合同訓練2

 クロエ・ソレニムス、四大騎士族のソレニムス家生まれで、おそらく歴代の中でも一番優秀だろうとも言われている。


 ソレニムス家の歴史は、騎士族としてならオーヴァチュア家と並ぶ。


 英雄王グレン・バルスデ・フォーランの側近であった、ヴァルス・ソレニムスが一代で築き上げた家柄で、息子イェルク・ソレニムスが不動の名家にしたと言われている。


 なにがすごいかというと、当時貴族が騎士団を占めていた中、孤児院出身から騎士となり王の側近になったことだ。


「同じ名家でも、うちの団長とは質が違いますからね」


「どういう意味だよ」


「そのままの意味です」


「てめぇも喧嘩売ってんのか」


 そこが質の違いだとリーナはため息を吐く。クオンといるときは別として、普段のクロエは上官として冷静に対処できる。


 年齢的な違いはあるかもしれないが、クオンはそこがいまいちだという問題だった。


 クオンの家が四大騎士族であるのは、ソレニムス家と同様にすごいことではある。


 なぜなら、初代となるスレイ・メイ・シリウスは北の生まれではない。西の出身であり、セイレーンの血を引く者。そして、当時の姫を嫁に迎えている。


「それで、誰を選ぶの」


 このままほっとけば二人の喧嘩で終わってしまう。


「リーナは出ろよ。そろそろ、あの女出てくるだろ」


「確かに、エラ殿がそろそろきそうですね」


 ここ何回か出てきていない。ということは、おそらく来るだろうと二人の意見が一致した。


「これは勝負だ。上下関係なんて関係ねぇ。ぶっとばしてこい」


「リーナ殿、全力で潰してきてください」


 二人が真っ直ぐに見てくるから、先ほど考えた答えがこれなんだなと察する。あまり好きではないらしいと。


 あと三人か、とクオンが考える。なるべくなら一回も出したことがないのを出したい。


「イェンテはいかがでしょう。最近、腕をあげております」


 若手騎士の一人だったかと考え込む。


 団長という立場へなったからには、騎士団の把握はしっかりとしている。実力や実績、頭に入るだけ詰め込んだつもりだ。


「いいだろ。リーナ、女騎士のイチオシいないか」


 この勝負には一定の決まりがある。女騎士も入れる、ということだ。差別しないためという意味もあるのだが、男顔負けの実力者が隠れていることもあるからだった。


 リーナが副官になったのも、実はこの勝負がきっかけだったりする。向こうの副官を打ち負かしてしまったのだ。


「そう、ね…シアなんていいかもしれない」


「エルフのシア嬢ですね」


 月光騎士団に唯一いるエルフの女騎士。入ったばかりだが、東で傭兵経歴があるため強い。


 悪くない人選だと思えば、最後に一人だとクオンが笑う。ニヤリと笑う姿を見れば、リュースとリーナは嫌な予感がする。


 彼がこの笑い方をするときはろくなことがないと知っているからだ。


「フィル出そうぜ」


「勝つ気あるんですか!?」


「負けるわよ!」


 二人から怒鳴られても、クオンから自信ありげな笑みは崩れない。


「な、なに? 勝てる確信があるわけ?」


 あまりにも強気な態度に、訝しげに見るリーナ。彼女が知る限り、フィルという騎士に勝てる要素はない。


「やればわかるって」


「負けたら、クオンが一人で片付けしてくださいね」


 負けた方が合同訓練の後片付けをする。これも恒例となっているだけに、付き合わないですよとリュースが言う。


「じゃあ、決まりだな」


 楽しくなりそうだと笑う姿に、二人が同時にため息を吐いたのは言うまでもない。






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