ゴブリンの美少女!?

「な、なんだアレ!?」

突如として現れた黒く大きな影に混乱する。

もしかして出もしないステータス画面のためにステータスオープンを連呼してたからか?

冬眠してた熊か何かが目覚めて…。

「!?」

だが木々の間から見える影の姿は明らかに現実世界に存在する生き物とはかけ離れたシルエットをしていた。

「あれは、ケルベロス!?」

三つ首で、どう考えても普通の犬としてはありえない大きさ…。

f○とか遊○王とかに出てくる怪物、ケルベロスだ!

「うっ!」

その三つ首の内の一つと目が合うと、背筋にかなりの悪寒が走った。

「う、うわぁぁあぁ!!」

反射的にケルベロスから逃げるように駆け出す。

「ここやっぱ異世界じゃん!!!」

何がオーストラリアだよっ!あんなやつコアラと一緒にいてたまるか!

おそらく人や動物がいなかったのも、アイツから逃げたからだ!

「ハァ…ハァ…」

俺は木々の影に隠れて息を潜める。そしてばれないようにこっそりとケルベロスの方をチラ見した。

「グガァッ!」

ケルベロスは俺を探すために三つ首を忙しなく動かし、苛ついた様子で咆哮を上げる。

「ヒィッ!?」

あまりの迫力に小さな悲鳴を上げてしまう。

早くここはから離れないと、すぐにアイツに見つかるっ。

「よいしょっ」

俺は四つん這いになり、ほふく前進の要領で動こうとする。

だがその瞬間、

「ぐぎゅるぅぅるぅー」

盛大にお腹が鳴る音を出してしまった。

「やべっ」

慌てて腹を押さえるが時すでに遅し、大きな6つの目がこちらを凝視していた。

「グガァァァァ!」

ケルベロスは一際大きな咆哮を上げると、一気にこっちへ走り出してくる。

「うわぁーーー!!」

あっ、終わった…。

俺は蹲り、迫りくる自分の死を覚悟する。いや死にたくないけど、あのまま過労死するよりケルベロスに殺された方がまぁいいかな…。

そんな事を考えながら俺は目を瞑り、最後の時を待つ。

だがケルベロスの足音が寸前まで迫った時、死の恐怖が急にやってきた。

「いやだぁ、やっばまだ死にたくなーいっ!!」

俺は無意識にそう叫び、必死に逃げようとする。

しかしこの叫びも神様には届かないだろう。

そう諦めた瞬間…。

「とうっ!」

突然森の中に凛とした女性の声が響く。

「おりゃ〜〜〜っ!!」

そしてドゴォっ!!という音と共にケルベロスの痛々しい悲鳴が聞こえてきた。

「グゴガアァァ!」

「コラー!ベロちゃん、人間を襲っちゃダメって言ったでしょうが!」

後ろで女性の怒る声が聞こえる。まさかケルベロスに話し掛けてるのだろうか。

俺は恐る恐る振り返り状況を確認する。

そこには泣きべそをかいたケルベロス(三つ首の内の一つはそっぽを向いてる)が、可憐な白髪の美少女に説教をされているという異様な光景が広がっていた。

「えっ?えっ?」

あまりの光景に事態が飲み込めずマヌケな声を出してしまう。…だがとりあえず命だけは助かったようだ。

「おいっ、そこの人間っ!」

急に美少女が敵意剥き出しでこちらを睨む。

「ひゃいっ!」

俺は秒速で立ち上がり、直立する。

「今あったことは人間界には内緒に…ん?」 

少女はつかつかと歩み寄り、殺気を放つ声で威圧してくる。

だが俺の姿を確認すると、棒立ちで固まってしまった。

…まぁ当然か。

異世界でも俺の姿は醜く見えるのだろう。

「あの、助けてくれてありがとうございました」

俺は少女にお礼を言って、そそくさとその場を退散しようとする。

だが…動こうとした時、少女が俺の腕を掴んできた。

「えっ、な、何ですか?」

かなり強い力で掴まれ恐怖する。

少女はさっきよりも数段強い殺気を放って俺の顔をガン見していた。

こ、殺される…!さっきのケルベロスよりもだいぶ恐い!

「…さま」

「え?」

俺が頭の中で逃げる算段をしていると、少女が何かを呟いた。

「…王子様」

は?王子様?

…周囲を見渡しても、さっきのケルベロスがきょとんと座ってるだけで、王子様が現れる気配は全くない。

「ゴブリンの王子様っ!!!」

すると少女が突然、大声でそう叫んだ。

「え?え?ゴブリン?」

「はい!私、ゴブリンのナタージャって言います!」

少女はガシッと俺の両手を掴んで握手してくる。

「あぁ、はい。私は太田大貴と言います」

少女に自己紹介され、こちらも自然と名乗ってしまう。すると少女はキラキラとした目で俺を見つめる。

「あなたはどこの村のゴブリンですか?もしかして族長の方ですか?」

「え?村?族長?」

俺はわけがわからず聞き返す。っていうか人をゴブリン呼ばわりとは普通に失礼じゃね?

確かに高校の時のあだ名はジャ○アント・オークだったけどさ、初対面でゴブリンはないだろ…。

「えっとぉ、おれ…僕は普通の人間です」

「えぇっ!!」

少女はあからさまに驚いた顔をして手を離した。

「人間なんですか!?ゴブリンの中では正統派イケメンなのにっ!」

少女はそう叫ぶ。…おそらく少女にとっては褒め言葉なのだろうが、何故だか俺の心は傷ついていた。

「っていうか、ナタージャさんは本当に人間じゃなくてゴブリンなんですか?」

よく見るとナタージャさんの肌は緑色で、身長も低く、耳も尖っていた。

それにさっきのケルベロスを一撃で倒した怪力の持ち主だ、普通の人間ではないだろう。

「はいっ!ランタン村出身の女ゴブリンですっ!」

ナタージャさんは自慢するように謎のポーズを取る。

その姿を、後ろのケルベロスが恍惚とした表情で見つめていた。(三つ首の内の一つはそっぽを向いてる)

「あ、さっきはペットのベロちゃんが失礼しました」

「え?ペット?」

ケルベロスはナタージャさんに促され申し訳なさそうに頭を下げる。(三つ首の内の一つry )

「悪気は無かったんです。つい人間を見るとオモチャだと思ってしまって…」

「は、はは…そうですか…」

「この通り反省してるんで、人間界との条約を破ったことは秘密にしてくれませんか?」

ナタージャさんはおずおずと喋る。

だが条約とか異世界転移したばっかの俺にはピンとこない。

「え〜と、実は僕、この世界の人間じゃないっぽくてぇ」

「え?どーいうことですか?」

不思議そうに首を傾げてナタージャさんはこちらを見つめる。まぁそりゃそうだよな、いきなり中二病みたいな事言ってくるデブがいたら恐怖だもん。

「僕も良くわからいんですけど、異世界からこの世界に転移してきたみたいで…」

自分の状況を分かり易く伝えたかったが、歯の浮くような台詞に思わず下を向いてしまう。これでは信じて貰えないだろう。

「へー!そうなんですかぁ」

しかしナタージャさんはあまりに軽い口調で、俺の言葉を受け入れてくれた。

「え…信じてくれるんですか?」

「はい。まぁそーいうこともあるんじゃないですか?」

そう言いながら、この美少女は屈託無く笑った。て、天使だ。天使すぎる!

「じゃあ帰る所が無いんですね…。良かったらランタン村に来ますか?」

そして天使は更に救いの言葉を授けてくれた。正直異世界転移したばかりの俺には渡りに船だった。

「は、はい!是非っ!」

俺は頭を上下に激しく揺らし肯定の意思を示す。

「よし、じゃー行きましょー」

ナタージャさんは元気よく叫んで俺の腕を引っ張りながら歩き出した。

その後ろをベロちゃんがのそのそと付いてくる。

そうして俺達はランタン村へと出発した。

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