モルダとソルダ
突然女の人の甲高い声が響き、その声がする方に行く。すると俺達の家の前に二人の男女ゴブリンが立っていて、ナタージャさんが怒り顔でその二人に対峙していた。
「オオタ、お前はメンド臭いから隠れておれ」
「あっ、はい」
おばばさんに促されてベロちゃんの餌?置き場の木箱裏に屈んで体を隠す。
「こんにちは〜、"ハーフ"ゴブリンのランタン村の皆さん!」
「何しに来たの馬鹿兄弟っ!」
「馬鹿兄弟はそっちでしょ、私達は村で採れたブルーベリーを届けに来ただけですわ」
「おお、毎度すまんのモルダ」
おばばさんがナタージャさんを押しのけてブルーベリーの入ったフルーツバスケットを受け取る。
「あらおばばさんこんにちは。このブルーベリーは"純ゴブリン"である弟のソルダが育てたんですわ」
「おぉ、そうかい」
「姉ちゃん、それ純ゴブリンはあんま関係ないんじゃ…」
へー、弟の方のゴブリンは確かにゲームとかに出てくるいかにもなゴブリンっぽくてカッコいいな。見事なつるッパゲである。仲間仲間。
「おいおいおばば。いちいちそんな奴ら相手にすんなよ」
サイジャ君が俺の後ろから家の方に出て行く。
「アラ〜、ニートのサイジャ君じゃありませんか。少しは成長しましたか?」
「あにぃっ!?」
「あっ、…まぁサイジャは言われてもしょうがないかな…」
「何でだよっ!?フォローしろよっ!」
サイジャ君は姉の方の純ゴブリンに煽られていとも簡単に怒ってしまう。しかしおばばさんが言ったように、確かにこの状況はちょっと面倒臭いかもしれない。
「おいおい、あんま失礼な事言うなよ姉ちゃん」
美人の姉と違って弟はまんまゴブリンなのに常識人らしい。異世界って分からねぇもんだな…。
「失礼じゃありませんわ。事実、サイジャ君はゴブリンらしさの欠片も無い見た目をしてるじゃない」
「んだとぉ…!くそっ、アニキっ!」
突然サイジャ君に呼びかけられて体がビクッと反応する。
「へっ!お前らに真のゴブリンをみせてやるぜっ!」
え、これ俺を呼んでる?さっきおばばさんに隠れてろって言われたしな…。ここはバレないようにこっそり逃げて…。つか誰が真のゴブリンやねん。
「そこに誰かいるんですの!?」
しかし、速攻でバレる…。まぁただでさえ巨漢だしな。
「やれやれ、もう出て来てよいぞオオタ」
おばばさんは仕方が無いという風に許可してくれる。俺もコソコソ隠れるのは苦手だしありがたい。
それにサイジャ君が貶されてこっちもちょっとムカついてた頃だ。ニート馬鹿にすんじゃねぇ!
「どうも゛っ、こんにぢわ゛っ」
俺は出来るだけ低い声で挨拶して威圧する。これでちょっとはサイジャ君に対する態度を改めればいいが。
「な、なんですのっこのゴブリン!」
「すげぇ、めっちゃ威厳ある!」
案の定、純ゴブリン兄弟はあからさめにうろたえる。
嬉しいような、悲しいような…。
「俺、ソルダっす、よろしくっす」
「えっ?」
弟の方のゴブリンがにこやかな顔で握手を求めてきた。
「あぁ、こっちこそよろしく。君とは仲良くやれそうだ」
俺は真下のハゲ頭を見下しながらソルダ君と固く握手する。
「な!そんな奴と仲良くすんじゃねぇ、アニキ!」
「そ、そうですわっ、ニートのサイジャの知り合いなんかと!」
くと、まだ言うかこの女っ。美人だけど性格悪い人はNGで。
「でも姉ちゃんすげぇ立派なゴブリンだぜ?」
「そうだそうだー、馬鹿モルダはすっこんでろ〜」
「じゃ、じゃあこのゴブリンはどんな事ができるんですの?」
「え?」
不意に鋭い質問が飛んでくる。皆の視線が痛い。
「なんもできませーん」
…俺は苦笑いでそう答えるしかできなかった。
「ほぅら、所詮ランタン村はニートの巣窟なんですわーっ」
モルダと呼ばれるゴブリンは勝ち誇ったように高笑いする。
俺はサイジャ君と一緒にうなだれながら頭を掻く。
これ俺のせいだよな…。
「おいおいそこまでにしておけよモルダ。結局お前はナタージャに構って欲しいだけじゃろ」
今まで黙ってやり取りを見ていたおばばさんが話に割って入る。
「なっ!そ、そんなことないですわっ、私はただ」
「グールド村で何か採れるとすーぐナタージャのために持って来てくれるのう。いつもありがとう」
おばばさんは弱冠からかい気味にお礼を言う。それに対しモルダさんは顔を赤らめてプルプル震えていた。
「え、そーなの?」
「あ、そーなん?」
「ふーん、そうだったんだ」
おばばさんの言葉にみんな意外そうな顔をする。
しかし瞬間、俺の脳内には少女漫画特有の薔薇色の世界が広がっていた…。
いや〜美少女同士の百合っていいっすね〜。さっき性格NGって心の中で言ってゴメンネッ☆
「そんなことありませんわーっ!!!」
しかしその世界はモルダさんの大声で掻き消された。
「ナタージャっ!あなたの腐ったその根性、私のグールド村で叩き直してやりますわっ!」
「え?なんで私?」
「いいから来いっ!」
強引にモルダさんに引っ張られて、ナタージャさんはあ〜れ〜と連れ去られてしまった…。
「なんかすいません。何日かナタージャさん借ります」
ソルダ君はぺこりと謝罪する。
「別にいーって、むしろせいせいするし」
サイジャ君はしっしっとナタージャさんが連れ去られた方向に手を振る。しかし、ソルダ君は何度か頭を下げながら帰って行った。
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