いざゴブリン村へ

「いだだだだ」

ナタージャさんはかなり強い力で俺を引っ張り、どんどん森の中を進んでいく。

気のせいか、後ろのケルベロスの息遣いが激しくなっているような…。もしかして俺、このまま食われんじゃねぇか…?豚人間の丸焼きだー!!とか言われて…。

「もうすぐ森から出ますよっ!」

俺の心配をよそにナタージャさんは快活に話す。そしていつの間にか木々の先に明るい光が射しており、そこを抜けるとかなり広い場所に出た。

「あそこが村ですよー」

ナタージャさんが指さす方向には確かに村の入口らしき木の門と看板が見える。

俺は心無しか、緊張で体が震えた。だがナタージャさんはそんな俺の様子に全く気づかず走り出す。

「みんなー!タダイマぁぁー!!」

うっせ!!!

思わず両手で耳を塞ぐ。だがおかげで体の緊張が解けた。

「…」

村を見渡すと、何軒かの木造の家々や、井戸やら畑やらがある。

そしてナタージャさんの号令?で家々から年配の人達が出てきた。

「おや〜ナっちゃん、おかえり」

「疲れたろ〜、うちにお菓子があるよ〜」

しかし近くに来たその老人達は、緑色の肌をして背が低く、人によっては牙やら角やらが生えている。

「おや〜これまた立派なゴブリンの色男を連れてきたね〜」

その内の一人が俺をしげしげと見つめながらそう茶化した。…やっぱり俺ってそんなにゴブリンフェイスなのか。

「違いますよおぱあちゃん。この人は人間ですよ、人間」

「はえ〜人間かいね、ワシも若い頃はよく人間のオスを攫ってきたわい」

「ひっ…さ、攫う?」

「も〜おばあちゃん、私は攫ってないってば」

ナタージャさんは笑ってやり過ごすが、やはりゴブリンはゴブリンなのか…。

「この人はオオタさんっていって、異世界から来たんだって〜」

「太田大貴です、皆さんよろしくお願いします」

ゴブリンに通じるかわからないが、俺は一応深々とお辞儀をする。

「おやまぁ異世界から?それは大変だったね〜」

「なんもない村だけど、ゆっくりしてきんしゃい」

おばあちゃん達は優しい田舎の農民そのものの笑顔で肩を叩いてくれた。俺はホッとして、思わず笑みがこぼれる。

「はい、ありがとうございます!」

「じゃあワシらはそろそろいくかね〜、これ以上若い二人の邪魔はできんしな〜」

「またの〜」

そう言っておばあちゃん達は出てきた家に帰っていった。しかし、俺はこのゴブリン村でこれからどう過ごせばいいんだろう。

「とりあえず、私の家に来ますか?」

「え?いいんですか?」

「はい!ベロちゃんが迷惑かけちゃったし、泊まってって下さいよ!」

「ありがとうございます!」

…マジか。いくらゴブリンに似てるっていったって、こんな熊みたいな男に優しくしてくれるとか、異世界最高じゃん!

おれ異様な胸の高鳴りを覚えながら、意気揚々とナタージャさんに付いていく。

そして向った先は、他の家と同じく木造の家だが、さっきおばあちゃん達が出てきた小屋より大きく感じた。二世帯住宅だろうか。

(う、うわぁ。女の子の家に入るとか初めてだぁ〜!)

俺は天にも昇る気持ちで有頂天になる。

こんな甘酸っぱい感覚はいつ以来だろうか。

「あ、ちょっと待って下さいね〜、今ベロちゃんに餌をあげますから」

「あ、はい」

そう言うと、ナタージャさんは家の前の木箱から何かを取り出し、ベロちゃんに投げつけた。

ベロちゃんは勢い良くそれに食いつき、三つ首で争うようにガツガツ貪った。

…しかしそれは明らかに人間の手足のように見える。…何だろう、見間違いかな…?

「……えっ……と……」

「あぁコレ、人間を襲ってたゾンビなんでぇ、気にしないで下さい。元から死んでるんで!」

「…あ、ハイ」

な、なぁんだ、ゾンビなら仕方ないよなぁ。そういうこともあるある…うん。

「よいしょ、ただいまー」

ナタージャさんは俺の様子を全く気にせず家に入っていく。それを見て俺も心を入れ直し、家にお邪魔することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る