第3話 勇者、渋谷に降り立つ。

人が行きかう渋谷のスクランブル交差点。

「お兄さん、わたってわたって!」

見知らぬ男に促されケインは交差点を渡りきる。服装は変わっておらず一安心したのも束の間、ステータスが開けないことに気づく。

「こ、これじゃ魔法の解除も仲間との連絡も取れないじゃないか。」

困ったケインは周りの人に聞こうとあたりを見渡した。すると、周りには血まみれの女や面妖な面持ちの人間のようなもの、ケインに似た服装のものがいた。それもそのはず、現代では今日はハロウィン。そしてここは渋谷だ。


怪我を治してやらなければ、おれは勇者だから。あぁ、でもおれは今ハーブしかもっていないから、あの怪我は治せるのだろうか...。

「すみません、写真一枚いいですか?勇者のコスプレ似合ってます~」

数人の血まみれの女性達がおれに話しかけてきた。いやいや、まずは治療が優先ではないk

「いきますよ~、ハイ、チーズ」

めっちゃ盛れてる、やばいなど意味の分からない言葉をつぶやきながら彼女たちは薄っぺらい板を触っていた。

「そんなことより、治療をしなければ。誰にやられた、どこかにモンスターでもいるのか?」

彼女たちは顔を見合わせて、少し笑いながらおれに言った。

「演技までするガチ勢ですか?これは別に怪我じゃないですし、モンスターなんているわけないじゃないですか。」

私たちそろそろ行くんで、ありがとうございましたーと彼女たちは去っていった。それを聞いていたのか周りの人もおれを見て笑っていた。微笑みではなく嘲っていたのだ。おれはおれのことがわかる人に会えるまで歩こうと思った。こんなに大きな町なのだから勇者を知っている人がいてもいいはずだ。それに、仲間だって探せばいるかもしれない。


しかし、ケインを知る者は一人もおらず、ただ時間と体力を使うこととなった。途中でケインは薄っぺらい板は通信端末であることを知ったり、知らぬ人からお菓子をもらったりしたのだが菓子では腹は満たせない。疲労もピークだったため誰もいない公園のベンチに腰を掛けた。

「腹、減ったなぁ。ここはどこなんだろう。そしてなぜおれのことを誰も知らないんだ。」

敵もどこにも見当たらない、ここでおれは死んでしまうのかもしれないということすらケインの頭によぎっていた。もしかしたら、おれのパーティのやつらは別の世界にいるかもしれないとも思っていた。

そんな彼に近づく男がいた。ケインが気づいたころには間合いには入られていた。ケインは剣に手をかけていた。

「終電逃しちゃったんですか?オレの家で良ければ一泊していきます?」

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