ふかそうに逝け~新人冒険者迷宮冒険録~
丸金本舗
冒険者訓練生
第1話【深き幻想の大地】に立つ
暗く狭苦しい部屋の中で寝ていると外からけたましい銅鑼の音が響いた、その音を皮切りに外の通路が騒がしくなった。
「おい、見えてきたぞ」「本当か?俺たちにも見せろよ!!」「うわぁ⁉誰だ俺を押してる奴は?止めろ!!落ちる、落ちるつってんだろぉが!!」
その船はこの旅の最終目的地に入港しようとしていた。海から見える街の景色を一目見ようと甲板には人がぞろぞろと集まっていた、俺も部屋から出て甲板に行くと眩しい太陽の光を浴び目の前に広がる大海原を見渡した、そしてその先にある街を見つけた。
(俺は遂に来たんだ!!……故郷の島を離れ、船に乗り込んでから揺られては港によってを続けること約6ヶ月。
多くの人から‘‘最果ての世界’’や“未知なる異世界”と呼ばれている暗黒大陸【深き幻想の大地】そしてその最前線にして始まりの街と言われている〈城塞都市フスロ〉へと。)
俺は今日この街で憧れである冒険者になる為に海を渡った来たんだ。
俺の名前はロベルト、元は小さな島国の農村出身でどこにでも居るような農民の三男坊だ。
俺には他の人と比べて何か特別な力があるわけでも、他者より恵まれているわけでもないし。
ましてや両親たちが高貴な血筋であるだとか何かしらの特別な力を持っていたわけでもないごく普通の村人だった。
あのまま村で過ごしていたなら。俺は村からすら出ることもなく、村で一番綺麗と言われていた娘を嫁にする為に頑張って何とか結婚をして。
子供が産まれたなら一緒に笑い合いながら過ごし、その子供が成長して結婚をして、孫が生まれたらその孫を可愛がりながら最後には家族に涙を流し看取られながら床に臥す。そんなありきたりな一生を過ごしていたのかもしれない。
そんな生き方も案外悪くはないとも思っていた、そんな俺に人生の転換期は突然おとずれた。
それは子供の頃に村に訪れた異国の吟遊詩人が歌っていた過去に起きた戦争を題材として作られた物語。1人の英雄とその仲間たちの活躍を描いた英雄譚を聞いてからだ。
……その物語に出てきた英雄たちの活躍に感銘を受けた俺は(俺もいつか英雄と呼ばれるような人間になりたい‼︎)
そう思うようになっていた。
そして考えた俺は、その時から冒険者となって。人類未踏の地と呼ばれていた【深き幻想の大地】に行き。吟遊詩人が歌っていた物語に出てきたような。
信頼できる仲間を作り、数々の困難を乗り越えながら、いつかは英雄と呼ばれるようになり。
その後は吟遊詩人たちがこぞって俺の冒険の詩を作り出して、後世の歴史に名を残すような最強の冒険者になると心に決めた。
両親は最初こそ俺が冒険者になることに対して反対していたが、兄たちにも協力してもらいながら何度も諦めずに説得してついに両親が折れて俺が冒険者になる事を認めてくれた。
しかしその条件として両親は「成人になるまでに“今から自分が冒険者になる為には一体何が必要となってくるのか?”それを考えながら過ごしていきなさい」と言われた、それからの俺は成人になるまで俺自身が冒険者になる為に必要になってくると思うことをひたすらに学んでいくことにした。
例えば冒険者として活躍していくには文字や計算が出来ないとやっていけないと思ったなら、村の村長や神殿の巫女さまに頭を下げて頼み込んで文字や算術、更には無理やりではあっだったが巫女さまは他の神殿の神さまについても教えてくれた。
危険な魔物と戦う為には戦い方や武器の扱いが重要だと思ったなら、衛兵のオッちゃんたちから剣や槍と言った武器の扱い方、そして生兵法ではあるものの戦術のいろはを教えてもらった。
何かしらの危機的状況証拠によってクランが全滅したり仲間とはぐれた時、どうにかして自分や仲間が生き残る為にはどうしたらいいのかを考えた時には。
猟師のジッちゃんの狩りに同行させてもらい。サバイバル技術と弓や罠の仕掛け方、獣の解体と森での掟や獣の習性を教えてもらった。
「良いかぁ。兵士であれ冒険者であれ、何よりも必要となってくる事は相手を殺す事よりも自分がいかにして生き残る事だ。
そうなると剣の腕なんかよりも先ずは逃げる為の足腰を鍛えこむべきだ。
足が速いってのはそのまま戦いにおいては長く戦えるし、もし勝てないって思った時にはすぐに撤退する。そしてより遠くまで逃げれば生き残って次の機会を得られるんだ。
だからこそお前には言っておこうと思うロベルト。逃げるってのは悪だとか弱いって訳では無い。
困難な状況の時にしっかりと判断して逃げる事が出来る奴が最も勇敢な奴なんだ。」
……と衛兵オッちゃんらから口酸っぱく言われてきた、そこで日常の井戸の水汲みや森での薪拾い、野草やきのこの採取をする時には足腰を意識しながら鍛えるようにしていた。
そうして訓練をしてオッちゃん達からある程度認められた時に村の子ども達を教える立場になった時に、俺よりも子どもの剣や弓の上達の速さに少しだけ凹んだ事があった。
そんなある日、ジッちゃんに連れられ森で狩りをして泊まり込みをした時に助言をしてくれた。
「ロベルト、お前さん最近何か凹んどるだろう?年寄りの戯言でも良ければ相談にのるがどうだ?」
そう言われて俺は状況を打ち明けた。村の子どもの上達の速さに、今のままでこの先俺が冒険者としてやっていけるのか?とジッちゃんに打ち明けた。
するとジッちゃんはこう言った。
「ロベルト、お前さんの気持ちはよう分かる。だがなぁお前さんにはお前さんなりの才能があるじゃないか?
自分では分からん様だがお前さんは訓練を好き好んででやって来ただろ?それはとても凄い才能なんだぞ?」
そう言って続けて言ってきた。
「村のガキどもの中にはなぁ、あの程度でキツいって言いながら嫌々やってる奴や逃げてる奴もいる。そんなんじゃあいくらお前よりも才能があろうと伸びるモノも伸びん。
だがお前さんは訓練の時にそんな風におもったか?少なくとも好きで率先してやってただろ?」
確かにそうだ。村では外から来る行商や旅芸人ぐらいしか娯楽が無いから、俺は訓練をやってる時には新しく覚えた事が楽しくてしょうがなかった。
「何事でも楽しく出来るってのは、物事を早く学ぶ才能なんかよりもよっぽど大切な才能だ。その事を忘れなければガキどもなんか目じゃねぇ」
おっちゃんに悩みを打ち明けたことで俺の心を蝕んでいた思いは少しだけだが軽くなったような気がした。
それからの俺は才能が無いなりに努力を行いながら腕を磨いていくことを続けた。
そうすることで俺が15歳の成人を迎える頃には村の中では大人相手でも負け知らず。
王都で開かれる武芸大会では優勝こそ1回しか出来なかったものの、上位の人たちに食らいつくことが出来るほどにはやっていける腕前になっていた。
そして成人を迎えてから3年間。…俺は故郷の近くの街で冒険者をしながら剣や鎧などの装備を整える事に加え、暗黒大陸行きの船に乗り込む為のお金と向こうで暮らすための資金集めを行いながら過ごしていた。
そうして約3年、装備一式にある程度の物資を整え、暗黒大陸に行くまでの資金を集めた俺は両親や村のみんなに別れの挨拶を済ませ村を発つことにした。
だが、村を発つ前日の夜には村のみんながささやかながらも宴を開いてくれた。
俺はそんなみんなの期待に応えられるように、何時か大きな功績を持って錦を飾り村に帰ることを心に決めて暗黒大陸に向かう港へ行き船に乗り込んだ。
暗黒大陸に向かう船は非常に多い。……何故なら未知のあふれる暗黒大陸の踏破は人間国家にとっての大願であり、また他国よりも先んじて暗黒大陸の秘密を得ることによってその情報を元に他国に対して有利に交渉を進めていくことが出来る。
そんな国家間の陰謀と調略によって、暗黒大陸には複数の国家が定期的に物資や人材を暗黒大陸に大量に送り込んでいるのが今の現状であった。
そんな状況下にあるものの、暗黒大陸に渡って冒険者になろうとする者たちは数多く存在する。
そしてそこには人それぞれの事情があったりする。
…ある者は俺のように、【深き幻想の大地】に幼かった頃に聞いてきた物語に出てくるような英雄像を思いながら自らも英雄なろうとして暗黒大陸に来た者。
または、暗黒大陸に存在すると言われている未知なる古代の遺物を持ち帰り一攫千金を得ようとする者。
更には、母国では家督を継ぐことが出来ず。暗黒大陸に渡り、其処で得た多大なる功績をもって母国に戻り新たに爵位を得ようとする貴族。
そして最後に、犯罪を犯し国を追放されたり。また、裏からの追手を振り切るために暗黒大陸に逃げてきたならず者。
冒険者になろうとする者たちですらこんなにいるんだ、そして……街を動かすには冒険者だけでは街は動かない。
建物や道具を作ったり修理するためには職人が必要だ、作物や家畜を育てる為には農民の力が必要だ。そして、男や女の欲望を満たすためには娼婦や男娼が必要になってくる。
そんな人たちも含めたら一体どのくらいの人たちが必要になってくるのか?…俺には全くもって見当もつかない。
そうした平民や貴族…はたまた罪人や奴隷など、様々な人間が己の野望や可能性を胸に秘めながらこの暗黒大陸の玄関口である〈城壁都市フスロ〉にやって来る。
そんな様々な人の欲望の渦巻く〈城壁都市フスロ〉の玄関口である〈フスロ臨湾地区〉に着港した船から降ろされる荷物は次々〈城壁都市フスロ〉へと運ばれていく。
そして、冒険者になろうと新たなる一歩を踏み締めながら未来の英雄候補たちも次から次へと船から降りていく。
その流れに遅れず俺も船から降りていく。船を降りてすぐ目に前に広がる港の活気に当てられながら辺りを見渡しながら率直な感想を呟いてしまった。
「……ここが【深き幻想の大地】において唯一絶対の安全が確立されている土地にして、人類が暗黒大陸を踏破するための最前線である〈城壁都市フスロ〉なのか?」
そんな俺の言葉を聞いていたのか、たまたま近くにいた1人のガタイのいい船員が俺を見て「おい、坊主!!」と声をかけられた。
そんな言葉に俺は咄嗟に「…はい?」と答えてしまった。
俺が反応したのを見てから喋りかけてきた。
「ここでは「絶対」の安全なんて言葉は無いに等しいって覚えておきな。
……実際の所、ここ〈城壁都市フスロ〉においても「必要最低限」の安全を何とか維持しているにすぎないからな」
そんな風に語ってきた船員の言葉を聞いても俺が全く意味が分からずにいたのが伝わったのか突然大きな声で笑いながら肩を叩かれた。
「お前さんのその身なりからして、坊主は冒険者になるために〈城壁都市フスロ〉にやって来たんだろ?」
そんな船員の言葉に俺は「あぁ、そうだがそれがどうしたんだ?」と答えた。
「それなら、俺が言ったことはしっかりと覚えておくことだ。
この暗黒大陸に渡って来たのであれば、これから先嫌というほど分かるさ。この暗黒大陸の洗礼と共に俺が言っていた言葉の意味なんてな」
そんな言葉を残し、船員は再び船の荷下ろし作業のため戻っていく船員の後ろ姿を見つめながら俺は冒険者ギルドの建物に向かって歩いていくことにした。
俺は、先ほどの船員が言っていたことが一体どういう意味だったのかを考えながら冒険者ギルドの建物へ続く道を歩いていくことにした。
しばらく歩いていると目の前に冒険者ギルドの建物が見えてきた。…その建物の佇まいを俺はなんと表現するかとしたら、城と言うしか表現することしか出来なかった。
…もちろん城とは言っていたが、それは島の王都で見てきたような王様たちが住むような居住性を求めたような。王族の権威や叡智の結晶を象徴したような豪華絢爛な建造物などではない。
ギルドの建物は外壁の周りを広く深い水堀が張り巡らされており、外壁にたどり着くためには舟を用いての渡河でしか外壁にたどり着くことが出来ない。
そうして仮にたどり着いたとしても、高くそびえ立つ石の外壁によって梯子を掛けなければ外壁をまともに登ることを許さない、しかし不安定な舟の上では外壁に梯子を掛けることさえも難しい。
そして、何も用いずに正面から通ることが出来る唯一の侵入経路である城門には跳ね橋か掛けられており、夜や非常時には橋が揚げられるため敵は渡ることを拒み、渡った先に佇む城門は縁を金属で補強された分厚い門扉に加えて落とし格子を落とすことで城門からも建物に侵入が出来ないようにされている。
…建物自体は石造りの建物ではあるが中の骨組み骨組みには木材が使われている、そしてその木材も村で家を作る時に使われていた木材と比較しても厚みが倍以上もある。
分厚い木材を使う利点として厚い木材は薄い木材と比べて火が付き炎上するまでに時間が掛かるためあえて分厚い木材が使われている。
そして建物を建てるために使われている木材の量も、下手すれば村一つ作れるほどの量が使われている。
そしてこれは後に知ることになるのだが仮に〈城壁都市フスロ〉が破られ冒険者ギルドが陥落するような事態になった時にはギルド長の判断によって施設の破壊を行うことが決まっている。
そうすることによって建物は軍事施設としての機能を完全に失い敵に利用される可能性を低くすると共に、仮に敵が再び施設としての機能を回復する為の改修に時間と労力そして資源の多くを割かなくてはならなくなりあまりにも現実的な方法では無い。
ゆえに〈城壁都市フスロ〉の街自体が暗黒大陸における人類にとって敵の侵攻を妨げ人類の支配域を拡げるための最前線であるとするならば、冒険者ギルドは逆に〈城壁都市フスロ〉における軍事施設であると共に人類の領土が侵略されない為の最終防衛線でもある。
そのため〈城壁都市フスロ〉が陥落するということは。人類が魔物と亜人に敗北すると同時に、再び暗黒大陸の地に新たなる足掛かりを造るため長い年月と多大なる犠牲を強いられることを意味する。
故に他の前線基地が幾ら破られようとも〈城壁都市フスロ〉だけは難攻不落でなくてはならない人類の象徴でしかなのだ。
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