3 静止

「また会ったね」

帰り道で会った男だった

「こんな時間に何しに行くの?」

すぐにわかった。この男は俺を疑っている。

「いやぁ・・・・星を。星を見に行くんすよ」

「そう・・・・それにしても随分と急いでいるんだね」

「ええ・・・・まぁ」

「ところでさぁ・・・話が変わるんだけど」

「この先で流れ星が落ちてたんだよ」

「はぁ・・・そうなんですか」

「とぼけるなよ・・・・単刀直入に聞くけどさ、やっぱ君だろ?あの流れ星」

「いやぁ・・・実を言うと俺、見には行ったんすよ。でも開けたのは俺じゃないっす」

「開けた?おいおい何言ってんだよ。流れ星を「開けた」だぁ?・・・・・やっぱり君じゃん。「コメット」を開けたの」

しまった。心の中でそう思った時にはもう遅かった。

「コメット?だか何だか知らないですけどすいません。実はその流れ星は僕が開けました。まずかったですか?」

「いや、問題はそこじゃ無いんだよ」

「君さぁ変な煙吸ったでしょ。それがまずいんだよ。ちょっと俺と一緒に来てくれない?」

とても怖かった。男は一見優しそうな顔つきだったが、笑顔を無理やり作っているのがわかった。

「い・・・・嫌です。昨日のアレがまずかったなら謝ります。でも・・・親が心配するし・・・学校にも連絡しなきゃいけないし・・・」

精一杯言い訳を絞り出した。

「はぁ・・・・・・・」

男の作り笑顔は一瞬にして消え去った。

「チッ・・やっぱガキは苦手だなぁ・・・・」

「えっ?」

顔つき、口調、さっきまでとは何もかもがまるで違っていた。

「でもわかりやすいから好きだぜぇ?少し痛めつければ何でもすぐに言う事聞くからなァ」

そう言うと男は警棒らしき物を取り出した。

まずい。自身が状況がかなり危険な状況に置かれていることがようやくはっきりと理解できた。

逃げ出そうにも足がすくんで上手く動かない。

「面白い物見せてやるよ」

そういうと男は俺の腕をつかんだ。

「やめろ・・・・!」

腕を振り払ったと同時に違和感に気付いた。

「なんだこれ・・・!」

体が上手く動かない。いや、動きが鈍く、ゆっくりになっている。まるで映画で見るスローモーションのように。

「うわっ!」

そのまま地面にゆっくりと転げ落ちる。

「いってぇ・・・・」

「面白れぇだろ?これが俺の「力」だ。」

言っている意味がよくわからなかった。

「物や人の動きを鈍くすることができる。それが俺の力。鈍くした物は殴り放題だ。」

男は警棒で俺の体をゆっくり撫でると思い切り腹に振り下ろした。

「うぐぁ!」

鈍い痛みがゆっくりと俺の体を襲う。

「まだまだぁ!」

男は楽しそうに俺の体を殴り続けた

「オラァ!オラァ!」

痛い。ただそれの感情だけが頭に浮かんできた。

「はぁ・・・・こんなもんか。」

男は満足そうな表情を浮かべていた。と同時にその鈍くする「力」とやらが解除されたらしく、そのまま地面に倒れこんだ。

「どう?一緒に来る気になった?」

男が楽しそうに聞きこんでくる。

そりゃあイエスとしか言えないだろう。自分がなんでこんな目に合わなきゃいけないのか。なんでこんな痛い思いをしなきゃいけないのか。ただひたすらに疑問だった。

「お?んだよその目は」

どうやら反抗的な目をしてしまっていたらしい。感情を逆撫でされた男は俺の頭めがけて警棒を思い切り振り下ろそうとしたが、反射的に俺はそれを掴んだ。

「!?」

なんだ?全く力が入っていない。いや、男の表情を見るに力を入れようとしているのだろう。だが力は入っていない。

「てめぇまさか・・・!」

俺と男が同時に警棒から手を離すが空中でぴったりと静止して動かない。

「チッ・・・ますますてめぇを連れて行かなきゃいけねぇらしい」

不満そうに男はそう言った。

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