15 気怠さ
街灯の無機質な明かりに照らされながら見慣れた道を必死に走った。
「学校から角を曲がって.......十字路を右........!」
息切れをしながらも足を動かしただひたすら前に進んだ。無我夢中で走っていたからだろうかその時の速度は自分でも驚く程速くなっていた気がした。
電話から聞き取れた僅かな情報を頭の中で必死に組み立て、言われた場所へたどり着いた。そこには、見知らぬ男と地面へ倒れていた浅田さんの姿があった。
「浅田さん!」
「誰?君」
男は冷酷な目線でこちらへ話しかけて来た。
「札........森.......」
そう一言呟いた浅田さんにはまだ微かに意識があったが、明らかに危険な状態だった。
「札森。札森守.........お前が荒谷をやったのか」
荒谷。聞いたことの無い名前だった。
「お前浅田さんに何をした!」
「あぁ知り合いだったのか。ちょっと眠ってもらうだけだよ。気にしなくていい」
浅田さんの事には興味を示さずに淡々と呟いた。
「そうそう。荒谷の事だけどさ、別に怒ってるわけじゃねぇよ。ああいうのはいつか調子乗ってしくじるタイプだと思ってたけど意外と早かったな。まぁ人手が減ったってのはちょっと悲しいかもね」
男は少し微笑みながら話を続けたがどうにも相手の感情がつかめない。わかるのはこの男の笑顔が上っ面で出来ているという事だけだった。
「君、物を止められるんだっけ?まぁいいや。大人しく俺についてきてよ」
どこかで聞いたような台詞を静かに告げて来た。
「いいよ。NOっていう回答が来るのはわかってるから。ただ一つ言っておく事がある。俺を荒谷と同じに見ない方がいい」
男の眼付が一変した。
「覚えてないか?君がムショに送った奴だよ。運がよかったのかあいつが弱かっただけなのか知らないが自分の能力を過信しない事だ」
そう言うと男は身構えてこちらを鋭い眼差しで突き刺してきた。瞬間、素早く間合いを詰め殴りかかって来た。男の攻撃は激しく、捌ききれず腹に一撃食らってしまった。まるで大きな鉄球でも食らったような鈍く、重い一撃に膝をついて嗚咽を地面にぶつける。
「やっぱ大したことないじゃん」
男は冷徹にそう一言投げかけて来た。
「君もわかってるだろう?これは「戦闘」じゃない。一方的な「狩り」だ。無駄にこれ以上傷つくこともないだろう?大人しくついてきた方が賢明だと思うけどなぁ」
気怠そうにそういう男とは裏腹に自分の体は闘争を選んでいた。立ち上がり数歩下がって距離を取り、身構える事で改めて断るという意思をぶつけた。
「は~。だっる」
「あのさぁ.......俺だって暇じゃねぇんだよ。これ以上争って何になる?勝てないってわかってんだろ。くだらない正義感なんて捨てちまえよ」
無鉄砲に突っ込んでいく。振り下ろした拳はかわされたが、そのままそれを捨て服を掴む。男の服は止まり、困惑してる顔に一撃入れる事が出来た。
「これがあいつの言ってた「止める」って事か.......ほんとだ。動かねぇや」
しかし、そのまま腕を掴まれてしまい、強靭な握力を振りほどくことが出来なかった。さっきの一撃で出た鼻血を右腕で拭いながら男は続けた。
「荒谷の陳腐な能力には勝てたかも知れねぇけどよぉ......俺だったらどうかな?」
その瞬間、男の腕から電気が流れて来るのが分かった。全身が痺れ、腕を離されたと同時に倒れてしまった。
「電気.......シンプルだけど結構使えるぜ?ちょっと気絶させるくらいは容易い。その気になればお前の全身黒焦げだ」
得意げそうに話す男はこちらへゆっくりと歩み寄ってきた。ダメかと思ったその時だった。
「守!」
石田さんだった。倒れている高校生二人と男一人。何があったかは大体察しがつくだろう。
「誰だあんた.........あぁ。もしかして荒谷の言ってたやつ?」
視線をこちらへ向けてそう言った。
「あんたも能力者?大漁だなぁ.......今日は」
「俺の連れに何してくれてんだお前」
石田さんの一言はいつにもまして頼もしく聞こえた。
「守!二人担いで逃げるのは無理だ。走れるか?」
「走れます!」
力任せに答え、痺れる体を無理やり動かし浅田さんの方へ駆け寄った。
「この場は任せろ!お前は出来るだけ遠くへ!」
その声を後に、浅田さんに肩を貸しながら前へとただひたすら走った。
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