第10話

「ほんっっっとうにすまなかった!!」

目が覚めると、頭を地面に擦り付けるギルバートさんがいた。

どうやら、ここは居間らしい。気絶したあと、とりあえず居間に移動して、カーナリアさんはメイド長に説教されたらしい。よく見たら隅の方でのの字を描きそうな雰囲気を出していた。

「···カーナは、Sランク冒険者だったんだ···」

頭を上げ、ギルバートさんはボソボソと話し出した。

カーナリアさんの生家は、魔物の襲撃の多い地域だったそうだ。伯爵令嬢だが、魔物の襲撃に備えて訓練するらしく、その一環で冒険者になっていたそうだ。

そして、気付いたら冒険者でのSランクになっていたらしい。

そのせいか力が強く、思わず抱きついたりすると相手が、気絶してしまうことが多々あるらしい、俺のように。

思わず二度見してしまった。


あの細さで??


「···ユウ、ごめんなさい···」

ギルバートさんの話が終わると、おずおずとしながら謝ってきた。

「大丈夫ですよ、もう元気です」

苦笑しながら言うと、華のような笑顔を見せる。

···ほんとに、Sランク冒険者?

そんな俺に、いつの間にか居たロマンスグレーの執事さんがお茶を給仕しながらこっそり耳打ちをした。

「奥様は頼りなく見えますが、旦那様より物理的に強いのです。旦那様は奥様に頭が上がらないのですよ」

なるほど、尻に敷かれているのか。

それにしても···

「···ここは、身分の違いを感じませんね。とても温かくていい所です」

お茶を受け取って、ぽつりと呟くと執事さんは優しく微笑んだ。

「ええ、とても良い家です。貴方様も今日からこの家の一員ですので、力を抜いてください」

気を張っていたのに気づいていたようだ。

ふと目を落とすと、渡されたお茶はよく冷えたレモンティーだった。今日は暑かったのと、紅茶に慣れていないであろう事を考えて庶民にも飲まれている物にしてくれたのだろう。孤児であろうと、家族として扱ってくれることに胸が暖かくなる。

「そうよ!今日から、あなたは私の息子なのよ!!

たくさん甘えてちょうだい!」

変に敬語も使っちゃダメよ!と執事さんとの会話が聞こえていたようで、カーナリアさんは顔を近づけて言う。そんな彼女を引き剥がしながら、ちゃんとした場では使わないとダメだけどね、とギルバートさんも言った。

敬語に慣れていないことにも気づかれていたらしい。

「···うん···」

思わず照れてしまい、カップに視線を落としていた俺は、そんな俺を暖かく見つめる視線には気づかなかった。

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