第2話 ゴブリン、勇者に会う

純ゴブリン

「ふぁ〜」

まだ夜明けが来てすぐの朝早い時間に目が覚めてしまった。習慣で…。あれ、ここどこだっけ…。

外に出ると、澄んだ空気と綺麗な薄赤色の朝日が神秘的な感情を呼び起こす。

そっか…ここ異世界か…。

「のはよーアニキ」

後ろでサイジャ君がのそのそと起きる音が聞こえる。

「お·お·お早う〜」

俺は思わず緊張して声が吃ってしまう。やはりイケメンには生まれながらの劣等感が…。

いやいや!こっちから積極的に話しかけないと失礼だよな。

「あ、そういえば顔洗いたいんだけど、どうすれば?」

「あーそれは裏の池でやってくれ、案内するぞ」

「あ、ありがとうございます」

居候としての上下関係をちゃんとするために、俺は礼儀として頭を下げる。気を使うのは社畜の得意分野みたいなもんだ。

「そんな畏まんなくっていいって、アニキ!!」

サイジャ君は景気づけのために俺の背中をドン!と叩いた。

「どわぁあぁぁぁ!」

だがその一撃は俺の体を吹っ飛ばし、そのまま俺は草むらに頭から突っ込んだ。

「す、すまねぇアニキ、大丈夫か?」

サイジャ君が慌てて駆け寄ってくる。俺は右手を上げて何とか大丈夫の合図をした。いや、大丈夫ではないが…。

そういえば、ナタージャさんもベロちゃんを蹴り飛ばしてたな、流石ゴブリン…。

         ┋

         ┋

         ┋

その後、サイジャ君に連れられてランタン村の端にある池のほとりで顔を洗う。

ついでに先程体と頭についた葉っぱや土汚れを水で流した。

「いいなーアニキ」

「え?何が?」

「その頭!俺も毎回坊主にしてんだけど、すぐ伸びんだよな〜」

「え…?」

この子は何を言っているのだろうか…?坊主にする?そのサラサラヘアーを?

だが俺の羨む視線に気づかず、サイジャ君は銀髪をつまらなそうに引張った。

「いっそのこと毛穴ごと潰し」

「止めろっ!それだけはっ!」

俺は銀髪を引張る手をガシッと掴み静止させる。

「うぉっ!急にどうしたんだアニキ!」

「というかくれっ!10本でいいからくれっ!」

「いや、無理だって…」

「う、うぅ」

俺はその場で泣き崩れる。そうだよな、異世界でもハゲを治す方法なんて無いよな…。

「なんか怖えーよ…」

水面に反射した自分の醜い顔に悲しくなる。まぁ髪があっても顔は変わらないんだけどさ…。

「お前ら、朝からうるさいわ」

タオルの様な布切れを首に掛けたおばばさんがジトっとこちらを見る。

「ほれ、邪魔だからどかんか」

「あっ、すいません」 

俺はのそのそと池のほとりから移動する。

その間に、おばばさんはてきぱきと顔や頭を洗った。

「全く…この時間の池は女が使うというのに」

「あ、ごめんなさい。気が付かなくて」

「あぁすまねぇおばば、俺がアニキを汚しちまった」

サイジャ君がおばばさんに弁解してくれる。それを聞いて、おばばさんはフンと鼻を鳴らした。

「で、何をそんなに騒いでたんじゃ」

おばばさんはタオルで顔を拭きながら横目でこちらを見る。

「だ、だって…サイジャ君が…髪の毛を…」

「髪の毛?あぁ、ワシらは人間との混血なんじゃ」

「混血?」

「そう。この村のゴブリンはみーんな俺みたいなハーフだぜー」

サイジャ君はそう言ってにぱーっと笑った。つられて俺もにぱーっと笑う。

「へー」

「真面目に聞かんかっ!」

「いでっ!ごめんなさいっ!」

おばばさんはタオルでポコっと俺の頭をはたいた。

「とにかく!…この村は混血ゴブリンが人間によって集められる…いや、閉じ込められてるといっていい」

「閉じ込められる?どうしてですか?」

「まぁ条約だと人間とモンスターの交流は推奨してないからの…。その象徴であるワシらは良く思われておらん」

「それは…胸糞悪いですね」

「うんうん、アニキもそう思うか」

あ〜あるある。俺も一人だけ同僚のL○NEグループに招待されなかったし。人間ってそういうものなんだろう。あの時は細田先輩に慰めてもらったなぁ…。

「お前…ワシの話を軽く考えてないか?」

「い、いや、そっそんな事ないですよ」

「ふーん…。まぁこの村は人間に疎まれてるから、お前も目立つ行動をするんじゃないぞ!」

「は…はい!」

俺は真面目に頷き、決意する。せっかくこの村に受け入れて貰えたんだ。絶対に迷惑をかけるわけにはいかない。

「それと、純ゴブリンはやたらとワシらハーフゴブリンを見下してくるから気をつけろよ」

「え?」

「特に隣村の純ゴブリン兄弟は特に悪質だから気を」

「オーホッホッホッ!!」

おばばさんが話てる途中に、突如として女の人の笑い声が響く。

「うわ…出たよ…」

「ほれきた、噂をすればなんとやらじゃな」

サイジャ君とおばばさんがうんざりした様な顔をする。

「え?何ナニ?」

俺は事態が飲み込めず固まってしまった。

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