12  狂気

吉田仁の猛攻から辛くも生還し、溢れ出る疲労感に背中を押されいつの間にかその場に膝をついてしまっていた。いつかみたいに頬を伝う大量の汗。一粒一粒の感覚が正確に伝わって来る。

「そうだ.......石田さんに連絡入れないと.......」

携帯をポケットから取り出し、石田さんの電話番号を入力している最中だった。後ろで何か這いずる音がした。

「!?」

振り返った瞬間、足もまともに動かさず飛びかかって来た彼に首を掴まれそうになったが、ギリギリ首に手のひらが届く前に彼の両手首を握り抑えた。もはや彼の顔に理性という物を感じさせるものは消えていた。

「タフな野郎め........!」

違和感に気付いたのはその時だった。止まらない。彼の腕を掴み力を込めた。だが彼の力は止まるどころか逆に力が強まるばかりだった。一か八かで服を掴みかかるか。だがその瞬間首を掴まれれば.........動こうにも動くことが出来ない。

「死んで......たまるかよ.......!」

自身の力が切れるのも時間の問題だった。状況に絶望しかけたその時だった。

「ガァッ!?」

首にスタンガンが押し当てられ、彼は地面に倒れこんだ。

「守!無事か!」

聞きなれた声に安心した。

「石田さん遅いっすよ.........」

苦笑いし静かに呟いた。





「そんで.......どうするんすかコイツ。警察にでも突き出すんですか?」

「いや、その前に色々と聞くことがある」

石田さんは冷静に彼の手を縄で縛りながら話した。

「まぁ何はともあれ無事でよかったよ。まさかつけられていたのはこっちだったなんてな」

「うぅ......」

彼が目を覚ました。

「お前ら........殺して.......」

「単刀直入に聞く。この一連の事件はお前の仕業だな?」

目を覚ますなり顔を顰め暴言を吐く彼とは対照的に石田さんは冷静に淡々と彼に質問を投げかけて行った。

「だったらなんだってんだよ.......俺は俺の事を馬鹿にする奴は全員殺してやるって決めてるんだ......」

「なるほど。所でお前のその「力」。落ちた流れ星を拾ったな?その時誰かにその事を聞かれなかったか?」

「黙れ.......俺はこの力を手に入れてから.........母さんを......母さんを.........母さん母さん母さん!やめろ!やめてくれ!お願いだよ母さん!うぁあああああああ!」

またさっきと同じように暴れ始め彼はロープを溶かし、見えない何かを必死に掴もうとしていた。

「守!近寄るな!」

石田さんに言われ2、3歩後ろに下がりその光景を警戒しながら傍観していた。

すると彼は手をついて地面に対して嗚咽を浴びせていた。

「もう一度聞く。お前は誰かにその事を聞かれたか?」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!どいつもこいつも.......あの高校生もあの男も!俺の事を連れて行こうとした奴も!俺の事を笑って!」

石田さんの表情が変わった。

「おい!そいつはどんな顔だ!特徴は!」

質問を次から次へと投げつける石田さんを無視して彼は地面に声にならない叫びを吐き続けていた。その時異変に気が付いた。

「石田さん!そいつの地面!」

地面の彼が手をついている部分が溶岩のような粘っこい液体になっていた。

「母さん!俺は!俺は馬鹿なんかじゃないんだ!」

空にそう叫んだ次の瞬間、彼はその部分に顔面を突っ込んだ。目に飛び込んできた衝撃にただひたすら絶句していた。ふと石田さんの方を見ると何かやるせないような表情をしていた。

「........守。帰るぞ。」

数秒が流れ、石田さんは無理やり口を動かすように言った。


自分と同じ境遇だと思ったものの本当に自分と同じ人間なのかと疑ってしまう程の狂気に出会ってしまった。一体何が彼をあんな生き物にしてしまったのか。これもコメットの力なのかそれとも............。結局この一件は彼の死をもって表沙汰にならないまま警察内部のみが知る未解決連続怪死事件として幕を下ろした。










「うん。死んでるよ。コメットのガキ。多分能力に目覚めてたっぽい。

自殺かなぁ.......にしてはちょっと気になる点もあるけどあのガキどうも情緒不安定っぽかったしな........まぁ他のコメットを使ったと思われる奴を調べてみるわ。それじゃ。」












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