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 開始前は混沌としている弓道部だが、始まってしまえばしっかりと練習をする。鷺宮さぎのみやも軽めの弓を使いながら、今日も一通りのメニューをこなした。

 

 午後七時半。練習を終えた弓道部は、後片づけを済ませて道場の隅で集合した。部長の大井が米倉、八条、鷺宮さぎのみやの顔を見て、真剣な面持ちで口を開く。

「……みんなも分かっているとは思うが、今度の試合についてだ」

 彼女が切り出すと、米倉と八条が顔を見合わせた。同い年の部長の言葉。何を言おうとしているのか、容易に想像できる。

「人数、足りないね」

「綾瀬ちゃん、とうとう辞めちゃったもんねー」

 八条の言う「綾瀬ちゃん」とは、彼女たちと同じ三年生の部員のことだ。資格の勉強があまりにも忙しくなり、つい昨日、部活を辞めてしまったらしい。……とはいえ、ここ一年間部活に来ていないので、鷺宮さぎのみやは綾瀬の顔を知らない。

鷺宮さぎのみやには悪いが……、部員が四人しかいない以上、今度の試合には出られない。何せ、五人立だからな」

 申し訳なさそうな顔をする大井に、鷺宮さぎのみやは「気にしないでください」と言った。本当は、この都大会が彼女のデビュー戦になるはずだったのだ。正直、試合に出場できなくなったのは残念だが、こればかりは仕方がない。

「次の試合はこうならないように、新入生をたくさん勧誘しましょう! 特に経験者の新入生をゲットしないと!」

「おっ! その意気だよ、鷺宮さぎのみや!」

 明るく振る舞う、部内唯一の二年生。米倉は彼女の頭をワシャワシャと撫で、「偉いぞー!」と声を出した。

「ふふふ、鷺宮さぎのみやちゃんは明るいわね。足利のイルミネーションみたい」

 ……八条の理解不能な例えは、その場にいた三人全員にスルーされた。

「こういうときに、私が分身でもできれば良かったんだがな……。それか、助っ人を呼ぶとか……」

 部長は諦めきれないようで、少し遠くを見つめてブツブツとつぶやいている。それを見た鷺宮さぎのみやは、ふとあのチラシを思い出した。

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