掲示板
最悪だ。
最近は不眠には悩まされていないが、最初の頃のあの状況が不味かった。
正直、まるで追いついていない。
学校で良いところを見せて、家の中での発言権を行使できるようにならなければ……。
そして、ちゃんとした部活に入れるように直訴しなければ……。
あそこはもう、おかしな空間になり始めている。
正直、彼らの目的は分からない。
でも、これだけは言える。——あの場に居続ければ、必ず自分の脳細胞も横紋筋に変わっていく。
この時点で私は気付いておくべきだった。
……というより、どうしてうちの家族の話が、あのシックスパックから出てくるのか。
それをちゃんと考えるべきだった。
こんなにも彼と父と母が、あの男と繋がっている事実を考察するべきだった。
正直、親と先生ってそんなものだろうと思っていたし、これは当然だろう。
————でも、私はこんな展開になるとは、1mmも思っていなかったのです。
午後からの授業、科目は数学。
この授業を保護者参加型にしたのは、学校側の狙いであった。
タブレットPCを使った最先端の授業風景、それを見せたかったに違いない。
だとしても普通に授業は行われるわけで、普通に問題を解く生徒は指名されるし、それに対して回答したりもする。
今のところは順調だ。
なんとか頭に入れた公式も脳内で機能している。
私はまだ脳筋にはなっていないようだ。
そして、チョークの音もない、ノートに書き込む音もない、この静かな授業のせいで、後ろの保護者のヒソヒソ話が丸聞こえだった。
「引寄さん、また痩せた? 羨ましいわ。それに今日の服もとっても似合ってるわね。気合入れすぎじゃないの?」
「えー、そうかしら。でも、そうかも。美崎さんも興味があれば後で秘訣を教えてあげるわね。」
ヒソヒソ話レベルではない、普通に井戸端会議だ。
ちなみに美崎さんは親友・咲の母親だ。
美崎咲、親友咲は名前がコンプレックスだったらしい。
だからこそ、普段苗字で呼ぶことはない。
それでも親友の名前なので、ちゃんと覚えている。
「後……じゃなくて、今教えてよ。それに玲子ちゃんも最近スタイル良くなってない? 何? 家族で何かやってるの?」
ふと、咲を見れば、咲の耳もダンボになっているのが分かる。
……っていうより、クラスの女子生徒全員の耳がダンボになっている。
『スタイルが良くなる秘訣』
そんな魔法の言葉、この時期の女子でなくても垂涎のネタ、当然と言えば当然だろう。
「んー。玲子とは違う理由なんだけどね。あまりこのご時世では言えないんだけど、私ね、ジムに通い始めたの。」
——お母さん、ジム通いしてたの⁉︎
確かに、私が高校に入る前あたりからどこかに通い始めたのは知っている。
それに感染症対策で出入りができなくなって、落ち込んでいる母にも何度も遭遇したことがある。
お母さんがジム通いを始めていたとは……
「なんだ、ジムかぁ。結構、普通な秘訣じゃないの。私だってジムに通っていた時期があるのよ。でも、続かなくてねー。一度休んじゃったっきり。何ヶ月分も無駄にしちゃったわ。」
美崎の母の落胆は、クラス全員の落胆でもある。
ジム通いでスタイルが良くなった、当たり前すぎる答えである。
もっと楽をして、スタイルが良くなる何かかと思ったのだろう。
……世の中、そんな都合の良いことはない。
「なんだ……って、美崎さん、ちゃんとトレーナーさんについてもらった?」
「そりゃ、せっかくジムに通うんですもん。トレーナーさんについてもらったけど……。なんかプレッシャーというか……」
「だったら、私が通ってるジムに通うといいわよ。時々しかいないけど、すっごく良いトレーナーさんがいるの。私の体力にあったトレーニング方法を教えてくれるし、知識も豊富だし。ふふ、それにね。そのトレーナーさん、なんといってもイケメンなのよ!まぁ、旦那も同じところに通ってるから、そういうのではないけどね。」
おい、母上!
子供達の前で何をほざいているんだ。
……っていうかお父さんまで通ってたなんて。
そこまで聞いて、玲子は漸く「ぴーん!」ときた。
授業の終わりを告げるチャイムと同時にだが。
『リーンゴーン』
終鈴の音、母は突然動き出し、私の手を取って六先生の所まで駆けつけた。
玲子は必死の抵抗を見せるも、さすがはジム通いの母、……全く抵抗にならず、そのまま六のところまで連れて行かれてしまう。
「先生、娘がいつもお世話になっております。あの、私もおかげさまでずっといい感じ……なん……です……」
母上!頼みます!娘の前でメスの顔にならないで‼︎
っていうかそういう訳だったのね。だから私の両親は……じゃねぇよ‼︎
なんで公立高校の先生が、副業してんのよ‼︎そういうの禁止の筈でしょ!?
「いえ。玲子さんは非常に優秀な生徒の一人です。私の方こそ彼女に助けられています。ところで先日は、我が校に寄付をして頂きありがとうございました。ご主人にもよろしくお伝えください。」
「あぁ、いいのよ。あの金髪のトレーナーに旦那の上司が唆されて、勝手に会社のお金を横流ししただけだから。」
全然、よくねぇわ!
あたしの親父も犯罪者じゃん‼︎
っていうか、あたしには読めてたからね!
あの金髪女も働いてるんだろうって分かってたわよ‼︎
会社のお金を横流しして、あのトレーニングマシーンを……
っていうか、母上!それをここで言っちゃダメだから‼︎
「引寄さん、今、すごいこといてますよ?」
「大丈夫よ、美崎さん。上司って言っても社長なんだから。プロテイン開発の方の、だけどね!」
なんと!それは学校側も許可を出す筈だわ。
大きな会社の子会社、しかもプロテイン開発会社が動いていたとは。
——でも、そんなことはどうでもいい。
もっと重大な問題が生まれたしまったのだ。
その重大な問題とは、
『六先生と父と母がズブズブだった』
ということだ。
どういう理由かは知らない。
とにかく玲子の望みが打ち砕かれた瞬間だった。
……私、絶対にこの部を辞められない、どんなに頑張ったところで、あの部活からは逃げることができない。
因みに、今回の保護者参加授業は、本当に授業参観だけであり、三者面談などは予定されていない。さっさと部活に顔を出して、今日のノルマを終えるべきなのだが……
「え、実は帰って良くない? 今の雰囲気なら、私がサボってもバレないんじゃないのかな……」
何もかも嫌になり、さっさと荷物を纏めて帰ろうとする玲子。
ただ、その時彼女はタブレットの電源が入ったままだったことに気がついた。
あの授業でテンパリすぎて、電源を落とし忘れたのだ。
しかも体のどこかが触れてしまったのか、別のアプリが開いている。
「あ、別のアプリが開いてる。あの授業のデータって、ちゃんと保存されているかしら……、え?な……に……これ……」
『公立新麗高等学校の怖い話』
660 学校の名無しさん 07:20:17
あー、今日って授業参観ってやつだよねー。うちのママ、変な格好でこなきゃいいけど。
661 学校の名無しさん 07:28:48
言えてるー。私の場合、今日はお父さんがくるんだよねー。ほんと嫌だわー。
662 学校の名無しさん 08:08:06
『全てを投げ出したい方へ』
663 学校の名無しさん 08:10:34
何、この書き込み。なんか寒いよー。そういうの荒らしはもうこの掲示板には要らないのー
664 学校の名無しさん 14:00:00
『午後六時六十六分 東校舎の屋上の鍵を開けておきます。皆さんで全てを投げ出しましょう』
665 学校の名無しさん 14:02:54
何、こいつ。どっか別の人間がいたずらしてんじゃね? 荒らしに構う方が荒らしだぜ。無視しよーぜ、無視ー。
666 龍宮院美加子 66:66:66
『このサイトを見た方は必ずここへ来てくださいね。お待ちしていますよ。』
667 学校の名無しさん 14:11:30
え、ちょっと何?
668 学校の名無しさん 15:08:45
自演だろ? ミカコってここのサイト主の名前じゃん。随分痛い名前の設定だったんだな。
669 学校の名無しさん 15:15:30
バカ!知らないの? その人、この学校で二十年前に自殺した人よ。このサイトだってその人について知っている人が作ったんじゃないかって噂で盛り上がったんだから。
670 学校の名無しさん 15:20:40
これって前の時と同じよね。実際には七時六分ってことでしょ?
671 学校の名無しさん 15:40:23
とりあえずその時間ならいけるなー。俺が凸して正体を見極めてきてやるよ。
672 学校の名無しさん 15:45:50
やめたほうがいいよ。この学校の怪談の中でもトップレベルのアンタッチャブルな話題なんだからね。
673 学校の名無しさん 16:10:45
じゃあ5、6人で行けばどうにかなるんじゃない? お願い、勇者様。正体を教えて。できれば写メって来て!!
「これ、何……のアプリ?」
玲子が偶然開いたアプリはネットブラウザだった。
そしてそこに表示されている画面を見て、彼女は目を剥いた。
……背中がじわりと寒くなる。
『龍宮院美加子』
六曰く、架空の人物。
けれど噂の中では実在する人物だ——でも一人だけ心当たりがある。
以前、こんな会話があった。
『無論、私だ。龍宮院美加子16歳。身長はやや高めで163cm。容姿端麗、スタイルは抜群。そして霊感を持ちの少女。性格は内向的、友達作りは苦手。趣味はネットサーフィンで、夜中まで紅茶を飲みながら過ごしている。そういう設定だ。彼女は二十年前に自殺をした、ということになっている』
そう答えた人物が一人いる。
しかも彼は前に似たようなことを起こした前例がある。
でも、流石に今回のはやりすぎだ。
あの時だってやり過ぎだと思ったのに、これではまるで生徒を自殺させようとしているじゃないか。
「自殺教唆……じゃないの」
度が過ぎるにも程がある。
それほどに流石に頭にくる内容だ。
だから玲子は直帰するのをやめた。
——ちゃんと部活をする。
そしてあの男に生徒全員に土下座しろと言ってやらなければ気が済まない。
「今、四時半か。そろそろ来てもいい頃ね。あれ、高橋部長。小百合先輩はお休みですか?」
「うーん。授業にはいたんだけどね。何か夜に用事があるとかで帰ったよ。」
よく見ると元パソコン部員の数がもう一人足りない。
……何か嫌な予感がする。
最近、自分の周りでそういう現象が少なくなってきて、感覚が麻痺……というより普通に戻っていたので忘れていたが、この学校には悪霊が取り憑いている。
そしてその悪霊を刺激する方法を知っている人物がいる。
————今回はまさにそういうことだ。
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