第2話冒険者(仮)登録
俺を含めた新しく冒険者になろうとする者たちが次々と港から冒険者ギルドの建物に向かっていく。
気にせずズカズカと入っていく者もいればそびえたつ外壁を見入る様に見ている者もいる、俺も最初こそ気にしなかったが港から冒険者ギルドに向かうまでに2度もそびえ立つ壁につい気になってしまい見つめていた。
「……凄いなぁ、冒険者ギルドに向かうまでに2つも壁を造ってるだなんて。
しかも以前に故郷の島や食糧などの補給で寄った所で見てきた冒険者ギルドや都市の物とは比較にならない大きさだったし」
建物を囲う様にしてそそり立つ外壁を見渡しながら俺はそう呟いていた。
壁の高さは正確には判らないがおおよそ520フィート(1フィート約16センチのため訳8メートル以上)はあるであろうとてつもなく高い壁に囲まれている。
これでは壁を登る為には攻城梯子や攻城塔が必須になってくるる。
「しかも、これと同じぐらいの壁が二重三重とあるんだ。
その都度バラして造り直している暇を与えるほど馬鹿じゃない、造ってる間に火矢や石などでそれらを燃やしたり壊したりで使えなくしたり、進路を塞いでそれ以上進めない様にする筈だ」
そう、実際にフスロでは。行政を司る都市の中心部である領主館、外敵から都市を守り暗黒大陸の調査を行う冒険者ギルド、そして外部と都市を繋ぐ生命線である港。
それらを守る様に外壁がそれぞれ建てられており、更にそれらを囲う様にまた外壁と通路が何重にも建てられている。
これまでに寄ったことのある冒険者ギルドや都市を一つ一つを思い出してみた。
俺が住んでいた島のギルドでは空堀が掘られていたし、木で作られたにせよ外壁も建てられていてある程度の防衛が出来るようにはなっていた。
だが場所によっては審美性のためだけに造られている様な物やそれ以前にそう言った防衛設備が無い所もあった。
それらと比べると〈城壁都市フスロ〉の冒険者ギルド。いや、この都市自体が異様に見えてくる。
そのことを考えるとここの防衛設備こそが普通なのか?それとも異常なのか?段々と俺のつちかってきた常識では分からなくなってきた。
そんなことを考えながら建物の中に入っていく……建物の中に入ってからも中がどの様になっているかを見ながら受付の場所を探した。建物の中も広く作られていており、中は大まかに分けて2つ区画に分けられている。受付場と集会所、この2つに分かれている。
先ずは集会所だ。ここは酒場を兼ねており、冒険者たちにとって憩いの場であり給仕の人たちが往来している。
ここで食事をとり冒険の成功を願ってから冒険に出たり、そして冒険から帰ってきて成功した者たち。……そして亡くなった者を弔うために酒を飲む者。
今も多くの冒険者が食事や酒を飲み仲間と談笑していたり、他のクランの人たちと色々な情報交換を行っていたりしていた。
そして受付だ、ここでは依頼の作成のほか依頼達成の処理を行っている、依頼などで得た素材を買い取る買取所などが併設されている場所だ。
受付では依頼の他にもギルドが冒険者から買ったりして管理されている情報の売買もおこなっている。
ちなみにだが、ギルドで売られている情報についてはそれまでに冒険者たちが集めてきた情報を元に。更にギルドが直轄で雇っている冒険者を派遣し、細かく精査されているため信頼性は非常に高い物になっている。
依頼者からの様々な依頼が張り出されたクエストボード。
そして奥にはこれまでに暗黒大陸で活躍してきたであろう歴代の冒険者たちによって踏破されてきた地点を地図として書きしめられた版図が置かれている。
その版図を見て俺も何時か、これに俺が踏破した場所を新しく書き足す冒険者に成ると心に刻んだ。
買取所では薬や毒になる資源や武具や日用品を作るための鉱物や木材、野生動物や魔物などの討伐を示す部位や肉や毛皮などを買い取ってもらう場所だ。
ちなみに、それらの資源は定期的に船で運ばれるが食材や薬や毒を作製する為の素材などは、長期の運搬での腐敗を防ぐ為に塩漬けにされた物や乾燥させた物が〈城壁都市フスロ〉に運ばれるが新鮮な物と比べると効能等が落ちてしまう、そのため新鮮な素材は非常に貴重であるため高く取引されている。
そして今現在、受付では俺と同じく暗黒大陸にやって来た新人たちが冒険者になる為、そして古参の冒険者たちが依頼や探求の為に受注を行ったり逆に帰ってきた者たちが達成の報告を行う為に列をなしていた。
俺も登録の為、受付の列に並ぼうと歩いた時……不意に鋭い視線を感じた。
……その視線の発生源は広場に併設された酒場で飲み食いや談笑をしている冒険者たちからだった、…彼らは新しく冒険者になろうとする者たちに鋭い視線を向けていた。
彼らは俺たちの装備を観察しながら前衛なのか後衛なのかを推測し、そこからクランを組むにあたって有能そうな人間がいるか?
装備からどのような戦い方をするのか?そして男なのか女なのかそれでも答えは変わってくる。そんな見える所から様々な情報をもとに自身のクランにとって有益な人間なのかそうでないのかを推測をしているようだ。
そんな視線をいったんは無視して受付の列に並ぶことにした、先ほどから他の冒険者たちからの視線が途切れることはない、不快に思いながらも列に並ぶことにした。
受付では冒険者登録をする新人や依頼の受注や達成のため並んでおり、受付の人たちも次々と送られてくる書類の整理の為に忙しなく働いていた。
列に並んでから、しばらく待っていると俺の番が来たようだ。……どうやら俺の冒険者登録を担当してくれる人は男性の様だ。
だけど他の男性職員と比べると体の線が細く、鋭い眼差しと精悍な顔つきが特徴的な黒髪の美男子、最初の印象で俺はそう感じていたが。
「冒険者ギルドへようこそ、本日はどういったご用件でしょうか?」
……⁉男性の声とは思えない高い声に驚いてしまった。
(まさか女性だったのか!!)
いや、それを言ってしまったら相手に対して失礼にあたってしまう。そして俺に悪い印象を持たれてしまう。
俺はその表情を表に出さないようにしながら答えた。
「冒険者登録をしたいのですが此処で大丈夫でしょうか?」
そういうと受付の女性は
「はい、冒険者登録をする方ですね。受付はこちらで大丈夫ですよ。
登録にあたって文字の読み書きは出来るでしょうか?もし書けなくてもこちらで代筆をするので安心してください」
受付の方が言った言葉に対して俺は、
「あっ……はい、文字は村の村長に教えてもらったので多少であれば」
と答えた。
すると
「分かりました、では少々お待ちください」
そう言いながら優しく微笑み机の下の棚にある引き出しから何かを取り出して、俺の前に筆と1枚の用紙を差し出してきた。
「こちらの用紙に名前と年齢、職業、出身地そして公開することが出来る情報などがございましたらお書きになってください。
先に述べました3つの項目に関しましては必須項目になるので必ずお書きになってください。
次に、情報の公開に関しましては公開なさることによって、クランを組む際の一定の目安として役に立ちますのでそのように考えてください。もちろん情報を秘匿なさっても大丈夫です」
聞く限りは特に変わった事は無い、ただ最後の公開する情報に関しては聞いているときに感じた疑問と一緒にもう少しだけ聞いておいたほうが良さそうだ。
俺の
「すみません、幾つか疑問があるにですが聞いてもだいじょうぶですか?」
その言葉に受付の女性は答えてくれた。
「はい、大丈夫ですよ」
後ろで待っている人たちには申し訳ないが分からない事は出来る限り聞くようにしている、受付の女性が許可を出してくれからには聞けることに関して聞いてみることにした。
「ありがとうございます。
ではまず最初に3つの項目に虚偽の情報を書いた場合にはどうなるのでしょうか?
あと情報の公開と秘匿についてはどういう意味ですか?」
俺の質問に対し受付の女性は答えてくれた。
「最初の情報の虚偽に関しましてはご安心ください。
仮に虚偽の情報を書かれても困るのは私たちギルド側ではございません、それで困るのはあなた達冒険者です」
そんな風に答え、続けざまに説明した。
「まず名前と出身の虚偽に関しましては自身の身分を隠すため貴族の方などがよく行いますが、我々ギルドが功績として残すのは申告なされた情報での公開を遵守致します。
ですのでここで虚偽の申告を行っても意味がありません。
仮に功績を自分のものとする為にその本名を明かされてもギルドではギルドの法として虚偽の情報をしたとして処罰の対象となり責任を待ちません。
貴族の方々の中には。自分が貴族である事を笠に脅される方や、自国の法を持ってくる方もういらっしゃりますが。ここはその方の国では無く暗黒大陸〈城壁都市フスロ〉です。他所の地位や法などここでは一切通じない事を肝にしておく様にお願いいたします」
一瞬不安なことを言っていたように思うが、それについては後にしよう。
続けて
「次に、職業に関しましてですが。
着ている装備を見れば一目瞭然なので意味がありません。
例えばの話になりますが、仮に私が冒険者であるとして、そこに記載されている情報が剣士とされているにも関わらず装備が魔術師の装備であったとしてそれを見た時に貴方が私に対して変に思われるのと同じです」
……確かに変だな。それが俺のように複数の装備を持っていてその中で主力として使う武器で職業にしているのであれば納得がいくけれど。
勿論その時には他に扱う武器の事も記載をしておかないといけないな。
「最後に出身地ですが、これに関しては国の言語で分かりますしそのほかにも、話しの訛りでその人がどの国のどの地方の方なのかわかる方は分かるらしいので変に誤魔化したりしない様にした方がオススメします」
確かに、国によって言語が違うって事は神殿の巫女さまから聞いたことがあるけどり訛りでも分かるものなのか。
「あっ、私に関しては大丈夫ですよ。
我々ギルドの者は、厳しい研修で複数の言語や文字を習得しておりますので。
仮に私が分からなかった場合でも他の職員の方が変わって手続きをいたしますのでご安心ください」
「最後に情報の公開と秘匿に関してですが。
コチラに関しては自身のもつ技能や能力などについて、どうしても隠されたい事がございましたら、用紙に公開の秘匿と書いてくだされば我々ギルドが責任を持って預からせていただきます」
それを聞いて俺は心の中で首を傾げた。
(うーん、情報をギルドが責任を持って管理してられるってのはありがたいけど、コレに関しては気をつけた方がいいかもしれないな。
下手に隠し立てすると俺の弱味として使われるかもしれないし)
ロベルトの懸念は的確ではないにしろ的を射ていた。
実際には、冒険者が提示した情報を元にギルド直轄の冒険者たちが調査を行い本当か嘘かを見極めた上でギルドに報告を行い、その後の活躍や支援をする一方で。
様々な理由で冒険者を辞める時などの時には正当な手続きを行った上で他の職に斡旋を行ったり、ギルドへの引き抜きをしていたがそれを知るのはまだ先の話だ。
それはともかくとして俺は出された用紙に自身の情報を書いて受付さんに渡した。
名 ロベルト・ノーベル 年齢19歳
職業 剣士(重戦士)兼 弓士
出身国 アルゴス島王国
開示情報 アルゴス島王国における剣術大会にて優勝経験あり。
まぁ、剣術大会での優勝については一度だけだがそれは嘘ではないから大丈夫だろう。
と言った感じで受付の人に用紙を提出をすることにした。
「はい、確かに受けとりました。不備が無いかを確認をしてから仮の冒険者票を渡しますので少しお待ち下さい」
(やった、これで冒険者になれた。ここから俺の冒険者としての全てが始まるんだ。ってん?最後の仮の冒険者票ってなんだ?)
こうして期待と不安。そして謎の仮という言葉を残して新しい冒険が始まった。
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