合同訓練

 水精月すいせいづきの二十八――この日、バルスデ王国では恒例の合同訓練が行われていた。毎月一回、二つの騎士団が合同訓練を行うのが決まり。


 どの騎士団がいつやるのかは、年間で決められている。よほどのことがない限り中止になることはない。


 各団長により訓練は違うため、他の訓練を体験させるためと刺激を与えることが目的だ。


 競い合うことで、各騎士団の向上を目指すことが始めた理由だと言われていた。


「打ち込みが弱い!」


「はい!」


 長身の男性が一人、二人一組で打ち合う騎士達の間を歩いていく。


 腰にはすべての騎士に配られる長剣。その手には長い槍が握られており、切れ長の目が鋭く周囲を見ている。


「ソルス! 右ががら空きだ!」


「つぇだろ」


 ニヤリと笑う幼馴染みに、鋭い視線が投げ掛けられた。


 本日の合同訓練は、クオンが率いる月光騎士団と流星騎士団。


 現在、流星騎士団の団長を務めているのは、クロエ・ソレニムス。短く切り揃えた真っ黒な髪に、透き通った翡翠の瞳。


 整った顔立ちに長身で文武両道とあって女性にも大人気の若手団長だ。


「当たるなよ」


 笑いながらクオンが言えば、副官のリーナがため息を吐く。あれでは挑発しているようなもの。


 職務中に私情を持ち込むような二人ではないが、なぜか合同訓練になると私情が持ち込まれる。


「俺に喧嘩を売ってるのか?」


「売ってねぇよ。けど、クロエが売るなら買ってやるけどな」


 不機嫌そうに睨み付けるクロエと、不敵な笑みを浮かべるクオン。


 一発触発の空気になった二人を見て、またかと言うように騎士達は見ている。この二人に至っては日常的なやり取りなのだ。


 二人の団長が視線だけで火花を散らして数分。結論が出たようだ。


「三十分の休憩を挟み、月光騎士団と一本勝負をする!」


「いつも通り、五人でいいよな」


「あぁ」


 やはりこうなったかと両方の副官がため息を吐けば、騎士達も慣れたように一息入れる。


 月光騎士団と流星騎士団が合同訓練を行うと、必ずといってどちらかが喧嘩を売り、訓練の最後が五人による一本勝負。


 メンバーはそのときによって変わるので、騎士達も選ばれようと頑張っている辺りこれはこれでいいのだろう。


 そう思いながらも、男って、とリーナはため息を吐く。とてもくだらない勝負にしか見えないのだ。


「クオン殿といると、クロエ様も子供に戻るわよね」


「そ、そうですね」


 話しかけてきた女性に、リーナは引きつりそうになる表情を抑える。


 その女性は、流星騎士団の副官エラ・シュラーン。人間の女騎士としては最年長になる人物で、リーナは苦手だった。


 理由は、彼女がクロエに媚びる姿だ。よくこんな副官を置けるよなとは思うのだが、おそらく置かなくてはいけないのだろう。


 女騎士の数は大体三分の一ぐらいと言われており、彼女は人間の中で古参の騎士。実力がないのなら問題ないが、そうではない。


(クロエでも無視ができないのか、この方が楽なのか)


 代表を選ぶためクロエに近寄る姿を見ながら、どちらだろうと思う。


(クオンなら、バッサリ切るかしら)


「なに考えてるんだよ」


 呆れたように近寄ってきた幼馴染みに、とりあえず仕事をしようと切り替える。


 流星騎士団との合同訓練は、どうしても気が抜けてしまうと反省した。


 クオンともう一人の副官、リュース・リンバールの三人で話し合うために座る。


「最後はいきたいのでしょ」


「当然」


 とりあえず最終戦はクオンがいくのだろうとリュースが言えば、当たり前と頷く。


「勝ってやる」


「はいはい。勝てるといいですね」


 軽く流す副官に、ムッとしたように見る。


 クオンは騎士団の中でも強い方なのだが、勝てない者が何人かいた。そのうちの一人が、クロエ・ソレニムスだ。


 毎回のように五本勝負の最終戦に出て、負けている。それも仕方ないと誰もが思う。


「諦めなさい。国一番の槍術使いよ」


 そう、槍術だけなら国一番と言われているのだ。簡単に勝てるわけがない、と誰もが思っている。


 だからこそ、五本勝負などというものをやっているのだ。二人の勝負ではクオンが勝てないから。






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