第5話 勇者、理解する
翌朝、ケインは目を覚ました。見知らぬ天井、フカフカのソファ、そして暖かいブランケット。今までの旅の中で一番の寝床だったとケインは感じた。思考がようやく追いつくとこの状況が危機であるのではないかと思った。
「こ、ここはどこなんだ!?というよりこの場所は、この世界は何なんだ?」
ケインは立ち上がるとテレビや机に触りながら理解しようとしていた。しかし、一向にこの世界のことはわからない。
ブオーンという音が聞こえた。おれの右手側から聞こえる。剣に手をかけたがその手は空を切る。剣がない!?伝説の剣がないとなるとおれは勇者である資格などない。あの男が盗ったんだ、そうに違いない。そしてこの異音の武器でおれを倒す気か?
ガチャリという音がして男はおれの前に現れた。いやでも体が強張る。
「お、おれの剣を盗ったのはおまえk...」
「あ、起きた?おはよう」
おれの言葉を遮るように男は話した。
「あぁ、小道具のことですか?ほらそこにまとめて置いときましたよ。」
指をさされた先には大きな黒い板の下におれの荷物は全てまとめて置いてあった。急いで確認すると荷物は何もなくなっていなかった。
「寝ている時に倒したりして壊しちゃいけないと思って移動させちゃったけど、マズかったですか?」
「いや、気遣いありがとう。ところで、君は?」
いやに調子抜けさせる態度を見せる彼はおれより年上のように見えた。
「オレは熊田といいます。クマとでも呼んでください。歳は27です。そんなあなたは?どこから来たんです?」
「おれは、ケインだ。19になる。敬語じゃなく気軽に話してほしい。...信じてもらえないかもしれないがここがどこか分からないんだ。この世界ではステータスも見れないし、敵モンスターもいない。おれがいた世界とは全く違うんだ。」
クマはステータス?モンスター?と呟きながら確信を得たようにこう言った。
「ケインは別の世界から来たんだね?試すわけじゃないけど、これはなにか分かるかな?」
と言って薄い板を見せてきた。
「それは、通信端末だろ?昨日それで連絡を取っている人を見かけたよ。」
「正式名称は?メーカーの名前じゃなく総称で。」
おれは本当に知らないから黙っていた。
「本当にこの世界の人じゃないんだね。これは携帯、スマートフォンとも言うよ。」
そして昨日いた場所は渋谷というこの世界でとても有名な場所であること、この世界にはモンスターなどいない事を知った。
そうだ、とマオはおれのもとへ紙を持ってきた。
「オレの職場なんだけど、今求人かけてんの。清掃員なんだけどさお金もらえるし、今行くあてもないならオレの家に住みながらここで働いてみない?」
この提案にケインは断らなかった。いや、断ることができなかったと言った方が正しい。なにせ自分はこの世界では異端であったことを理解していたし、なにより住むところも生活に必要なお金もなにも持っていなかったからだ。他の仲間は無事なのだろうか、いやそんなこと案じている暇はおれにはないと考えていた。ケインはマオの優しさに甘えてしまうことへの申し訳なさとありがたさ、そして本当に別の世界に来てしまったことを改めて理解したのだ。
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