第10話 とりあえず処女作です
「で、これが処女作かね『火球考察』」
「厳密に言いますとトレーニングも兼ねて5万文字規模の異世界モノを書いてますが、ちょうど六千文字以内という短編の公募があったので書いてみました」
「どれ……ふむふむ。これは先日の儂とのブレインストーミングから着想を得たのかね?」
「私が一方的に論破しただけですけどね」
「ふむ。まあ文法というか心情描写的になんだかなぁと思う箇所もあるにはあるが、まあ及第点と言えるか……」
「めちゃくちゃ上から目線ですね。もっとも指摘されても修正できないですが」
「ほう、そんなに自信があるのかね?」
「そうじゃないです。今回六千文字という制限があって、二時間くらいで書き上げたのですが、私の執筆方法に問題が発見されました」
「聞こうじゃないか」
「ほぼ自動書記です」
「意味がわからん」
「プロットとかがわからないので、とりあえず書き始めます。気が付いたら終わっています。内容を見直して修正したくても、どう直していいかわかりません」
「ますます意味がわからん」
「ラジオ体操の途中だけやるのって難しくないですか?」
「つまり、連続性?一本のヒモのようになっていて組み換えできないと?」
「理屈はわかりませんが、善し悪しはともかく繋がってしまっているので、違和感も含め一つの作品なんです。これは変だと思うのに、そこを直すと繋がりが絶たれた感じがして気持ち悪いです」
「作者にしかわからない調和か」
「不思議ですよね。書いてる最中は普通に書き直したりしてるんです。でも書き終えた!って思うと、よっぽどおかしな点以外は直せない」
「もう気分は大御所作家様というわけか?」
「たぶん違います。要はこれが素人の限界なんです。売れてる作家さんは決められた条件の中で何通りの道を選ぶことができる。物語の分岐点をたくさん持っている。でも私は、たぶん一つしかないんです」
「書いてみて初めてわかることもある、か。ならば、数を書くしかあるまい?」
「質を上げることじゃなくてですか?」
「質が高いとはなんだね?」
「万人に評価してもらえる?」
「良い作品と売れる作品は違うとも言ったが、全ては相対評価でしかないのだぞ?」
「やっぱり、売れる作品が正義?」
「それはまだ先の話だ。公募の場合、選者の好みに合致しなくてはならない」
「雲を掴むような話です」
「今回の公募は、「5分で読書」か。ふむふむ、三つのジャンルがあるのだな?」
「『最後はかならず私が勝つ』『通学路、振り返るとそこにいる』で今回応募する予定の『想いが伝わる5分前』ですね」
「全部に出したまえ」
「えー、とりあえず一つでいいじゃないですか」
「選者の傾向がわからないなら、趣向を変えてチャレンジするしかあるまい」
「だから、それでも雲を掴むような話じゃないですか」
「蜘蛛の糸は掴めるかもしれんぞ」
「誰が上手いことを言えと」
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