最年少団長3
バルスデ王国を貴族制度から騎士制度へ変え、その結果世界を支える国とした。本人にそのつもりはなかったのかもしれないが。
「さすが団長様だな。詳しい」
「学校に行ってれば習う範囲だ」
常識だと言うように見れば、今度は軽く受け流された。学校には行ってないと開き直っているのだ。
「その英雄が、魔力装置を作らせたって話だ。最初の頃は、壁に当てて見せるものだったらしい」
つまり、初期に作られた魔力装置だとクオンは言う。
そんなものは、もうどこにも残されていない。貴重な代物だと言われれば、こんなのがと思わなくもなかった。
「それがあるってことは、ここで使ってた名残だろうな」
「へぇ。英雄が来てたのか…」
実感が湧かないが、それなら店の雰囲気を維持していたことも納得する。
「客って、傭兵が多いんじゃね?」
デザートまでしっかりと食べたクオンは、水を飲みながら問いかけた。
「よくわかったな。常連客もそれなりにいるが、ほとんど傭兵だ」
大通りにあるわけでも宿屋が近いわけでもない。それでも傭兵は多くやって来る。
オズは少し不思議に思っていた。格安飲み屋や美味しい店は他にもある。なのに、なぜここへ来るのかと思っていたのだ。
「この国じゃ英雄だが、退位したあとに東で傭兵組合を立ち上げた。傭兵王とも呼ばれてて、その昔は北では知らない奴がいないほどだったらしい」
「マジかよ…」
だから傭兵が多いのだとオズも理解した。傭兵王が通った店、と東で伝わってるのかもしれないと。
そこまでわかると堂々と宣伝したくなる。するつもりはないが、と内心突っ込むことを忘れない。
騎士の噂が本当だったんだな、と呑気に呟けば、呆れたようにオズが小突く。
「痛いな。俺も最近聞いたんだよ」
わかってるだろと視線を向ける。
彼との付き合いはそれなりに長いが、店へ食べに来たのは数回ほど。すべて昼間に来ていたのだ。深く気にしたことなどなかった。
その上、騎士になるまでの経緯などから、友人らしい友人はいなかったのだ。有名な噂だとしても彼の耳には入ってこない。
「少しは友人できたのか?」
「さぁ。友人なのかねー」
よくわからないと言われれば、オズは苦笑いを浮かべる。そりゃそうだと言うように。
まともな友人がいなかっただけに、こればかりは仕方ないことだ。救いがあるとすれば、兄的存在がいたことだろう。一人ではない。
兄弟も友人もいないクオンにとって救いとなった人物。いい兄貴だと、話で聞いただけでも思う。
「そういえば、月光騎士団の副官に女騎士がいるって聞いたが」
「うっ…」
酒を飲みに来た客が言っていたことを思いだせば、クオンが飲みかけの水を吹きそうになって堪える。
「休みにあいつの話なんてやめろよ! ったく、口うるさいんだから」
ぶつぶつと言い出した姿に、珍しいと思う。他人に関心がないクオンがこんな風に言うことはほとんどない。
もしかして知り合いなのかもと思う。女性関係は聞いたことがなかっただけに、本人も言わなかったのかもと。
「あー、思いだしただけで苛々する。帰るわ。ごちそうさん」
無造作にお金を置いて出ていく姿に、逃げられたと舌打ちする。聞かれたくなくて彼が逃げたとわかったのだ。
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