ベロちゃん
「…ゼェ、ゼェ、…コヒュー…」
「フォッ、フォッ、フォッー」
やはりデブに運動は辛い。爽やかな陽射しも太陽の嫌がらせに感じてきた。
…しかしこれでようやく森に辿り着いたぞ。
ここでモンスターに襲われてるエルフかなんかの美少女が俺を待っているに違いない。
そして颯爽と現れた俺が異世界チート能力でモンスターを倒すのだ。
「…誰もいないな」
しかし鬱蒼とした森は人の気配はおろか動物の鳴き声もしない。
「ちっ、マジか」
流石に何も無さすぎて途方に暮れる。
というか心細すぎる。
「…ん?」
しばらくボーっとしてると、微かに水の流れる音がどこからか聞こえてきた。
「川かな?」
ちょうど運動して汗も掻いたし、俺は耳を澄まして音のする方へ行ってみることにした。
「あ、やっぱり」
5分くらい歩いた所で、森の中に川を見つける。
「うわ〜、超透き通ってんじゃん!」
やはり都会の汚れた水とは違い、こんな綺麗な川が当たり前にあるのは流石異世界といったところか。
「じゃさっそく、いただきま〜す…ん?」
俺は小走りで川へ向かい、喉を潤そうとする。だが水面に顔を近づけた瞬間、全身が固まってしまった。
水面には体重150kgオーバーで髪が薄い疲れたオッサンの顔が反射していた。
「おいおい、元の姿のまんまじゃねーか!」
「これじゃ異世界に来た意味ないよ!」
俺はつい感情のまま怒鳴ってしまう。
確かに異世界に来てからカラダ重いまんまだな〜とか、走るの辛いな〜とか感じてたけど、でもそこは顔だけはイケメンにしてくれよ!せめてハゲだけは治してくれ!なんでアラサーのオッサンのままなんだよ!
これじゃモンスターから美少女を助けたって、こっちが新たなモンスター扱いされるだけだよっ!
「クソッ…俺は満足に異世界転生すらできないのか」
俺は俯き、絶望する。
「あ〜あ、せめてチート能力があればなぁ〜」
チート能力か…。
自分で呟きながら俺はあることを思いつく。
そういえばこういう時に異世界には便利な機能があったはずだ。
ゲームやアニメの見すぎと笑われるかもせれないが、ここが本当に異世界なら確実にこの方法が有効なはずだ。
「…試してみるか」
俺は川の水をガブ飲みした後、森の中に引き返し、少し開けた場所まで移動する。
「よし…いくぞ…」
息を大きく吸い…心を落ち着かせ…そして…
「ステータスオープン!!」
そう声の限り叫んだ。
-了承- あなたのステータスを開示します
そしてどこからともなく機械的なこが響いて、空中にステータス画面が表示されるのだ!
「…あれ?」
だが俺か叫んだ後は、少し木々の枝が揺れただけで何も起こらなかった。
「ちょっとテンションが違ったかな」
俺は顔を叩いて気合を入れ直し、再び大きく息を吸う。
「ステータスオープン!」
「ステータスオープン?」
「ステェェイタァスオプーン!!」
「ステェェイタァスフォぉーぷぅうん!!」
「ステ、げほっ!」
何度叫んでも周りの景色は一切変化しない。
というか叫びすぎて喉が痛い。
やっぱりゲームの常識はゲームでしか通用しないのか?
「というかここって異世界じゃないんじゃないの?」
俺は座り込み、目の前の雑草にそう尋ねる。
もしかしたら仕事のストレスで無意識にオーストラリア辺りに旅行に来たのかもしれない。
「はぁ〜あ」
ため息を吐き、横になる。
雑草の感触は気持ちいいものではないが、走った疲れで眠気が襲ってきた。
「…寝るぅ」
俺は目を瞑って、色々な考え事を止める。
あ〜あ、次起きたらほっそりイケメンに…。
“ドォン!!”
「ぷへぇ、なにぃ!?」
深い眠りにつこうとした瞬間、遠くから轟音が響いた。
俺は飛び起きて音がした方を見る。
“ドシン”“ドシン”という音と共に振動が生じ、木々が揺れ地響きが伝わってくる。
そこには、5m以上ある大きな影が森の中を歩いていた。
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