女王と騎士2
「待っていたぞ、イクティス」
部屋へ向かうと、そこで待ち構えていたのは三人のハーフエルフ。
「すみません。途中でフォルスを帰していましたので」
そのために時間がかかったと言えば、隣にいた同じ顔立ちの女性が仕方ないと微笑んだ。
「あー、わかった。フォルスをつけたのは、私だからな」
こちらからはなにも言えないと、女性は投げやりに言う。その女性こそ、バルスデ王国の王だ。
女王フィーリオナ・バルスデ・フォーラン。男口調が特徴の女性で、クオンが勝てない人物の一人でもある。
「それで、どうだ? クオンの様子に変わったことはないか」
「はい、ありません」
「十七…だから気になるのですよね、フィオナ」
考え込む姿に、同じ顔立ちをした女性が隣を見た。
フィーリオナの双子の妹、ルーシュナ・バルスデ・フォーラン。表立って国政には関わらず、裏から姉を手助けする存在だ。
胸まで伸ばされた金色の髪も群青色の瞳も同じ双子だが、唯一違うことがある。ルーシュナの髪は毛先が銀色に変わっているのだ。
「彼がメリシル国からの予言された人物で、あっているのか?」
無言で聞いていたハーフエルフが言えば、三人の視線が向けられる。
「セルティ、疑ってるのか?」
セルティ・シーゼル。聖虹騎士団の団長であり、この国トップの実力者とも言われているハーフエルフ。クロエですら勝てたことはない。
フィーリオナ、ルーシュナとは幼馴染みの同世代ということもあり、王族とか関係なく接する人物でもある。
「前に、クロエで間違えたからな」
「それは、あれがあまりにも優秀だったからでだな」
今回は間違いないとフィーリオナは言う。
どうだかとぼやく姿に、苛ついたように見たが受け流された。
「強いとは限らないしな。弱いかもしれないぞ」
彼女が即位したとき、メリシル国より予言が伝えられたのだ。
集まっている四人は予言の人物を探している。
「今かどうかもわからないのよね。予言は時期まではわからないし」
あくまでも予言であり、正確な日時などわからない。ましてや、どの家系に生まれてくるかなど予言には含まれていなかった。
「陛下は、英雄王が好きですからね」
「そうね。フィオナったら、好き過ぎて魔剣まで使いこなすって」
「苦労しただろうな、世話係…」
「お前ら…」
しみじみと言う三人に、フィーリオナが怒りで震える。
「そんなだから、婿が取れないんだぞ」
「余計なお世話だ!」
急ぐ必要などないとぶつぶつ言いだせば、ルーシュナも苦笑いを浮かべた。
こんな性格だからだろうか、即位して百年経っても婿をと言う者がいない。ハーフエルフといえど、もしものことを考えれば言われてもおかしくないのにだ。
もちろん、自分という存在も大きいのだとルーシュナは思っていた。
「セルティが疑うのも無理はないですが、今回は当たりでしょう」
「なにか確信が得られたのですか?」
イクティスが言えば、セルティも信じることができる。彼は国一番の洞察力を持つからだ。
「今回、フォルスを同行させてよかったですよ。彼、特殊能力者ですね」
オーヴァチュア家に生まれてくるあれか、とセルティが頷く。
それなら信憑性が強くなる。彼もそれがどれだけのものか、よくわかっているのだ。
「まぁ、あれは妹にだけ過敏なのかもしれませんが」
リーナが絡むから気付いただけ。そんな気がするから、なんとも言えない気分になる。
「血は侮れないな。セルティといい」
「うちの家系も、たどれば同じだからな」
そうは言ったものの、セルティの家系から特殊能力者は現れていない。なにかが継がれていないのかもしれないが、その辺りはわからないこと。
ただし、魔力の系統は他と違う。そこだけはハッキリしていた。
「クオンの能力も、急激に上がっているようですし。もうしばらく様子を見た方が」
「わかった。下がっていいぞ」
フィーリオナの側近とも言えるイクティス。彼に任せていることもあり、ここはもうしばらく任せるとした。
今回、確証が得られただけでもいいだろう。これで他を気にすることなく、クオンだけを注意すればいいのだから。
「それでは、なにかあれば明後日にでも。明日は休みですので」
「そうだったな。ゆっくり休め」
合同訓練があった為、普段の休みを変えさせてしまったと思いだし、フィーリオナは労った。
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