人との出会いだった。






 〜時間を巻き戻して〜


 「やっと着いたぞクソッタレがぁ。村で走り込んできてたから何とかなったけど、そうでなかったら道の途中でバテてるぞ‼︎」


 日も傾き始めた頃、何とか着いた訓練場は冒険者ギルドとなんら遜色ない程の堅牢な建物だ。

 丘の上にあり、川が無いため水堀こそ無いにしろ。中央の建物を囲うように四隅に塔が建っており、それぞれが行き来できる様に壁の上は回路で繋がった建物はこの建物も他の建物と同じく軍事施設の役割を持っていると言える。


 そんな訓練場の中に入って行くとそこには多くの冒険者たちがたむろしていたが、疲れた今はそれらを無視してすぐにでも近くの受付に行きたかった。


 「冒険者訓練場にようこそ。本日はどう言ったご用件で来られましたか?」


 訓練場には幾つもの受付があり俺が並んだ受付は初老の爺さんだ。だけどその動きはハキハキとしており、綺麗に整えられた髭に左眼の片眼鏡、後ろで束ねた長い白髪がとても似合っていて。俺も歳をとったらこんな爺さんみたいになりたいもんだ。


 「冒険者ギルドで新しく冒険者登録をした人間です。ギルドでこの冒険者票を見せれば良いといわれたのですが?」


 そう言って仮の冒険者票を爺さんに見せた途端。爺さんの目が鋭くなり俺の顔を見つめてきた、そうして何か机の上で手を動かしていた。


 「なるほど、新しく来られた冒険者の方でしたか。大まかな事はギルドで聞かれたかと思われますみが、改めて説明させていただきます」


 そう言って何かを終えたのか冒険者票を返してくれたが、その冒険者票には〈57-3877〉と言う数字が書かれた焼印が押されていた。


 「そちらが訓練場での貴方だけの冒険者票になります、無くさない様に身につけていて下さい。それでは改めて、当施設の簡単な説明をさせていただきます。

 先ず、冒険者訓練場は暗黒大陸における冒険者の基礎知識を学んでもらい、体力及び技量の向上を目的としております。

 2つ目に今後の冒険者活動の基本となる団体行動の訓練、他の冒険者との共同探索及びレイドを組む時におけるそれぞれの役割の決め方を学んでもらいます

 最後に、此処で他の冒険者の方と交流を持ってもらい。卒業後のクラン結成や情報収集の場として役立てて下さい」


 (やっぱり、ギルドでも聞いていたけど此処では1人での活動は絶対にさせてくれないみたいだな。それを訓練場からも聞かされて改めて実感が出来るよ)


 「先ずはこちらの編入届けに名前の記載をお願いします。書く内容についてはギルドと同じなので代筆が必要なら言って下さい。

 此方での各種手続きが終わったなら、奥の部屋で他の冒険者と一緒に此処での訓練と生活の説明が行われますので後ろの4桁番号が呼ばれたら直ぐに行けるように近くで待っていてください」


 そう言って一枚の用紙を渡された。

 そこにはギルドで書いた用紙と内容が同じだったので同じ内容を書いて提出した。そして待っている間、近くの柱に寄り添って周りの人達を観察と少しばかり考え事をするとこにした。






 (確か俺が乗ってきた輸送船団【大型輸送船5隻×2小型護衛艦10×4で編成。輸送船1隻における乗員は750人。割合が乗組員600人のためフスロに行く人間は150人である】の中で明らかに武装していた人間に関しては冒険者であるとして、俺がこの先やっていく為に必要な人材は大まかにでも決めとかないといけない。


 そう考えると今の俺は剣や槍なんかの武器は大まかに使えるし、狩人としてやってきた隠蔽の技能や弓の腕を踏まえると、何人で組んでいくかにでも変わるが。前衛3人後衛3人の方バランスが良いかもしれない。

 いや、クランのメンバーは最大6人までだとかは本当は規則には無い。だけど故郷の島とか、他の国の冒険者ギルドでクラン組む時には必ず6人までと言った一種の暗黙の了解であった。


 それから。出来たら攻撃魔法の使い手も1人はいた方が良いだろうな‼︎

 俺も魔法に憧れて練習したけど習得が出来なかったから、どんなものかはわからないけど憧れるし魔法使いはいた方が良いよな)


 なんて事を考えてると。






 「3801から3900の冒険者票を持った者は部屋に来い‼︎今から集団説明を行う‼︎」


 と大きな声が響いたので急いで部屋に向かう事にした。部屋の中に入ると壇上の上には声の主であろう鎧を着た大男が腕を組んで佇んでおり、男が見えやすい様に机と椅子が並べられている。そこに入ってきた順に席に座っていってたので俺も座ることにした。


 「全員集まったな?ようこそ新人達。

 俺は此処でお前達の訓練指導を行う教官の1人、チャーティーだ。

 他にも教官は居るが、お前達に対しては俺が教官長として指導していく。他の教官たちは後で紹介するから顔と名前だけは覚えておけよ」


 チャーティー教官は簡潔な自己紹介から始めた。


 「まず先に言っておく事がある。この中には以前住んでた場所で冒険者をしていた者も居るだろう。

 そう言った奴らはランクに差はあれど、冒険者として色々と行ってきた筈だ。

 そこで多きな活躍してきた奴も中には居るはずだ。そう言う奴らは此処では絶対に重宝される。お前たちの中にはそう思ってる奴もいる筈だ」


 その言葉に俺も含めて何人かの人は得意げな顔をし、逆にそうでないであろう者たちは冒険者でない事を不甲斐なと思ってか顔を下に向けていた。

 そんな風に緩慢になった空気を察したチャーティー教官は冒険者をしていた者たちを蔑むかのようにこう言った。


 「俺はあえて冒険者をしていたであろう奴らに対して言おう。

 お前らはクソだ‼︎以前に冒険者をしていたからなんだ?そんな経験が此処で役に立つと思ってるのか⁉︎

 確かに最初の頃は知識と経験で多少は役立つだろう、他の奴らに比べて優位になれるだろう?自慢出来るだろうよ。」


 馬鹿にされている。誰から見ても明らかに分かる言葉の暴力に、先ほどまで得意げな顔をしていた冒険者たちは、怒りから顔を真っ赤に染め、額には青筋を立てている。「ふざけんな」と言ってる奴も居た。俺も何も知らなければ同じだった筈だ。


 だが、チャーティー教官の目を見て分かった。あの人の目は軽蔑の眼差しでは無い、むしろ真剣な眼差しで俺たちを見ていたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る