13 友人
「君のせいじゃない」
そんな言葉はあまりにも無責任だった。それが自分への慰めとして放たれた言葉ならば感謝すべきなのだろうが。昨晩、一人の男子中学生が自殺した。もっとも自殺と判断できるのはその光景を直視した自分と石田さんだけだった。何故彼が自殺という手段を選んだのか。それは自分のせいなのか。人によってはこの状況を降りかかる火の粉を払っただけだと考える事もあるだろうが、間接的とはいえ自分が人を殺してしまったんじゃないかという罪悪感とあの時点で止めれた事は正解で彼があの先更に奪っていたかもしれない命を自分は守れたんじゃないかという大義名分。どちらが正しいのか。多分どちらでもよいのだろう。だが自分のような精神のか弱い人間にはどちらの考えもとれなかった。ただ彼が死ぬなんて思いもしなかったと自分に言い訳を言い聞かせ続けていた。
「お出かけか?」
「はい.......ちょっと散歩でも」
「そうか.......そうだな。気分転換も必要だろう。あまり遅くまで出歩くなよ」
昨日の件で肉体的にも精神的にも疲れ切った自分を石田さんは気遣ってくれた。
特に行くあてもなくただ街を放浪し、1時間は歩いただろうその時、後ろから自分を呼ぶ声がした。
「札森?お前札森じゃねぇか!」
しばらく会っていなかった友人だった。
「あぁ......久しぶり」
「久しぶりじゃねぇよ!どうしたんだよ急に休学するだなんて!家に行ってみても誰もいねぇし、それに聞いたぞ......親父さん、大丈夫なのか?」
彼の口からはため込んでいた物が一気に噴き出したようにいろいろな事を一気に聞かれて返答に困った。
「ちょっと色々あってさ.......」
「色々ってお前なぁ.......何があったのかは知らねぇけどさ、相談してくれればいつでも話に乗るよ。だからあんま無理すんなよ」
「ありがとう.......それじゃ」
彼との会話を終えた途端、頬を何かが伝う感覚があった。自分でも気づかないうちに涙を流していた。別に感情的じゃないとは言えないが誰かの善意で涙を流すことなど今までめったに無かった。いっそ全てを話してしまいたいという決して言葉に出すことの出来ない感情、友人への感謝。それらは涙となって自分の外に流れ出す。涙をぬぐい感情の整理をすると、気づけば夕暮れ時になっていた。
「おかえり」
石田さんは常に何を考えているのかわからないような顔。ポーカーフェイスという奴だろうか、そんな表情をしているが、決して感情がないというわけじゃない。自分が昨日の事で悩んでいるという事を察してくれたのだろう、あまりしない雑談をその日はしてくれた。
「昨日の事、まだ引きずってるか。」
「そりゃまあ.......目の前で人が死ぬなんて......そんな事滅多に無いですし.......」
「そうか......まぁそうだよな」
「大丈夫ですよ。このくらいの覚悟は出来てましたし」
作り笑顔で虚勢を張る。元はと言えばそうだ。この件に首を突っ込んだのは自分自身だし、こんな所で弱音を吐いていて言い訳が無い。
「今こんな事を言うのは酷かもしれないが俺たちは昨日のあれ以上にキツイ光景を見る事になる。でもまぁ......無理はするなよ」
全く不器用な人だ。励ましてるんだか脅してるんだか。
「おやすみなさい」
おかげでその一言は笑顔で言う事が出来た。
「3年C組浅田良治。この人が流星群で流れ星に接触したっていうんだな?」
平日午後の喫茶店はサラリーマンや大学生くらいの大人などが数人だけいた。
年は同じのくせに学生服と私服の少年二人で話をしている光景は少し異端だったかもしれない。
「あぁ。友達の入ってるバスケ部の先輩なんだけどよ、その人が言ってたらしい。流れ星が落ちてきてそれを拾ったら中からガスが出て来たって。周りはくだらない嘘だとか言ってたらしいけどお前が探してるって人にピッタリじゃねぇか?」
コメットに接触した人間の周りをマークし、その事を尋ねて来た奴から例の「組織」の事を聞き出す。油冴町全体か、もっと広範囲に落ちたのなら可能性は低いかもしれないが、学校の生徒がコメットを拾った可能性を信じ友人を頼った。
「あぁ完璧だ。その人の住所とかってわかるか?」
「いや友達も知らないし、知ってる人とか知り合いにいないし......」
「じゃあさ、バスケ部って何時に終わるとかわかるか?」
「確か昨日5時過ぎにバスケ部の連中が集団で帰ってたかな......」
「ありがとう。恩に着るよ」
注文したコーヒー代をテーブルの上に置き、店から出ようとする。
「札森!」
友人が呼び留めた。
「どうした?」
「お前が頑なに事情を話そうとしないってのはそれなりに事情があるのはわかるよ.......でもさ、俺に何かできる事があれば言ってくれよ」
「あぁ.......ありがとう」
まったくいい友人を持った。
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