5 衝突

昨日起こった数々の信じられない出来事。自分に目覚めた謎の「力」

ただでさえ混乱が収まらないのに挙句の果てに「忘れろ」との無責任な言葉。

あの男はどうなったのか。石田さんは何故、何のために自分を助けたのか。

忘れたくても忘れる事などそうそう出来なかった。

「.......森!...........札森!」

中年男性の声が耳に無理やり入って来る。

「おい!札森!授業中だぞ!」

「あっ........すいません。」

「お前なぁ堂々と寝すぎだろ」

「はい...........」

昨日の疲れだろうか。気ずかぬうちに寝てしまっていたようだ。

「しっかりノート取っとけ!単位が欲しければな!」

不満そうな教師の説教に適当に相槌を打った。

「どうしたんだよお前?それにその傷。またボールでも当たったか?」

「別にどうもしてねぇよ」

友人に昨日の事を話す気にはなれなかった。まぁ言ったとしても信じてくれはしないだろうが。

「まぁ体には気をつけろよ。大怪我で入院とか言ったら留年かもしれねぇし。じゃあな!」

冗談交じりの心配を受け取り帰宅した。







家に帰り、改めて昨日の事を思い出した。物を止める?とか言っていた気がするがどうやって使うのかもわからない。試しにマグカップを手に取ってみた。

「止まれ!」

空中に置くようてを離す。が、マグカップは無慈悲にも床に落ちて縁にひびを付けた。

「まぁそんなはず無いか.......やっぱ昨日のって夢?幻覚?」

物が空中で止まる。にわかには信じられない光景だった。だがそんな事を言えば男にされたスローモーションのアレはますます説明がつかない。

「やっぱ忘れるか........ん?」

インターホンが鳴った。

「俺が出るよ。多分宅配便とかだろ」

一階から父親の声が響いてきた

(こんな時間にか.......?) 

時計を見ると既に9時を回っていた。

少し不信感を覚えたその時だった。

「ゴトンッ!」

一階から何かが倒れる音がした。

「!?」

急いで一階へ駆け下りた。玄関へ目をやるとそこには.........

「父........さん?」

父親が頭から血を流して倒れていた。

「よぉクソガキ。邪魔するぜ。」

血のしずくが滴り落ちている警棒を持っていたのは確かに昨日の男だった。男は土足でゆっくりと家の中へ上がってきた。

「お前は一体誰なんだ!なんでここが......なんで父さんを!」

恐怖に耐え精一杯声を張り上げた。

「お前が素直についてきてくれないからだろぉ?だからお前の親父はこんな目にあった。恨むなら自分を恨みな」

正気じゃない。なんでそんなに俺を狙うのか。あの流れ星はそんなに重大な物なのか。今すぐ石田さんに連絡を取るべきか。そもそもそんな隙あるか。頭の中は様々なことを考え過ぎて正常な思考が出来なかった。

「ッ!」

反射的にリビングへと逃げた。

「クソガキめ。さんざん手こずらせやがってぇ。今度こそは何としてでもついてきてもらうぜぇ?」

男の方も本気だろう。今度は怪我じゃすまないかもしれない。「やるしかない」。頭にそう浮かんだ。

「おい待てよ。」

男の方もリビングに入ってきた。

「今度は逃がさねぇって言って、」

少し動揺したのか男の言動が一瞬止まった。

「へぇ.........「やる気」って事かよ.......面白れぇ!でもなぁ!そんな物持った所で勝てるつもりかぁ?やってみろよクソガキ!」

反射的に手に取った包丁を片手に持ち、捕食者を威嚇する小動物のような目で男を睨みつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る