左手[前編]
「こんにちわ」
感じの良さそうな、爽やかな青年。
第一印象はそんなところだろうか、、
とは、言っても。
私よりも歳上なのかもしれないが。
「どうぞ。」
部屋に上がってもらい、早速話を伺った。
敷地に入る際には空気が淀み、
庭で呑んだくれていた大狐が一瞬。反応したから、
きっと。あまり、"良いモノ"では無いのだろう。
家に来る前の木や道に限らず、
辺りには結界が張られていて、更には、
ここら一帯がこの家の土地であるから、
普通に"辿り着く事が難しい"。
まあ、招いた場合は別としてなのだが、
前の面子さんの様になっていない事を祈る。
この方は師匠の紹介で来られた。
私達の様な者の『暗黙のルール』として、
"相手を見誤らない"
と言うのが絶対的なモノとして存在する。
それは自らを守る為のモノでもあり、
自分の力量を自らが分かっていると言う事でもある。
私にはこの件。正直に言うと、"対象外"だと思う。
完全な、力量不足。
下手すれば。何か、"代償"が、必要となる場合も、
ありうるのだろう。
皆。師匠の元で修行する。
だから、例え自分の力が及ばずとも。
師匠が対象よりも上ならば、何の問題もないのだ。
だが、、、。
今。私の元には師が居ない。
どういった目的で。この人を私へと寄越したのか、、
それも含めて、私は、今。すごく緊張をしている。
爽やかな青年「いい場所ですね、、」
「えっ、えぇ。
それで、、。
どういった事でしょうか?」
爽やかな青年「あぁ。これは失礼。
私は別に、彼やあなたの様な方々とは違い、
普通の何の能力も無い、家の人間です。」
「はぁ、、。」
爽やかな青年「すいません。
別に嫌味で言ったのではないのですが、
そう聞こえてしまったら、すいません。」
「いえいえ。」
私の緊張が顔に表れてしまってるのか。
言葉を気にするかの様に、接してくる。
爽やかな青年「ある時、から。ですかね、、
"声"
が、聴こえる様に、なりまして。
まあ、最初のうちは、"きのうせい"と思って、
流しては、いたんですが。
いつしか、確実に。私へと、。
話しかけている様なふうになったんですよ。
言葉は。分からないんですが、なんと言うか、
テレパシーみたいなものなんですかね、?
"気を付けろ"
みたいな感じなんです。
文章がある訳でもないし、見える訳でもない。」
そう言い、爽やかな青年は、
左手をテーブルの上に出した。
爽やかな青年「何か分かりますか?」
「すいません。
今は何も、、」
普通の。男性の左手。
この左手には一体。何があるのだろうか。
「何か。原因とか、分かりますか?
おきた時に変わった事があったとか。」
爽やかな青年「それが、、。まったく。
ですが、自分の先祖を調べていたら、
"妖"と関係がある様な文書が幾つか、、」
「それで、、。」
爽やかな青年「はいっ。
たまたま家の藏を彼に調べて貰っていて、、」
「あーぁ。そうだったんですね。
大体。なんとなくですが、状況を理解しました。
なので、そろそろ始めても宜しいでしょうか?」
後は、左手に聞くしかない。
爽やかな青年「お願いします。」
「えーっと。
私は煙草を扱うのですが、大丈夫ですか?」
爽やかな青年「ええ。彼から聞いております。」
師匠。
もう少し詳しく教えてくれても良いのに、、
これも。私への、"試練"なのだろうか。
「では手を合わせ、目を瞑り下さい。」
爽やかな青年「はい。」
パシッ、、
私は煙草に火を付ける。
「では、始めます。」
煙草を吸い、ゆっくりと吐く。
「
『我、汝を祓う者なり、
汝、彼から離れたまい、
我の元に姿を表したまえ、』
」
ゆっくりと、煙は流れる。
彼の左手は、何も変わらない。
いつもなら、なんかしらの反応が出てもいい頃だ。
"私の実力が、相手に及んでいない"
そう、解釈するしかない。
例えば、今までなら直ぐに"ナニカ"が出てくる。
アピールしてきたり、現れたり。
だが、これは、気にしていないのか。
相手にすらも、されていないのだろう。
謝ろう、、。
症状を聞く限り。
何か、問題がある訳ではない。
ただ。話をするだけ、
一番厄介なのは、左手と完全に同化していると言う点。
身体に同化してしまっている場合は、
無理に引き剥がすと、その場所に"問題"が生じる。
師匠がしなかったのは、そういう事だ。
何でも、無理矢理やって、いい事等は無い。
互いに、了承しなければ、駄目なのだ。
師匠が、何故。私に任せたのか。
それだけは、最後まで。分からなかった。
「すいま、」
終わりにしようとした瞬間。"ソレ"は話しだした。
左手「サッキッカラ。
モクモクモク。
ケムインダヨ。」
「すっ、、すいません、、。」
何処から話しているのか。
姿は見えず、声だけがする。
左手「オマエハ、ナンナンダ。
ナニガ。モクテキダ。」
「私は、ただ。
彼に"憑いている"アナタ様に用が、」
左手「アァア!?
フザケンナ!!
オレサマハ、スキデ。
コンナトコロニ、イルンジャネェンダヨ!」
その瞬間。
左手の掌に禍々しいオーラが現れた。
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