第9話 テンプレだって大事です
「さて、一定水準の作品を出し続け、それを無条件に読んでもらうにはどうすればよい?」
「つまり、私のファンを獲得せよと?」
「そのためには読んでもらう必要があるな」
「堂々巡りじゃないですか。結局のところ、私が書きたい物語じゃなく、時代が求めている、読まれやすい物語を書けってことですか?」
「悪魔に魂を売ってでも商業作家にこだわる姿勢は嫌いじゃないぞ?純文学では食えないが、ラノベなら食える。北海道に住んでいてサトウキビを作りたいって苦労するより、そこで適した作物を育てる。実に合理的だ」
「結局は、流行のテンプレを取り入れるしかないのですか……」
「そもそも、テンプレの何が嫌なのだ?」
「え?だって飽きません?異世界とか魔法とか」
「じゃあなんでそれらは人気があるのだね?」
「……面白いから」
「純文も、一般的な物語にも面白い作品はたくさんある。だがテンプレにはな、儂から見て、現実に疲弊した人々が救われる世界があるのだ」
「テンプレは救いですか」
「人気の物語は、その登場人物に成りたい、その世界で生きてみたいと思わせるものが多いな。死後、クソみたいな現世から解放され、クソみたいな上司を見返すような逆転の人生。そんなここではないどこかで幸せになる夢を見る」
「転生思想ですか?まあ、死んでもリトライできる可能性は嬉しいですね」
「でも、辛い思いはしたくない。楽してのんびり過ごしたい。それが無理でも努力が報われる世界ならありがたい」
「社長は現世に恨みでもあるんですか?」
「いや、この歳になると復讐心とかはどうでもよろしい。それより剣と竜と迷宮とかって憧れるじゃないか」
「やっぱり趣味じゃないですか。恋愛だって、こんな恋愛してみたい!って思わせるような物語、たくさんあるじゃないですか」
「異性に興味が無い層を切り捨てるのかね!」
「いや、そんなニッチな需要を掘り起こすつもりもないです。一般的な男女関係を描きます。もう決めました。意地でもそれにします」
「せめて魔法くらい……」
「じゃあ聞きますけど、魔法ってなんです?テンプレでもそれこそ大昔から語られるファンタジーの代表みたいな現象ですけど」
「魔法は浪漫だよきみ」
「浪漫はわかりますけど、私は原理がはっきりしないものを題材として取り上げたくないんです。社長が原理を教えてくれて私が納得すれば使いましょう」
「魔法は、不思議な力だ」
「……終わりですか?不思議とか謎とか、この科学的な現代なりの解釈を教えてください」
「きみ、もっとラノベを読み込みたまえ!さすがお兄様!とか自然に言えなくてどうする!サイオンもミノフスキー粒子もあるんだよ!」
「じゃあ聞きますけど、ファイヤーボールの原理を教えてください」
「火の玉を、飛ばすのだ」
「ウォーターボールは?」
「水の玉を、飛ばすのだ」
「それぞれ、火や水の属性魔法ということでいいですか?」
「ふむ。エアボールとかあまり聞かんが、まあいいだろう」
「火や水や、剣といった武器とか、どうやって飛ばしているのですか?飛ばすエネルギーって属性関係ないですよね?」
「きみィ!英雄王を愚弄する気かね!」
「え、あれも魔法カテゴリなんですか?」
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