17 傷
「それ.....本当ですか?光の玉って?」
恐る恐る質問を投げかける。彼の顔からは混乱が読み取れたが、瞳の奥では確かに何かを見抜いていた。
「あぁ。見ようと思えばしっかり見える。っていうか逆に見ようとしなきゃ見えねぇんだ。点滅のタイミングも人それぞれで車のヘッドランプみたいにチカチカしてる。光の強さは皆同じかな......」
(点滅する光?一人一つ?これが能力なのか?それってどんな?)
人混みの中で雑音を耳に入れながら思考を回してますます意味がわからなくなっていた時、頭に冷水をかけられたみたいに消防車のサイレン音が入り込んできた。
「とりあえず......行きましょ。浅田さん」
随分遠くなってしまった石田さんの家へ向けて歩き始めた。
閑静な住宅街。いつもならそうなのだろうが、少し遠くでボヤ騒ぎのある今日はサイレンの音が静寂を乱していた。
「まぁまぁやるじゃんオッサン。なんでそんな熱くなれんのか俺にはわかんねぇわ」
街頭に照らされる二人の男がお互いに息を荒げていた。
「元警官を......あんまり舐めないで欲しいな........」
「元........警官?........なるほど。あんたが」
不敵な笑みを浮かべて男は呟いた。
「何?どういう意味だ!」
「別にどうも........それより警官やってたんだろ?なら自分がどれだけヤバい事に首突っ込んでるかわかんだろ。就活でもしてた方が身のためだぜ?"元"警官のオッサン」
「ご忠告どうも。でも悪いな、お前みたいな青臭いガキに労わられる程腕前は衰えてねぇよ。あんまり見くびってると足元すくわれるぞ!」
素早く間合いを詰め棒状のスタンガンを首筋に振り下ろす。よろけた男につかさず蹴りを食らわせ、更にみぞおちを狙い拳を入れる。
「うぐっ!」
男は腹を抱え数歩下がり膝をつく。息を荒げてながらゆっくりと顔を上げて石田を睨みつけた。
「さてと。色々聞かせて貰おうかな?」
「クソ...........」
ふざけるなと言わんばかりに凶器のような鋭い眼差しで見上げて来る。
「.......?そのタトゥー..........」
「はぁ.......めんどくさ」
そう吐き捨てた直後、男はアルミホイルを取り出し強く握りしめる。
テニスボールほどの大きさとなったそれは電流が走り眩い光を周辺にまき散らした。
「!?」
目が眩んだ一瞬での出来事。気が付けば石田は倒れて、右の頬に遅れて鈍い痛みがやって来る。その事を理解したと同時に無意識に足は動き、立ち上がっていた。
「チッ.......まだ立ち上がんのかよ.........タフな奴め。めんどくせぇけどお前とはまたいつか会う事になりそうだな」
「待........て........!」
その場から立ち去る男を追う力は既に彼に残されてはいなかった。
「クソ........俺も弱くなったな......」
壁にもたれてそのまま座り込み、一言つぶやく。
「.......さん!お父さん!早く起きてよ!今日は遊園地に行くって約束したでしょ!」
「え.........あぁそうだったな、うん。悪い、今起きるよ」
妻の死から1年。年月という物は人をあっという間に変えてしまう。当時あれだけ深く悲しみ、心に傷を負い、もう二度と立ち直れないんじゃないかとまで思った最愛の人の死を、今こうして乗り越えているのだから。
「もう。昨日あれだけ言ったのに寝坊するだなんて」
「いいじゃないか。今こうして起きてるんだし」
いや、自分の心を立て直してくれたのは時間ではなく、娘なのかもしれない。人は守りたいと思える物に出会った時、強くなれる。彼女の顔を見るたびに、心の底からそう思う。
「お父さん!早く!熱いよ!」
「.......え?」
「熱い!助けて!お父さん!」
「待て!今助けに................」
手の甲に落ちる水滴で目が覚めた。自分の目から垂れる水滴を触って確かめる。
「チッ........オッサンが泣くかよ普通」
ゆっくりと立ち上がり空を見上げると眩い光が目に差し込んできた。
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