10 怒り

「何?.............そうか.....わかった」

石田さんは暗い顔をしながら電話を切った。

「別の協力者から話があったよ。悪いニュースだ。6人目の被害者が出た」

「それじゃ昨日の夜また誰かが殺されたってことですか!?」

「あぁ。相田弘樹......俺が雇っていた私立探偵だ。他の被害者と同様に腕が溶け落ち、顔がグチャグチャになっていたそうだ」

もう既にこの町で6人も死人が出ている。未だに現実味が無いように感じていたがその全員が惨い最後を迎えている。そしてこの件にかなり深く関りを持っている身としては、心の中に助けられなかった悔しさと犯人に対する怒りがあった。

「もうこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。見たところ犯人は夜になると殺人を始める。昼の間に居場所を割り出して夜に叩く。いいな?」

「はい。」

本当に自分なんかが連続殺人犯を止めることが出来るのか。強い不安に耐えながら返事をする。石田さんの車に乗り、犯人が潜むと思われる一帯にやって来た。

「この辺りだ。別行動をしよう。6時にこの場所で集合し、それからもう一度別行動。どちらかが犯人を見つけたら連絡をして二人で倒す」

「えっ.....てことは........」

「それまではひたすら聞き込みだな」

冗談じゃない












「どうだった?何か情報は?」

どうもこうも深夜に出歩いている奴なんてほとんどいないだろ。通行人、町の住人、様々な人から不審な目で見られる数時間だった。

「有力なのは誰も。やっぱ直接深夜に探し回る方がいいんじゃないすか?」

「まぁ......そうだな。よし。一旦家に帰って10時からまた探そう」

疲れ切った足腰を車に乗せ、数十分揺られて家に着く。

「はぁ~疲れた.........」

不意に口から言葉がこぼれる。

「お疲れ様。まぁ夜に備えて寝ておけ」

「はい..........わかり........ました............」

気絶するみたいに寝てしまった。

「..........おい!もう10時だぞ!起きろ!」

「え?」

寝た時から一瞬しか経っていないように感じたが、もう既に数時間が流れていたらしい。

「ほら、支度しろ。早く行くぞ。」

ぼーっとする頭を無理やり動かして車に乗り、昼来た場所へと向かった。到着し、止まった車から出ようとした時だった。

「ちょっと待て」

「え?」

「少し怖いかもしれないが俺たちは今から連続殺人犯と戦う。これを持っておけ」

石田さんは棒状のスタンガンを取り出し、渡してきた。

「気絶させるだけでいい。隙を見つけたら脇腹や首元に電流を流せば気絶させられる。だが無理は絶対にするな。本当に命の危険を感じたら全てを忘れて全力で逃げろ」

スタンガンなんて使った無いのに.........なんてことを考えながら車から降りる。

「それじゃ俺はこっちの方を探してみる。君は向こうを頼むよ。犯人を見つけたらまず連絡してくれ。わかったな?」

「はい」

恐怖心を押さえつけるようにスタンガンを強く握りしめて返事をした。

周りに警戒をしながら暗い夜道を歩いていく。人の気配はなく、無機質な街灯の明かりと静けさだけが感覚に入って来た。

「やっぱいねぇな........大丈夫かな石田さん........」

探し始めて20分程度が経過した。

「そういえば犯人は15なんだっけ?俺より年下かよ..........何人も殺しやがって........」

恐怖を紛らわすためなのか、無意識に独り言を話していた。

「名前は.......吉田仁とか言ったっけ?」

そう言った瞬間だった。

「やっぱりみんなそうだ。俺の事を探して.......俺を馬鹿にして........どいつもこいつも!殺してやる!」

声に反応して振り向くと、怒りに顔を歪めた少年の姿があった。

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