第7話 ジャンル選択大事です
「人気作、きみは読むかね?」
「そうですね、ランキング上位の作品はざっと目を通しています」
「それらを読むことで、面白い以外にどんな感想をいだくかね?」
「そうですね、よくこんなこと思いつくなぁ、ですかね」
「人が他者の創作に心躍らせる理由がまさにそれだな」
「自分では、想像できない世界を楽しめる、ですか?」
「ふむ。日本のような、無個性の人材育成、画一的な教育を行った結果、創作大国になっているというのは実に興味深い。逆に言うと、抑制された思考や行動が、想像力を培ったとも言える。妄想力やHENTAI文化と言い換えてもよろしい」
「嫌な文化ですね」
「エロが!文化を!科学を発展させたのだ!ビデオデッキやハードディスクの技術、ネットの送信速度が何故向上したか知っているかね?1メガにも満たない静止画が徐々に現れる美学を泣く泣く手放したのは全ては人の妄想力を満たすためなのだ!」
「セクハラですよ?論拠は否定しませんが」
「だが科学や技術は右肩上がりなのに、創作の世界には波がある」
「ブームですか?」
「うむ。ジャンルは段階的に生まれ、流行り、廃れ、その時々で受け入れるものは、めまぐるしく変わる」
「面白いだけじゃなく、時流に合わせた作品が必要なんですね?」
「それだけでもだめだ。やはり共通の概念を踏襲する必要がある」
「共通の概念?」
「結集した妄想は、今ではテンプレと呼ばれる概念の固定化に至ったのだ。プラットフォーム、インターフェイスの共通化と考えてもよろしい」
「みんな知ってる既知の情報ってやつですか」
「うむ。共通の概念があれば説明を省略できるし、その作品を読もうとする選択の要因にもなる」
「魔法、剣、ダンジョン、ドラゴン、異世界とかですね?」
「最近では、VRMMO、ざまぁ、令嬢、もふもふ、最強とかだな」
「たしかに、学んだ記憶が無いのに知っている語句ばかりです」
「教育として学んだ覚えがないのに知っている情報、つまり常識というやつだ」
「その常識を取り入れると読んでもらえるのですか?」
「テンプレは王道だからな」
「でも、日本は創作大国なんですよね?使い古された常識より新しい創造を求めているのでは?」
「新しい概念を浸透させるのは大変なのだ。書き手も読み手も相当な苦労がある。VRなんて今でこそ主流だが、パソコンが一般化するまではその概念を説明することすら困難だったのだぞ?」
「誰もが考えない設定や世界観は受け入れ難いというわけですね」
「だが、当たるとデカい。それに誰でも先駆者になりたいものだ。そして手垢にまみれていない場所にこそ金脈は埋まっているのだ」
「急にゲスくなりましたね。新しい価値の創出はともかく、まず、評価を得るためには読んでもらわなきゃならない。読んでもらうには評価が高くなければならない。評価を得るためにはテンプレが重要で、テンプレだけでは評価が得られない。矛盾だらけの論法に聞こえます」
「そのパラドックスを語る以前に、まずは、まっとうな文章で面白い物語を書く事が肝要だ」
「引っ張ったわりに、至極まっとうすぎる結論で驚愕しています」
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