第7話
「………」
「そう言えばさぁ、おじさん、名前何?」
黙りこむ彼にずっと思っていたことを今更ながらに聞いた。
「…おじさんって、私のことか?」
「そうだよ、名前わかんないから話しにくかったんだよね。ずっとおじさんって言う訳にもいかないし」
彼は、哀愁の漂う顔で肩を落とした。
「…まだ、おじさんって歳じゃないんだけどね…
ギルバートだよ。好きに呼んでくれ」
「じゃ、ギルバートさん」
「そのままか…というか、君こそ、何て名前なの?」
肩を落としたまま尋ねられる。
そこまで気にすることかな?
でも、名前かぁ…
「ないよ」
「えっ…?」
「俺に名前は、ない」
そう、ないのだ。
「俺を育ててくれた、弟達の親はね…なんというか、すごく抜けてる人だったんだ。どっちも」
双子の父親、マルクはミルラット商会の従業員の一人で、その商会のマスターの一人娘のミリアが母親だった。
しかし、二人の仲をマスターが反対した。その反対を押し切って二人は駆け落ちして結ばれたのだ。
どちらも優しく天然だったため、駆け落ちしてすぐに金品を奪われ、スラム街で暮らすことになった。
二人は盗まずとも生きていける術があったから盗みはしなかったが、案外スラムの人達との生活にはすんなり馴染んだらしい。
二人が生活に慣れて少しした頃、俺は二人に拾われた。その四年後、双子が生まれて名前をつけた後に気付いたらしい。
あれ、この子(俺)の名前決めてなくない?
もともとが抜けている二人が、スラムでの生活に慣れた後だったからだろう。スラムに住む人に名前がある人は少ない。スラム以外の所からスラムに来た人と、その子供くらいだった。だから名前で呼ぶという事がほぼないから我が子に名前をつけるまで俺の名前について、忘れていたらしい。
その後名前をつけようとしてくれたが、つけて貰う前に二人は亡くなってしまった。生まれた時からスラムで、慣れていたから何回繰り返しても気にしたことはなかったが。
その後は、二人と仲がよく、子供が生まれたばかりな近くに住む女性などを頼って今まで暮らしていた。
でも、互いにスラム暮らしなので頼り過ぎることはできない。頼るだけでは足りなくなり、かといって、働いて双子を養えるほどは稼げない。最終的に売れ残りなどをなるべく狙って、パン屋などから盗むようになった。
「…………」
説明を終えたあと、ギルバートさんはなにかを考えるように黙りこんでしまった。
「…双子を養える環境があれば養子になってくれるかい?」
暫くして発せられた第一声はそれだった。
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