ゴブリンとゾンビ
「オオタ、ワシはナタージャを迎えに行ってくる」
俺とサイジャ君は朝早くおばばさんに起こされ、そう告げられる。
「まぁ向こうの古い友人にも会っておきたいしの。2·3日留守にするが、騒ぎを起こすわじゃないぞ、特にサイジャ!」
「わーったよ」
「オオタ、留守番はお前に任せるからなっ!」
「え?わ、わかりました。行ってらっしゃ〜い」
…と、笑顔で送り出すが、俺は内心相当焦っていた。
見知らぬ異世界に来てまだ2日目…。親切にしてくれた美少女ヒロイン(仮)はどっか行っちゃうし、頼りになる年長者もそれに続いて遠方に行ってしまう…。まぁ、サイジャ君はいてくれるけど。
俺はおばばさんを見送りながら、横にいるケルベロスを見る。
俺にこの魔獣の世話が務まるだろうか。ファーストインパクトは最悪だったし。
「ま、まぁ物は試しか」
一応犬という形を模してるし、何とかなるだろう、うん。
「よ〜し、おいで〜」
「あ〜アニキ、そいつ俺を5回病院送りにしてるから気をつけろよ」
「まじでか…」
俺は慎重にケルベロスの体を撫でる。下手したら死ぬな、コレ…。
「散歩と餌は俺がやっとくから、アニキはテキトーにコイツと遊んでやってくれ」
「う、うん。了解」
しかしそんな楽な仕事だけでいいのだろうか?俺にやれることが少しでもあるなら、やった方がいいだろう。
「あ、散歩。僕も付き合うよ」
俺は出かける準備をしてるサイジャ君にそう話掛けた。
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「グワワンッワンッ!」
ベロちゃんは雄叫びを上げながら大樹にマーキングする。
「嘘でしょ」
しかしその量が半端じゃない、もしや…3頭分の量が出てるんじゃないだろうな。
「はっ!?」
突如上から視線を感じ、背筋が凍る。見ると、ハーピィが大樹の上から物凄い形相でこっちを睨んでいた。
「すいません、すいません!」
急いで持っていた水筒の水で大樹を流す。しかし全然これだけじゃ足りねぇ!
「ご、ごめんなさ〜い」
俺は慌ててサイジャ君を押してここから移動するように合図して、この場を離れる。
「ん?急にどうしたんだよ」
「いや、だってこの樹ってハーピィの住処みたいだし」
「あ〜そんなの気づかないフリしてりゃいいんだよ、どうせ空飛んで下なんか見ねぇんだし」
「えぇ…」
何となくおばばさんがサイジャ君じゃなくて俺に留守番を頼んだ理由が分かった気がする。俺がしっかりしないとな…。
「っていうか、この森ってハーピィがいるんだね」
「まぁランタン村含めてここら一帯は魔物の領地だからな」
「へぇ〜」
「散歩するだけなら襲われたりしないから安心してよ。…と、あのデカい木がハーピィの本拠地」
しばらく歩くと、さっきの大樹よりもかなり大きな樹があった。
「ほぇ〜」
見上げると、確かに上の方の太い木の枝に、鳥の巣箱っぽい家々がある。
「グォオーン」
「ん?」
ベロちゃんが情けなく一吠えした後、前足をつっぱり、お尻を下げる。
…何してんの!?
「いやいやいやまさか…」
「ん?ブリブリか?どんと出せっ!」
「どわぁあぁああっ!」
俺は大慌てで一人と一匹を大樹から離した。
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「ハァ…ハァ…」
あの後、ベロちゃんが予想以上のアレを出したため、持ち帰らずに予め用意していたスコップで埋めたのだが…疲れた。
「アニキー、律儀だな〜」
「ま、まぁサイジャ君にはお世話になってるし、これくらいはね」
そして無事?に散歩を終えた俺達は家路についていた。
しかしこれが毎日続くとなると、体力的に大丈夫かなぁ…?
「よぅし、着いたぜー」
10分くらい歩いた所で村が見え、家に着く。往復で一時間ぐらいだろうか、まぁ良いダイエットだと思おう。
「アニキ、茶でも飲むか」
「お、ありがとう」
家に着くなりサイジャ君がお茶を淹れてくれて、二人でまったりする。
冷たいお茶は喉を涼やかに潤して、久々に良い汗をかいたことを実感する。こんなにお茶をうまいと感じたのはいつ以来だろう。
「ふぅー、こうしてると心が休ま」
「アア゛ー疲れた!ハイ今日のお仕事終了っ!」
「え?」
サイジャ君はお茶を飲み干した後、いそいそと寝床に行こうとする。
「ちゅちょちょっと!この後僕は何したらいいかな?」
「え?まぁ俺は寝たり遊びに行ったり人間の本を読んだりしてるけど?」
「そ、そう」
それってニー…。いや、かなり自由人だな。
しかし居候の俺がそんな事でいいのだろうか。
「うーん」
サイジャ君はすでに爆睡してる…。
俺はいきなり手持無沙汰になったので、とりあえず外に出てみた。
今は春の終わり頃だろうか、生ぬるい風が頬を撫でる。
村を見回すと、ゴブリンの老人達は農作業に勤しんでいた。
農業か…。全くやった事ないけど、俺に何かできる事があれば…。
「すいませーん、僕に何か手伝わせて下さーい」
「ん?おんや、人間のお兄さん、土いじりしてみんかい?」
「はいっ、是非!」
┋
┋
┋
「きっ…きっつ…」
30分後、俺は滝の様な汗を流しながら鍬を必死で引いていた。
しかし隣の田んぼではおそらく馬か牛用の大きな鍬を、ゴブリンのおばあさんが涼しげな顔で引いている…。
そ…そうか、ゴブリンは馬鹿力だった…。
「あんれー、お兄さんにはちと辛かったかねぇ」
隣でおばあさんが手を止めて話掛けてくれる。
「す、すいません。肉体労働は…久々で…」
俺は息も絶え絶えで弁解する。
「そっかーい。じゃ、畦の雑草取りでもしてけれたら嬉しいねー」
「わかりました」
俺は水田の中をのっそのっそと歩き、畦道に上がる。
「おぉ…これは…」
畦道は背の高い雑草がびっしり生えている。
「すぅぅぅ〜」
息を整え、気合を入れる。よぉ〜し、俺は肉体労働より、こうした雑用の方が得意なんだ。
「すぅぅぅ〜…ん?」
畦道の向こう側に、緑色の肌をした人影がゆらゆらと揺れ動く。もしかして、草刈り鎌とか持って来てくれたのかな?
「あ、すいませ…ん?」
だがその人影は、手を前に掲げながら、アーアーと不気味に呻き、明らかに尋常じゃない感じだ。
「こ、これってもしや…」
俺はほぼ確信を持って目の前の人影の正体を叫ぶ。
「ゾ、ゾンビだぁ〜!」
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