合同訓練4
少しだけリーナが可哀想になる。クオンのためにと強くなろうとし、おそらくクオンのために髪の手入れをしただろう彼女に。
「惚れてるなら、告白すればいいだろうに」
「惚れてねぇし、あいつにとって俺は幼馴染みだろ」
「本気で言ってるのか?」
真意を確かめようと真っ直ぐに見れば、クオンはどこか遠くを見ている。
(怖いわけか…)
友人がいなかったクオンにとって、唯一の繋がりが幼馴染みだ。告白という一歩を踏み出したとき、関係がどう変わってしまうのかが怖いのだと気付いた。
(リュース殿とは、いい関係に見えるんだが)
このまま友人を増やすことができれば、少しは変わるだろうかと思い直す。
(まぁ、リーナも女磨きを始めたみたいだし)
もう少し様子を見ればいいか、と二人の兄的存在の幼馴染みは思うのだった。
最終戦でクオンが負けたものの、三勝した月光騎士団が五本勝負を制した。流星騎士団の騎士達が片付けをする中、二人の団長は話を続ける。
「また、腕をあげたな」
「勝てなかったけどな」
ムスッとした表情に、クロエは声を上げて笑う。
「そう簡単に負けてやらないさ」
当然だろと言われてしまえば、さらに不機嫌そうな表情を浮かべる。
簡単に勝てる相手ではないとわかっていた。問題はそこではないのだ。
「本気でやれよ」
問題は、彼が手を抜いていること。一度たりとも、本気でやったことがないという事実。
「なら、本気にさせてみろ」
今はまだ無理だと言われれば、今度は拗ねたように視線を逸らす。
子供みたいな表情に、久しぶりに見たと微笑ましくなる。騎士としての経験を詰むほどに、彼から表情が消えていくようで心配だったのだ。
「クロエ様、片付け終わりました」
媚びが込められた声に、振り返りたくないとクロエが思う。表情も想像がついたのだ。
「わかった。今日は解散していい」
けれどそういうわけにはいかず、クロエは振り返った。
「わかりました。あの…」
「終わったなら帰ろうぜ、クロエ」
エラがなにかを言おうとした瞬間、被せるようにクオンが言う。
どちらも騎士族の名家であるため、エラ程度の騎士では割り込むことはできない。彼女にはわからない、家同士の付き合いもあるのだから。
「そうだな。リーナも拾うぞ」
「三人でって、俺が団長になったときぶりか。悪くねぇ」
「ではエラ殿、また明日」
なにか言いたげにしたまま固まる副官を放置し、クロエはクオンと共にその場をあとにした。
しばらく歩くと、もういいかと息を吐く。
「助かった、クオン」
夕方に帰れるとき、一番悩むのが彼女だった。いかに誘いを断るか、ということが問題なのだ。
もう一人の副官ツヴェルフ・グラネーデが助けてくれているが、それも絶対ではない。彼にも妻子があるからだ。
「シリトルのパイでいいぜ。今からなら夕方の焼きたてがある」
振り返った青年がニヤリと笑う。当然、リーナを拾うなら彼女の分もと。
「わかったよ。甘党団長殿」
彼の甘いもの好きは筋金入りだ。何度奢ったかわからないが、今回ばかりは助けられたので文句の言いようもない。
「それじゃ、行くとすっか」
おそらくクオンを待っていたのだろうリーナを見ると、クロエも柔らかい笑みを浮かべて街へと向かった。
そんな三人を見ている者がいたなんて、気付くこともなく。
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