6 全力コメット
「オラァ!」
力任せに振りかざされた男の警棒を咄嗟に避けるとその打撃はテーブルにヒビを入れた。その光景からは相当な力が込められている事がわかり、もし体に当たろうものならば骨など簡単に折れる事が安易に想像できた。男の攻撃は数回に渡り続き、家具は傷だらけになり、花瓶は割れ、凄惨だった。
「ハァ......その手に持ってるモンは使わねぇのか?えぇ?」
男は手を止め、握りしめているだけの包丁を見た。
「所詮飾りじゃねぇかよ。人を殺す覚悟も無しにそんな物持ちやがって」
男に言われてムキになったのだろうか。包丁を構え、男に襲い掛かった。
「う、うぉぉぉぉ!」
が、自分のような素人がこんな戦闘狂に手が出せるはずもなく、腹に重い一撃が入ってきた。
「うっ!ゴホッ......ゴホッ......」
地面に倒れ、朦朧とした意識の中、必死に立とうとする。
「所詮ガキ、こんなもんか.......なぁ、昨日の俺にスタンガンを当てた男、誰だ?」
男は石田さんの事を尋ね始めた。
「人が質問してんだろぉ?なぁ!」
力強く背中を踏みつけられ更に意識が遠のく。
「おい!........チッ.......まぁ連れてった先で聞きゃいいか。連絡連絡っと」
いつかみたいに目の前がだんだん暗くなっていく。自分はどうなるのか。そのことが頭に浮かんだ。
(いや......そうじゃないだろう)
自分の事もそうだが、もっと大事な事がある気がして止まない。
(そうだ........父さん。俺が連れて行かれれば父さんはどうなる。あんなに危険そうな状態で放っておけない。それに俺と頻繁に喋っていた友達も俺と同様危険な目に合うかもしれない。ここでやられちゃぁダメなんだ。やるしか.......やるしかないんだ)
目を覚ますと無意識に男のズボンを掴んでいた。
「あ?なんだよまだ意識あんじゃん。なら質問に答えろよ........あ?」
男は違和感に気付いたらしい。
「んだこれ.......まさか!」
「ズボンが動かねぇ!」
まさか昨日男や石田さんの言っていた「力」とはこれなのか。そう考えながら包丁を持ちゆっくりと立ち上がった。
「チッ......クソ!」
男がそういうと同時に、男の腕に包丁を振りかざした。
「うぁぁぁぁ!」
ガードした男の右腕に切り傷を付ける事に成功した。と同時に男は歯を食いしばりながら警棒を横に振った。右肩に強烈な一撃が入ったが、今度は倒れなかった。
「油断してたよ........それと同時に後悔もしてる。こういう荒事は昨日お前が力に目覚める前に済ませておくべきだった。」
血が出ている傷口を手で押さえながら男は言った。「止まった」ズボンが再び動きだすなり男は殴りかかってきた。反射的に横に合ったテーブルを持ち上げ横から男にぶつける。男はよろめき、そこへもう一撃入れると男は体制を崩し倒れた。
「クッ.......クソがぁ!」
落ちていた花瓶の破片を男は空中にバラまいた。するとこの男も「力」を使ったのだろう。スローになった破片は空中でゆっくりとこちらへ向かってくる。それに気を取られたその時いつの間にか立っていた男は握り拳をこちらへ振りかざす。寸前でそれを見切りかわしてそのまま男の服を掴んだ。
「ガッ.......クソッ......動かねぇ........」
自分は無意識に男の服を「止めて」いた。落ちていた警棒を拾い、もがく男の頭めがけて警棒を力一杯振り下ろした。
「ウァァァァァ!!!!」
空中でスローモーションのように舞っていた花瓶は普通の物理法則に従い地面へと落ちる。止まっていた服も動き出し、気絶したであろう男は地面へ倒れこんだ。
「はぁ.......はぁ........」
満身創痍の自分はその場に座り込み、ただひたすら汗を流していた。
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