すれ違い



私の家は広く、山の中にひっそりとある。


緑豊かで、庭には小さな滝もある。


通称


"身浄めの滝"


だ。


敷地には部屋が複数あり、


姉妹の住んでる家と私の住んでる場所は、


それなりに離れている。



私の場所は小さな家で、自分の部屋と、


来客用の部屋。


風呂にトイレと、質素な造りだ。


キッチン等はなく、


料理は御付き人が持ってきてくれる。


勿論、私の御付き人ではなく、姉妹のだ。



「どうぞ」


ノック音がし、襖が開く。


「失礼します。」


深々と頭を下げ、入ってきたのは、


腰の曲がったおじいさんだった。


「こんな田舎まで御足労いただき、、」


お茶とお茶菓子を出しながら会話する。


おじいさん「いえいえ、


こちらに視て頂けるだけで、


本当に有難い事です。」


軽く世間話を交わすと、いよいよ本題へと移る。



「えーっと、私は煙草を扱うのですが


大丈夫ですか?」


念の為に再度確認する。


一応、事前の話では話が通っているが、


礼儀として対話をする。


それに、これには、


今から祓いますよ?


と言う儀式の始まりを示すものでもある。


おじいさん「はい。


ちゃんと伺っております。


何でももう、何十年と腰が曲がりまして、


婆様が亡くなってからずっとこんなんで、、」


机を片付けると対面し、


座ったまま、手を合わせ目を閉じて貰う。



「では、始めます。」



私は煙草を吸い、ゆっくりと吐く。



『我、汝を祓う者なり、


汝、彼から離れたまい、


我の元に姿を表したまえ、』



3本吸い終わると、部屋は煙で満たされる。


本数は日によって、人によって、まちまちだ。


時間が掛かる程、その人への執着が強い。



4本目に差し掛かると、彼の身体が揺れる。


私が吸うと身体から引き剥がされる様に、


年配の女性が姿を表す。


「やめろぉ、、やめろぉ、、」


ゆっくりと私の方へと引っ張られる。


フー、


煙は彼女を捉え、彼と私の間に現れる。


年配の女性「お前は何をするんだ、、


私と彼を引き離すんじゃない、、」


「貴女は何故、彼に憑く。」


絡み付いた煙を払う様に女性はもがく。


年配の女性「彼は私の旦那だ。


私を憎んで、私を殺したのだ。」



すーっと彼女の記憶が流れてくる。


彼女の幸せな日々が。



彼女は病気で亡くなった。


寿命だった。


彼は彼女の為に、毎日病室へと通った。


彼女の好きな花を持って。


彼女は幸せそうに、彼に語る。



「貴女は病気で亡くなった。


彼は貴女を殺しては居ない。



寂しさから己を喪い、


彼に取り憑くのはやめなさい。」



おばあさん「病気、、



花を持ってきてくれた、、



彼が心配だった、、」


彼女はふと思い出した様に、


先程の鬼のような顔から、


優しい女性の表情へと変わり、


涙を溢していた。



「彼はずっと苦しんでいた。


もう少し、貴女と一緒に居られたらと、」



彼は彼女が病で倒れるまで必死に働いた。


全ては彼女の為だった。


一緒に、幸せに成る為に、


だが、彼が安定した頃には彼女はだんだん弱った。



人は働かなくては、生きてはいけない。


だが、その時間は愛する人と居れた時間でもある。


寿命はまってはくれない。


時にそれは、天命だったとしても、


命と言うものは、あっという間に消えてしまう。



命とは儚い故に、短くも、いとおしいモノなのだ。



おばあさん「貴方が心配で、、」


おじいさん「ごめんよ、、」


互いの記憶と想いが入り交じり合い、


いろいろな感情が溢れ出す。



「そろそろ、時間です。」


煙がうっすらと薄くなると、女性の姿は薄くなる。


「何か互いに良い残した事はありませんか。」


おじいさん「ずっと愛していた。


これからも、ずっと、、」


おばあさん「待ってるから、、ずっと、、」



『我、汝を還す者なり、


汝を導き、彼を見守りたまえ、、』



白い光と共におばあさんは消え、


彼はゆっくりと、立ち上がる。


おじいさん「ありがとう、」


おばあさんを背負っていたおじいさんは、


ゆっくりと、頭を下げると会釈をし、


私の元を去って行った。



人間、最後にどうなるのかは、誰にも分からない。



今と同じようにいろいろなモノが


感じとれるのかも分からない。



今感じられる様々事や経験を、


決して無駄にしないように、



そして、今ある幸せを、忘れないように、


時に愛する人と分ち合うのもいいのかもしれない。



自分を大切に。


相手も大切に。



残りの、限られた人生を、楽しんで下さい。


























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