第9話

「ギルバートさんって、ほんとに貴族だったんだね。

しかも、宰相一家の···」

ほんとに来た迎えの馬車の中で、改めてされた自己紹介を信じてなかったとは言わない。かといって、完全に信じていたとも言えなかったのだが。


三十分程前···

「さて、改めて自己紹介をしようか。

私はギルバート·カーチェスト、28歳だ。カーチェスト侯爵の次男で、第二騎士団に所属してる」

へー、カーチェスト侯爵の···

「カーチェスト侯爵!?」

「あれ?知ってた??」

「そりゃあ、自分の国の王族と宰相の名前は知ってるよ···」

何回も繰り返してるしね。知らなかったら、何して、何処で暮らしてたのって言われるよ。

それに、なかなか着かないわけだ。

王城に近づくにつれて位が高くなるように作られてる王都の外側にあるスラムから時間がかかるとは言っても、中位貴族でもスラムから十五分程で位着く距離に邸宅を構える。

「あはは!!それもそうか」

呑気に笑う彼にジト目を向けた俺を非難する人はいないだろう。

···先に言っておいてくれよ···


「おかえりなさい!あなた!!」

そう言って、ギルバートさんに飛びつく女性に現実に引き戻された。

「カーナ、ただいま」

イチャイチャしだした彼らに唖然として周りを確認すると通りを通る馬車からも見える位置で、使用人達は慣れたようにたしなめる。

貴族ってこういう事は、人に見えないようにするんじゃなかったのか···?

「あら!この子が私たちの子供になる子なの!!」

使用人から引きはがされて俺に気付いたらしく詰め寄ってきた。

「あぁ、そうだよ」

ギルバートさんは俺の肩に手を置いて、微笑みながら言う。

「君の母親になる私の妻の、カーナリアだ」

「よろしくね」

「···よ、よろしく···」

手を握られて詰め寄られたので、引きながら答えると、嬉しそうに笑うので困惑した。

···普通、嫌がらない?貴族でもない孤児を子供にするのって···

「私たちには子供がなかなか出来なくてね、養子とはいえ子供が出来るのが嬉しいんだよ」

魔法士を育てるためとは言え、君とはちゃんと親子になりたいんだ

そう優しく微笑まれるので、久しく向けられたことの無い感情に戸惑い、俯く。

「······」

そんな俺を優しく抱きしめ、二人は慈しみの込められた声をかける。

「ようこそ、我が家へ。来てくれてありがとう」

「···うん···」

本当に···

俺の周りにはお人好しすぎる人が多い

「ふふっ、あなた、この子にプレゼントがあるんじゃないの?」

「あぁ、そうだった···私達から、最初のプレゼントがあるんだ」

トクン···

柄にも無く緊張しているらしい。次の言葉に耳を澄ます。

「ユウェン、今日から君はユウェン·カーチェストだよ」

「ユウェン···俺の···」

本当に柄にも無い。

緩む頬を必死に引き締めようとするが、出来ない。

名前が無いのが悲しい訳じゃなかった。でも、自分に名前が出来たのが相当嬉しいようだ。

繰り返す度に身体の年齢に精神がつられているから仕方ないことだと言い聞かせていると···

「か、可愛いっ!!」

「グエッ···」

「ユ、ユウェン?!」

新しい母親、カーナリアさんに抱きつかれ意識が遠のく。

ち、から···強す、ぎ···

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