最年少団長

 賑やかな街並みを歩きながら、一人の青年は休日を堪能していた。この季節はなるべく外を出歩くと決めていたのだ。


 北のシティーバル大陸では、一年のほとんどが寒さの厳しい土地柄。他の大陸で夏を迎える頃、短い期間だが雪解けの季節を迎える。


 真っ白な風景が続く大陸に緑が溢れるのだ。


「クオン、休みかい?」


「あぁ。久々に休みがもらえてさ」


 声をかけられ答えた青年は、名をクオン・メイ・シリウスという。紺色の髪を短く切り揃え、森のようだと言われる深緑色の瞳。


 騎士族と呼ばれる、多くの騎士を輩出している家柄の青年だ。


「大変だなぁ。団長様はよ」


「やっと慣れてきたとこだよ」


 今の環境にようやく慣れたと笑うクオン。話しかけた男性は、食うかとリンゴを投げた。


 受け取ったリンゴを軽く拭くと、クオンはかじりながら歩き出す。


「親父殿がなんかしたんじゃねぇかと思うんだよなぁ」


 じゃなきゃ、自分が騎士団を束ねる位置になるわけがない。


「最年少記録だってな。十六で団長になるなんて」


「そっ。普通ならありえねぇだろ」


 実績もないのに騎士団を束ねる。騎士団から反感を買っても仕方ないと思っていた。


「誇れよ。バルスデ王国の騎士団長様だぞ」


 すごいことだと言われれば、渋い表情になる。素直に喜べないからすごいとも思えないのだ。


 バルスデ王国となれば、世界で一番の大国となる。もしも傾くことがあれば、世界のバランスが崩れてしまうと言われるほど力のある国だ。


 その要は四つの騎士団からなる。団長になるということは、それだけ名誉なことだった。


 クオンは六歳で騎士学校へ入学。勉学はもちろんだが、剣の腕が評価されて三年で騎士見習いとなった。


 通常は四年から六年かけるところ、三年という早さで騎士見習いになったわけだが、それは誰かが裏工作をしたわけではない。


 当時は散々に噂されたが、騎士見習いが騎士となるための公開試験で周囲は認めるしかなかった。彼の力は本物であると。


「見習いから騎士になるまでが三年。十二歳で騎士になったのも、お前さんで二人目だったか」


「あー、あいつがいるからな」


 そう、騎士となったのも早かったが、先に同じ年齢で騎士になった先輩がいた。


 その騎士はクオンにとって兄的存在でもある。憧れであり、目標でもある存在だ。


「あいつの場合、学校四年の見習い二年だったけどな」


 なぜ学校に四年もかかったのか不思議なぐらい優秀な人物だった。聞いてみたいと思ったが、聞いたことは一度もない。


「あいつでも、団長になったのは二十歳だろ。やっぱ親父殿かな…」


 父親がなにか言ったのかもしれない。そう思っても仕方ないことだろう。


 クオンの父親は元月光騎士団の団長。彼が団長になったのは月光騎士団。つまり、自分が辞めて息子を推したと噂が立っているのだ。


「ご自慢の兄貴はなんて?」


「気にするな、だってよ」


「なら、それが答えだろ」


 優秀な彼が言うなら噂は噂だと笑い飛ばせば、クオンは複雑そうな表情を浮かべる。


「それより、昼飯食ってくだろ団長様」


「そうだなぁ、食ってくか」


 リンゴ一個じゃ昼飯にならない、とクオンは笑いながら言う。


「じゃっ、俺の家へ寄り道だ」


 行くぞと腕を引っ張られ、クオンはやれやれと呆れながら男性の家へ向かった。






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