おばばさん

「ステータスオープン!」

俺は高らかにそう叫ぶ。

そして目の前に黄金色のステータス画面が表示された。

「おぉっ、これは!」 

「こんな色のステータス画面見た事ないぜっ!」

おぉぅっ!これがかの有名なステータス画面!俺はつい身を乗り出して見入ってしまう。

「えっと…何なに?太田大貴29才…身長198cm.体重186kg…」

何だコレ?普通の体重測定みたいじゃん。つかいつの間にか男30kg近く太ってたわ…。

「検査完了、スキルを報告します」

「え?」 

「スキル無し、スライム以下のゴミです」

「…」

俺はあまりの気まずさに思わず下を向いてしまう。

「ま、まぁ戦闘スキルだけが全てじゃないですからね」

「そ、そうだよなアネキ。戦闘なんかより平和が一番って言うしな」

「そうそう、サイジャだってニートだし」

「俺はニートじゃねぇ!自宅警備してるし、たまにゾンビも狩ってるだろ!」

「そんなの仕事の内に入りませ〜ん」

「なにぃ!」

「何じゃ騒々しい!!」

ゴブリン兄弟のやり取りを見守っていると、突然玄関の方から怒鳴り声が聞こえてきた。

振り向くと、先程のおばあちゃんゴブリンよりも少し老けたゴブリンがこっちを睨んでいる。

「ばっちゃ」「おばば」

同時に返事をして、二人は喧嘩を止めた。

「なんじゃこの人間は」

おばばさんは俺をじろじろ見ると、不快そうに家の中に入ってくる。

「お前ら、条約ができてから人間とは関わるなと言ったろうが」

「いやーでも何か困ってたみたいだし、家に置いてあげよーよ」

「そーそー、それにアニキは異世界から来たんだぜ」

「何…異世界…?」

おばばさんの俺を見る目がさらに険しくなっている…。

「ほぅ、それでお前さんは一体、どんな能力を持っておるんじゃ」

その顔は睨みから試すような表情に変わり、俺に質問を投げかけるてきた。

しかし流石は尊老、俺の聞かれたくない質問を一発で聞いてきやがったぜ。ここは面接の時に培った笑顔スキルを使っ

「さっさと答えんか!」

「ひゃい!え…えっと、犬が好きです!」

「は?何を言うとるんじゃこいつは?」

「犬の散歩は超得意ですっ!」

そうだっ!俺の得意分野は雑用·小間使い!ブラック企業にいた頃は誰の頼みも断らずひたすら下っ端に徹していたしな。

「そんなもの何の役にも立たんじゃろが」

「で、てすよね」

「いいじゃん いいじゃん!ベロちゃん全然私に懐いてないし、一頭だけ」

「そうそう、頼むよおばば!」

俺の発言にゴブリン兄弟はうんうんと賛同してくれる。

だがおばばさんは苦虫を噛みつぶしたような顔をするだけで、首を縦に振らない。

「ねーねー何とか言ってよばっちゃー」

「そうだよー」

さらに二人がしつこく迫ると、おばばさんは根負けしたように目を逸した。

「お願いします!おばばさん」

「ふん!お荷物が一匹増えようが、かまいやしないよっ!」

「お…おお?」

これは住んでもokということでいいのかな?

「その代わりお前の身分は小間使いだからの、覚悟しておきな」

「はい!ありがとうございます!」

俺はできるだけ90度の角度を意識してお辞儀をする。まぁそうするとハゲが世界に晒されるんだが…。

「やったなアニキ!」

「イエ〜イ」

ゴブリン兄弟がパチンっと手を叩く。とりあえず異世界の仮住まいが決まって良かった良かった。(図々しい)

「ところでお荷物って誰のことだ?」

         ┋

         ┋

         ┋

「ぐぅぅぅ〜」

あの後夕飯もご馳走してくれて、ゴブリン家族には大変世話になってしまった。

それでも今だに鳴り止まない自分の胃袋の無神経さに腹が立つ。とりあえず自分の食い扶持くらいは早急に稼げるようにしないとな…。

まぁこうして異世界での生活が始まったわけだが、夜になってやっぱり元の世界が恋しくなってる気がした。

「いやいやいやっ!」

確かに残してきた両親の事は心配だが、せっかく納期も怒号も自律神経の乱れも無い世界に来たんだ!あの地獄には二度と戻りたくない!

「ハァハァハァ」

…何かさぁ、このケルベロス俺のこと餌だと思ってない?

恐いわ…。昼間も襲われたし。

「よーしよしよし」

俺は適当にベロちゃんを撫でると逃げるように寝返りを打つ。

不安は次から次へとやって来て、今夜は眠れそうにない。だけど同時に、未知の世界への興奮や好奇心も胸の内から湧き上がってくる。

あぁ、早く明日が来ないかなぁ〜。体は疲れてるのに、この状態だと夜が無限に感じられてしまうぞ。


…そう思っていた10分後、俺はイビキをかいて寝てしまった。

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