最年少団長2

 男性はオズ・ベラーシルといい、城下街の一角で店を開いている。


「適当に座ってろよ。すぐに作るから」


 基本的には、夕方から朝方にかけてやっている店。つまり飲み屋なのだが、知人などには昼も食事を提供しているのだ。


 この店のすごいところは経営歴であろう。同じ場所で三千年は続けていると言われており、その昔は英雄達が通っていたと噂されている。


「なぁ、三千年続く店ってほんとか?」


 内装や外装は定期的に補修したりしているが、基本的な部分は変わっていないらしい。騎士達の間でもそれなりに有名な話だ。


「本当だ。ハーフエルフが途中やってたらしいからな。だから続いたんだろ」


 あっさりと言われれば、ふーんと小さく言う。こんな小さな店が、と思ったのかもしれない。


 おそらく、クオンの内心に気付いたのだろう。オズが苦笑いを浮かべた。


「繁盛はしたらしいが、ハーフエルフ達がこれを維持したいってさ」


 大きくすることも、お洒落な内装にすることも簡単だが、店のよさが失われるのは嫌だと言ったらしいとオズも聞いている。


 すでに確かめようのないことなのだが、この雰囲気が好きだと旅人などが来るからよしとしていた。


「英雄が来てたって話は?」


「あー、それな…」


 どこから広がった噂なのか知らないが、オズにはわからないとしか言えない。


「だってよ、そんな証があるわけじゃ…」


 そこまで言い、オズは言葉に詰まる。そういえば、とひとつのクリスタルを取り出す。


「騎士団長なら、これわかるか?」


「ん?」


「なんでか大切に保管されてるんだよな」


 宝石の類いでもないのに、とオズがぼやく。


 差し出されたクリスタルは、まるでガラクタのようだとクオンは見る。オズも思うからこそ聞いてきたのだろう。


 差し出された食事を食べながら、片手はクリスタルを持ったまま。


「大切に保管された物だから、誰も触れないでいたんだよな」


「ふーん…」


 なにが大切なのかと考えて、騎士学校で習ったことを思いだす。


(まさか…)


 試してみればわかること。手にしたクリスタルを壁にかざし、魔力を少し送り込む。


 推測が当たっていれば、答えが目の前に現れるはずだとクオンは見る。


「これは…魔力装置か!?」


 壁には光がかざされただけだが、答えとしては十分だ。オズも驚いたようにクリスタルを見る。


 なぜ店にあるのかも不思議だが、見たことのない魔力装置にも驚きだ。小型の魔力装置は一般的には聞いたことがない。


「英雄が来てたっつうのは、ほんとだったんだな。ほら」


 クリスタルを返せば、クオンは再び食事に戻る。


 彼は知っていた。魔力装置を作ったのが誰であるのか。その人物が、この国では英雄と呼ばれていることも。


「一人で納得してるな。俺にも教えろよ」


 サービスだとデザートを差し出されれば、クオンが仕方ないと言うように話し出す。


「オズは、学校には?」


「あー、俺は行ってない。店を継ぐと決めてたしな。ほら、長男だからよ」


 はじめから学校へ行くつもりはなかったと言われれば、そこからかとも思う。


「じゃあ、国の成り立ちはまったく知らねぇのか?」


「ハーフエルフが建国した、ぐらいしかな。親父も、料理しか教えてくれなかったし」


 冷めた視線を投げ掛けられ、オズも慌てたように視線を逸らす。


 北の大陸を治めるバルスデ王国。その成り立ちは遥か昔、一人のハーフエルフが建国した。名をフォーラン・シリウスと言う。


「七英雄のハーフエルフか。それならわかるぜ」


「この国でわからない奴がいたら、それこそ問題だ」


 魔王と七英雄の話なら芝居小屋からおとぎ話まで、数多く残されている。特にこの城下街では、一度は聞いた話だ。


 すでにどれほど続く国なのかわからないが、今や世界を支える大国となっている。そのきっかけとなったのが、もう一人の英雄だ。


「エルフの血が絶えた王家に、再びエルフの血が戻った。フォーラン・シリウスの再来と言われてる英雄だな」


「へぇ」


 誰も使いこなすことができなかったフォーラン・シリウスの聖剣を使いこなした王、グレン・バルスデ・フォーラン。


 偉大な王として名を残しているが、在位は決して長くない。






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