7 光

小さな水溜まりが出来る程滝のように滴る汗は止まる気配が無かった。ぼやける視界の中、力を振り絞り立ち上がる。

「そうだ!父さん!」

大切な事を思い出し、廊下へ出て玄関を見る。

「父さん!父さん!」

頭から血を流し倒れている父親を抱きかかえ安否を確認する。心臓の鼓動が聞こえていたが、問いかけに反応が無い。安心など微塵も出来なかった。

「どうしよう.......救急車?でも石田さんに連絡を.......クソッ!」

携帯を取り出し、119を押す。オペレーターに現在の状況と父親の状態を必死に説明して救急車を待ち、その間氷をタオルで巻き患部に当てたり、やった事など殆どない応急処置の知識を必死に絞り出し看病をした。しばらくすると救急車の音がドアの外にしてきた。警察もやってきて事情を話し、家の中に入り男の身柄を抑えに行く。「変な男が乗り込んできて父親の頭を鈍器で殴り、自身の身の危険を感じ、乱闘の末何とか鎮圧できた。」多少嘘も混ざったが現場の状態がまさにそれなので疑われはしなかった。

「父さん!父さんは大丈夫なんですか!?」

余程焦っていたのだろう。無意識に救急隊員の服を掴んでいた。

「わかりません........意識が戻らず、危険な状態で.......」

頭の中が真っ白になり、漠然とした不安に襲われ膝から崩れ落ちた。












「父さん、意識が戻らないって......もしかしたらこのままずっと........」

病院の外のベンチで石田さんと話をしていた。

「こうなる事を恐れていたよ......」

石田さんは顔を少し顰めた。

「君をこの件に巻き込みたくはなかった。そしてこれ以上巻き込むわけにもいかない。この件は俺が責任を取る。父親が戻るまで君の生活費も俺が負担するよ。だからこれまで通り........」

「ふざけんな!」

気がつけば大声を張り上げていた。

「俺の父さんは......もう二度と目を覚まさないかもしれないんですよ?なんなんですか?コメットって.......あの男の目的も知らないし、あんたがなぜ俺を助けてくれるのかもわからない。このまま俺にわかんない事に全部目を背けて忘れろって言うんですか?冗談じゃないですよ!」

「............」

石田さんは深刻そうな顔をして俯いていた。

「この件に首を突っ込めば君は普通の学生生活を送ることは難しくなる。それだけじゃない。あの男に負わされた傷よりももっと深く壮絶な傷を、痛みを負う事になるかもしれない。君のその「能力」を、俺たちを追い最悪命を狙ってくる連中と戦う。安易な考えで決める事じゃ無いぞ。」

「札森守。君にその覚悟はあるのか?」

「何もせずに黙り込むよりはるかにマシでしょう」

皮肉に石田さんは少し笑ってみせた。

「ついてこい。今君の目に映った少しの光に賭けてみよう。」

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