雨傘
「あぁあ。」
外は雨。
傘の中も。
雨。
ザアァアアア、、
俺が傘を開くと。
傘の中には、いつも雨が降る。
「また濡れて帰ってきて、、
傘。持って行ったんでしょ??」
「うん、、けど。。」
"傘の中に雨が降る"
なんて、言える訳が無かった。
「早くお風呂入っちゃいなさい」
「はーい。」
だって母さんには、心配掛けたく無かったから。
別に傘に穴が空いている訳じゃない。
母さん「じゃあお母さん。
仕事行ってくるから。
知らない人が来ても開けちゃ駄目よ??」
「うん。」
気付いたら傘の中はそうなっていたのだ。
母さん「じゃあね??」
寂しくない訳じゃなかった。
母さんは俺を女手ひとつで育ててくれた。
父さんは、気付いたら居なかった。
だから"働かなきゃいけなかった"
俺も子供ながらに分かっていた。
高校に行く予定なんてのは無かったのだけれども。
母さん「母さん。ちゃんと貯金して来たから。
高校くらいは、、ちゃんと出なさい??」
そう、通帳を見せられた時は、
強く歯を食い縛った。
母さんの前では泣かない様に、、
俺は通信制の高校を選び、昼は働いた。
普通の高校を勧められたが。
俺は働きたかった。
少しでも、母さんを楽にしてあげたかったから。
周りの人も優しい人ばかりで。
理解のある人達のおかげで、
社会人デビューは問題無く過ごした。
そんなある日。
外では雨が降っていた。
ザアァアアア、、
「あれ。
傘持って行けよ??」
職場のおじさんが、傘を渡してくれた。
「すいません、、
俺傘怖くて。。」
おじさん「何だそりゃ??
まあ。一応持っていきな?」
無下にする事も出来ず。
会釈をして傘を借り、そのまま走った。
濡れるのは嫌いじゃない。
傘が怖くない訳でもない。
ドンッ、。
そんな考え事をしていたら、
擦れ違う人とぶつかってしまった。
「ったぁ、、
すいません!!!」
落ちていた傘を持ち、その人の上にさした。
「あっ、、」
つい、広げている傘を触ってしまった。
「ええ。
こちらこそすいません、、」
男性は傘を握る俺の手に触れた。
「えっ、、」
冷たい手。
それに、、
雨が降っていない、、
いや。雨は降ってはいるのだけれども。
傘の中には降っていなかったのだ。
呆気にとられていると、
「もう、雨は降りませんよ?」
通りすがりに、男性はそう言った。
その時。何かを盗られた様な。
そんな感じがした。
「あっ、、。」
声を掛けようとしたが既に男性は居なくなっていた。
「傘、、
やべっ。
学校に遅れる。」
俺は傘を差したまま、学校へと向かった。
その日の帰りは何だか変な感覚だった。
「あら珍しい。」
家に帰ると、タオルを持った母さんが迎えてくれた。
母さん「ちっとも濡れてないじゃない。」
「うん、、」
母さん「あらっ。
誰かから借りたの??」
「いや。。」
傘を畳んだら何故か名刺が出てきた。
母さん「あらっ。
名刺まで、、
御礼の電話しないとね?」
「いや、、」
止める前に、母さんは名刺に書かれた番号へと、
電話を掛けていた。
その日の授業の内容なんてのは、
一切入って来なかった。
彼は一体。何者なのだろうか、、
窓から見える雨を見ながら、そんな事を考えていた。
興味はあったが。
それよりも。
俺は、関わっては"イケナイ"気がした。
でも、母さんが電話してしまった。
まあ、傘をそのままにしておく訳にもいかなかったし、、
俺は考えを整理する為にも、まずは風呂に入る事にした。
「はあ、、」
傘の中に雨は降らなくなった。
それが良かったのかどうかは、正直分からなかった。
ぽっかり空いた穴に入り込むかの様に風呂は温かかった。
コンコン、、
母さん「今から傘の人が来るって!?」
「えっ、、?」
ザバーァ、、
男性「先程はどうも、、」
「いえいえ。」
玄関先には先程の男性と、スーツ姿の男性が居た。
母さん「どうぞ上がって下さい。」
男性「すいません。
この後私用がありまして、、
この度は我が一族の大切な傘を御返し頂き、
誠にありがとうございました。
彼には、危ない所を救って頂いて、、」
ん??
何か話が違う、、
母さん「いえいえ。
お怪我が無くて、本当に良かったです。」
「こちらを。。」
ずっと後ろに居たスーツ姿の男性が、
手に持っていたケースを広げる。
スーツ姿の男性「どうか、御受け取り下さい。」
中には見た事の無い金額が入っていた。
母さん「えぇっ、、
こんなに受け取れません、」
男性「いえいえ。
"生命の恩人"ですから、、
すいませんが。時間が押してますので、、
これで失礼致します。
、、彼と少し外で話しても??」
母さん「ええ、、」
どうしたら良いのか分からない様な顔をした母さんを。
玄関の扉が閉まる隙間から見る。
「どういう事ですか、、?」
外はまだ雨が降っていた。
男性「君の上に降る雨を。
私が貰ったから。
それの御礼さあ、、」
「雨、、」
男性「君が持っていても良い事は無い。
許可無く勝手に奪った事は謝るよ。
けれど。
"アレ"は君にとっても。
良いモノじゃないから。。」
スーツ姿の男性「お時間です。」
男性は高そうな車に乗り込む。
男性「お母さんを大切にね??
申請すると、手続きが面倒だから。
少しずつ計画的に使ってくれると嬉しいな。
じゃあね??」
男性を乗せた車は、ゆっくりと遠くなって行った。
結局。あの雨も。男性の正体も。
俺には何も分からなかった。
男性「思わぬ、拾い物をしたよ。。」
スーツ姿の男性「代金に見合わないかと、、」
男性「勝手に盗っちゃったからね??
ふふふ。
ここの世界は面白いね、、」
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