20 重り

「クソ.......本当に来やがった.......!井村ァ!オメーがちゃんと始末しとかねぇからこうなってんだぞ!」

「あー、すいません。でも今はそんな事言ってる場合じゃなくないすか?」

「うるせぇ!舐めた態度取りやがって......。チッ.......なんでこんな事に..........加納!あのクソ共はどうなってる!?」

「どうもこうも.......俺の力はあくまで範囲内に人が何人いるかわかるだけです。人数はさっきと変わらず三人増えただけです」

「正面の連中からは連絡が無い.......地下駐車場か。石田って奴と札森とかいうガキと?あとはこの前井村が逃がしたガキ。いくら変な能力を持っていたって所詮ガキはガキだ。あの二人なら............」




男はかざした手を思い切り握る。

「うっ!?」

瞬間、前に出ていた石田さんが勢いよくその場に膝をついた。

「石田さん!?」

「なんだ.......重い......?」

もう一人の男が動きだしたと同時に浅田さんも前へ踏み出し、バックから取り出したバールで殴りかかる。

「オラァ!」

が、その勢いが急に方向を変え下へ落ちていく。

「あ?」

地面に吸い寄せられるように膝をつき、手に持っていた凶器は体制を取る為の杖へと成り下がっていた

「重......ンだこれ.......」

いつの間にか浅田さんのまで来ていた男の鋭い蹴りが彼の顔面を大きく蹴り上げた。地面に倒れた浅田さんは立ち上がろうとするもなかなか立ち直れない。それはまるで何かに押しつぶされるような動きだった。

「!」

その光景に気を取られているうちに立ち上がっていた石田さんは間合いを詰め殴りかかる。男の方もそれなりに格闘の覚えはあるらしく、その攻撃を捌ききっている。

ふと横へ目をやると男の片方が石田さんたちの方へ手を伸ばしていた。

「っ!」

考えるより先に足が動いていた。相手に飛び掛かり体をぶつけ、体制を崩した男は倒れこむ。馬乗りになって顔面へ向けて拳を振り下ろすが躱され、拳は硬いコンクリートへぶつかる。襟をつかまれ後ろへ体を投げられ、背中が地面に打ち付けられ痛みにうろたえながらも必死に立とうとするが立ち直るのが早かったのは男の方だった。

「そこで寝てろ!」

男は手をこちらに向ける。すると体が急に重くなった。まるで全身に重りをつけられたような、そんな感覚だった。

「どうなって........」

立ち上がろうとしても、背中の痛みも相まって床にひれ伏してしまう。

「俺は重さを倍に出来る。自分に押しつぶされちまえ.....!」

上がった息を整え冷たい顔でそう言うと、男はこっちの頭を思い切り踏みつける。物凄い痛みだった。痛覚が一瞬麻痺してしまう程の鈍くて大きな、そんな痛み。力を振り絞り顔を上げると床には鼻血で血だまりができていた。

「オイ!手を貸せ!」

前を見ると男の片割れが石田さんたち二人の猛攻を耐えながら叫んでいた。男はこちらを睨み、小さく舌打ちをしてそれに答えるようにそちらへ手をかざした。深呼吸をし、歯を食いしばり手を握る。すると前で石田さんの動きが鈍くなるのが見えた。同時にこちらの体は軽くなる。

「クソォ!」

ヤケクソにバールを振り回し、男がよろけたタイミングを見計らい浅田さんがこちらへ駆け寄って来た。

「立てるか?札森」

肩を借りて立ち上がる。腕で鼻血を拭い、フラつく体に力を入れなおす。

「まだやるつもりか.......?いい加減諦めろ!」

「札森。あの体を重くする力、けっこう不便みたいだぜ」

浅田さんが小声で語りかけて来る。

「アレ、結構体力使うらしい。あいつ手をかざしてる時ずっと心拍数上がりっぱなしだ。相方の戦闘に参加しないのもそういう事だろ」

「体力整えないと力が使えないならアイツとお前が戦ってるり妨害は入らない。片割れは俺と石田さんで何とかする。アイツを頼めるか?」

相手は大人で超能力者。負けたら仲間の命が危ない。そんでもってこちらにあるのはイマイチ使いどころのわからない能力。

「前にもこんな事あったっけ.......デジャヴって奴かな........」

緊迫した状況のはずなのに自分でもよくわからない笑みがこぼれた。

「何?」

「一応、俺の方がこの力手に入れてから長いんですよ?」

「へぇ~。そんじゃ頼むぜ?先輩!」










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