11 ウマシカコメット

「なぜ俺の名前を知っている」

野太い声を響かせ少年は睨みながら言った。威圧感に圧倒されたまま言葉も出せずに少年をじっと見て、睨み合いが数秒続いたが、瞬間少年は俺の喉笛に掴み掛かって来た。反応できずに首を掴まれそのまま締め上げられる。

「アガッ.......熱い......熱い!!」

首の温度、正確には掴まれている部分すなわち少年の手のひらがだんだんと熱くなっていくのが分かった。

(被害者は全員首や頭を溶かされていたよ)

現在の状況がただの喧嘩などではなく自分が今まさに殺されようとしているのがようやく理解できた。自分の中の恐怖心に突き動かされスタンガンを前へ突き、どこに当たっているのかもわからないままスイッチを入れる。

「!?」

どうやら脇腹に入ったらしく、驚いた顔をして少年は両腕を首から離した。

「無関係の人間何人も殺しやがって.......なんでこんな惨い事が出来るんだ!えぇ!?」

恐怖を紛らわすために大声を張り上げる。

「黙れ........あの三人はきっと俺を見て笑っていたんだ。あの男は俺をつけてまで馬鹿にしてきた。どいつもこいつも俺を馬鹿にしている。俺の事を馬鹿にする奴は全員殺してやるんだ!」

「そうやって自分の母親まで逆恨みで殺しやがったのか?」

そう言った途端、彼の顔が怒りから消え、代わりに焦り、悲しみのような顔が浮かび上がるのが見えた。

「違う.......違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うんだ母さん!俺は...........俺はもう母さんを苦しませたりしない!俺はもう馬鹿じゃないんだ母さん!」

見えない何かに必死に謝り続けるその光景は明らかにマトモじゃなかった。それを見て何か哀れな気持ちになり呼びかけた。

「何があったかは知らないがもうこんなバカな真似はやめろ!」

「今........なんて言った?」

自分が相手の地雷中の地雷を勢いよく踏み抜いたのに気が付いた時にはもう遅かった。

「うるさい.......殺してやる!殺してやるんだ!俺の事馬鹿にした奴皆!」

さっきと同じようにこちらにとびかかって来た。

(授業参観?行くわけないでしょ?まだ私に迷惑をかける気?本当に馬鹿ね)

「殺してやる....!」

(何度言えばわかるの?私に恨みでもあるの?この馬鹿!)

「殺してやる......!」

(本当に何度も思うわ.....あんたみたいな馬鹿産まなきゃよかった)

「殺してやる!!」

彼の攻撃に理性は無く、まるで荒れ狂う猛獣のようだった。こちらに向かって何度も掴み掛かってくる。

(溶ける.......溶かす........。掴んだ物を熱しているとか.......?)

少し距離を置き、スタンガンを空中に「配置」し、狙い通りこちらに向かってくる彼の腹に先端が当たる。少し苦しい顔をしてよろめいた左の頬を思い切り殴り飛ばす。人の顔面を全力で殴ったのはこれが初めてだった。

「母さん....もう俺は馬鹿じゃないんだよ.......もう誰にも俺の事を馬鹿だなんて言わせない......だから母さん.........俺の事を認めてくれ......愛してくれ.......」

声が小さく何を言ってるのかわからなかったが、淡々としゃべりながら立ち上がり、彼は道路標識の根本を掴んだ。すると彼の掴んでいた部分は溶け始め、切断されたそれはいつの間にか凶器になっていた。

「死ねぇぇぇ!!」

掛け声と共にこちらをめがけ思い切り振り下ろしてきた。かわす事も出来たのだろうが自身の闘争本能はそれを選ばなかった。振り下ろされた道路標識をなんとか受け止めそれを空中に置くように「止めた」。彼がそれに気を取られている間にもう一発顔面に入れようとしたが、服の袖の上から腕を掴まれた。

「あの男と同じように腕を溶け落としてやる!その次は足だ!全身グチャグチャの泥にしてやる!!」

掴んだ俺の腕を熱し始めようとするその時だった。

「...........?」

中に浮かぶ道路標識が地面へと落ちた時、彼は困惑していた。

「俺の能力は物を止めるんだよ.......止まった物は俺が動かさない限り動かない。止まってるんだぜ?形を一切変えないまま........」

「止まった物は形を変えずに動かない。動力も熱も意味が無い!」

腕を掴まれる寸前服の袖を止めた事は正解だった。安堵したと同時に今度は左腕で右頬を思い切り殴った。

「もうこれ以上誰も死なせない。死なせるわけにはいかないんだよ、馬鹿野郎。」

倒れこんだ彼の頭を思い切り踏みつけた。

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