4 逃走

目の前に映る光景が信じられなかった。

さっきまで自分の体を痛めつけていた凶器は空中で止まって全く動かない。

「とうとう目覚めたか.......見たところ「止める」って力か?まあどっちみち想定内だし別にいいか」

男は不満そうに言った。力?目覚める?何を言っているかさっぱりわからない。これは自分がやったのか?夢でも見てるんじゃないかと自分自身を疑った。

「まぁ殺しは死ねぇさ。せいぜい「上」の連中に媚び諂うよう努力すんだな」

そういうと今度は拳にメリケンサックを静かにはめた。既に全身が痛むし、口の中は血の味がする。まだやるのか?自分は一体どうなってしまうのか。相変わらず頭の中は疑問でいっぱいだった。

「終わりだ」

あっけにとられてその「力」とやらが解除されたのだろう。警棒が地面に落ち男が拳を構えたその瞬間だった。男の後ろ、それもかなり近くから足音が聞こえる。極限状態の今、初めてそれに気づいた。

「あ?」

男が振り向くと同時に、スタンガンを脇腹に当てられてスイッチを押されたのが見えた。

「うっ!」

男は膝をついてその場に倒れこんだ。

「逃げるぞ」

知らないもう一人の男がゆっくりと話しかけてくる。

「あなたは......?」

「話は後だ。近くに車が止めてある。歩けるか?」

立とうとするも膝が痛む。

「少しつらいです......」

そう言うと男は肩を貸してくれた。さっきからいろんな事がありすぎて頭の理解が追い付かない。だが、ストックホルム症候群という奴だろうか。この男の事は流れるままに信用してしまった。そのまま車の助手席に乗り込み、男は運転席に座って静かにシートベルトをしめた。

「災難だったな」

男が話しかけてくる。

「あの.......あなたは?」

「俺は石田礼二。石田でいい」

「石田......さん?あの.......俺、わからない事だらけで......」

「まぁ無理もない。とりあえず俺の家に寄って君の手当てをしよう。」








「痛ってぇ!」

消毒液が傷口にしみて鋭い痛みが突き刺さって来る。

「我慢しろ。男だろ」

そんな事言われてもしょうがないだろう。痛いものは痛いのだから。

「あの........石田さん。さっきの男とか俺がこんな目に合ってるのとか......あと石田さんが俺の事助けてくれたのとかって......」

「君も「コメット」絡みの件だろう?」

「え?」

「落ちて来た流れ星を拾って開けた。違うかい?」

ドンピシャだった。たったそれだけでこんなにいろんな目に合うなんて相当まずい事をしてしまったのだろうか。

「はい。そうです。それで一体コメットって何なんですか?それにさっきの男も......あいつの言っていた「上の連中」って?あと変な「力」とか言われて......」

思っていることを片っ端」から声に出した。

「質問は一つづつにしてくれないかな。それに君をあまり危険な事に関わらせたくないんだ。さっきみたいに危険な奴だと判断したらすぐに逃げる。それと「力」は人前で絶対に使わない。君に伝えておくべき事はそれだけだ。」

まただ。一体何なんだ「力」とは。クスリでもやっているんじゃないのか?もっともそんな風には見えないが

「とりあえず今日は君を家に送る。さっきの事は忘れるのが一番だ。怪我は転んだとでも言っといてくれ。あと万が一の時はこの番号に連絡しろ。俺の携帯に繋がる。」

そういうと石田さんは紙を手渡してきた。忘れろと言われても色々と衝撃的過ぎて忘れられない。一体この先自分はどうなってしまうのか。不安が胸を覆った。













「.......あぁ。ガキは逃がした。知らねぇもう一人の男に不意打ちを食らった。

あぁ。札森ってガキだ。コメットを開けたのはあいつで間違いねぇ。もう既に能力にも目覚めていた。明日夜に家に行く。必ず捕らえてやるよ」





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