合同訓練3
結果から言うなら、初戦のシアことシアシュリト・ヴォルセルは問題なく勝った。リーナの期待以上だったと言える。
二戦目、クオンが推したフィル・ラムゼリスは負けた。負けたのだが、副官二人は推した理由に気付き参りましたと言うことに。
「面白いのを見つけ出したな」
「だろ」
夕陽を眺めながら、クロエはフィルを評価した。
出てきたときはなぜ出したのかと疑問に思ったのだが。数度打ち込む姿を見て、すぐさま納得もする。
「リュースも気に入ったみたいで、明日から気合いを入れてしごくってさ」
騎士となったときの評価は低い。だが、それが武器によるものだと気付けたのは、果たして何人いただろうか。
「よく気付いたな」
「新人は、全員手合わせしたからな」
人がつけた評価なんてあてにならない、と言えばクロエは笑う。それは彼としても同じ気持ちなのだ。
「あれは、曲刀を持たせたら才能を発揮するな」
騎士団が配布するのは長剣のみ。それ以外は自分達で買うしかないのだ。
クロエの槍も、リーナのレイピアも自分達で買ったものだった。
「リーナが、余ってるやつ持ってきてくれるってさ」
「フォルスが曲刀だったか…」
リーナの兄、フォルス・ノヴァ・オーヴァチュア。歳が少し離れているだけに、妹に甘いところがある。
頼まれたら使わない曲刀をくれるだろうと思ったのだ。
「また睨まれるぞ」
「俺の案じゃねぇし」
しかし、妹に引っ付く男と見られているため、クオンには常に不機嫌という問題がある。
そのため、なるべく距離を置くようにしていた。後々が面倒になるからと。
「フォルスには関係ないと思われるだろ」
「……やっぱり?」
わかっていたのか、引きつった笑みを浮かべるクオン。
甘んじて嫌味を聞くしかない。盛大にため息を吐くと、片付けをしている騎士達を見る。
「イェンテは強くなったな」
三戦目のイェンテ・オースブラは、驚くほどの圧勝だったのだ。
「俺も驚いたぜ。リュースが推すから選んだけど」
あれだけはクオンも想定外だと言う。
勝てる可能性が高いと判断したからフィルを推せたのは事実だが、想定外の実力を見せたことは好評価になる。
「小隊ぐらいなら、任せるだろ」
「そのつもりだ」
近く、魔物討伐が決まっていた。行くのは月光騎士団と聖虹騎士団だ。
今回の五本勝負は、そのまま魔物討伐の編成に活かされることは間違いない。だからこそ、三人はそれぞれに思う騎士を推した。
「まぁ、魔物なんかにゃ負けねぇよ」
「油断大敵、と言う」
なんでも強気でいられるのはクオンらしいが、だからこそ警戒しろともクロエは思う。
四戦目、エラと戦ったリーナ。エラは確かに強い騎士ではあるのだが、心構えの違いが大きくでた試合と言えた。
「お前さ、いつまであの女を副官にしてるんだ」
クオンもエラは好きではない。実力はあるし、経験と実績も申し分ないのは理解していた。
それとこれは違う、というのが本音だ。副官として置ける人材だとは思っていないし、彼ならわかっているはず。
「……そろそろ、とは思ってる」
「外す気がねぇのかと思ってたぜ」
クロエが団長になる前から、エラは副官としている。二十歳という若さから、彼は副官に関して口出しはしなかったのだ。
すでに三年経つのだから、今外さないならこのままだろうとクオンは思っていた。
「わかってんだろ、あいつ」
「言われずともわかっている。俺の嫁になりたいとか、クソだな」
おや、とクオンが笑う。彼がクソ、などという言葉を使うとは思わなかったのだ。
珍しいものを聞いたと笑みすら浮かべた。同時に、それほど不快だと思っているのだと知る。
「言い寄る女はたくさんいそうだよなぁ。いやぁ、モテる男は大変だ」
「俺の隣でさりげなく女避けしてる奴がいるからな」
その分、尚更に寄ってくると嫌味を言ったが、そ知らぬ顔で受け流す。
「そういや、リーナになにか言ったのか?」
話題を切り替えるクロエに、苦笑いを浮かべる。それだけエラが嫌なのかと。
「老婆だって言われるから嫌ってた髪の手入れをするなんてな」
「はっ?」
なんのことだと言うように見れば、呆れられた。気付いていなかったのかと言うように。
「髪がきれいになったな、て話だよ」
「あいつの髪はきれいだろ」
「……」
この瞬間、こいつにはなにを言っても無駄だとクロエは察した。
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