限界
青原支部事務室、自分の仕事をしながらも尾上の仕事の手伝いをしている昇太郎はようやく本日分の仕事に一旦の区切りが付き、自身のデスクに倒れ込むように座った。
彼の衝撃で椅子がいつもよりも大きな音を上げ軋む。
彼のデスクの上には書類の他にも空になったカフェイン含有量が多く含んだ清涼飲料水が数本置いてあり、眠気に対抗しながらも仕事に向かっていく姿勢がありありと想像出来た。
現に彼は1日で仕事が終わらず、自分の分を残して残った分は家に帰って処理していた毎日を6日間過ごしていたらしい。
勿論、休憩さえも仕事に変え、睡眠時間も大幅に削りつつ、気を奮い立たせながら乗り切ったようなのだ。
そんな日々が続いた7日目の昼過ぎの現在、流石の彼も怒涛の日々を送った溜まりに溜まった疲れが今になって押し寄せたのか、椅子に腰を落ち着けた安心感でそのままデスクの上で眠ってしまった。
そんな姿を後ろで静観していた隊員達はソワソワしながらも自身の仕事をしていた。
「おいおい、大丈夫かよ、あいつ。
凄い隈があるぞ。」
「大丈夫じゃないよ。
聞いたところによると、獅子谷の奴、自分の仕事を家に持ち帰ってまでしてノルマ達成しようとしてるみたいだ。」
「じゃあ、十分な睡眠が取れてないって事なのか?
椅子に座った瞬間、秒で寝てたしな。
そうかも。」
「最近の獅子谷、サボってないどころか、かなり頑張ってるみたいだし、めちゃくちゃ助けてあげたいけど、支部長がそれを禁止してるんだろう?」
「そうだね。
鶴田さんが監視役兼何かあった時の為のサポート役でああやって側にいるけど、あの人も歯痒いだろうなぁ。」
「確かに。
獅子谷の奴、ぶっ倒れなきゃいいけど…。」
そんな話をしているところに丁度、秘密の恋人である美月がやってきた。
最後の彼の一言を聞いて少し心配になった美月は昇太郎を見ながら彼らに尋ねた。
「ねぇ?」
「えっ?
あっ、お疲れ様です、竜胆隊長!」
気配を感じずに話に夢中になっていた彼らは慌てて姿勢を正し、美月に頭を下げながら挨拶する。
「お疲れ様。
それで獅子谷さんは寝てるの?」
「そうですね。」
「相変わらず支部長のお使いは続いている感じかしら?」
「はい、まだ続いています。」
「そっ。」
それだけ聞くと、今度は昇太郎の側で黙々としながらも逐一様子を確認している鶴田に近付く。
「鶴田さん?」
「えっ、あ…お、お疲れ様です、竜胆隊長!」
普段は美月に負けず劣らずに神経を研ぎ澄ませていふ鶴田もこの時ばかりは昇太郎が心配で全く美月の気配を感じ取れなかった。
「獅子谷さんの体調はどう?」
「日に日にやつれていってちゃんと食事が摂れてるか心配です。」
その返答を聞いた瞬間、美月は暗い顔をしながら顔を俯かせた。
その様子を苦い表情で見ていた鶴田は気休めと言わんばかりの事を付け足した。
「ですが、6日間の中で1度も倒れてるところは見てません。
睡眠も食事も身体に響きそうなところは最低限摂っていると思います。」
「そう。」
だが、やはりその程度ではその暗い表情が明るくなる事はなかった。
愛想なさげな表情のまま美月はポケットからカランカランとなる箱を取り出し、鶴田に渡した。
「これ、彼が起きたら渡してあげて。」
「これはアーモンドチョコですか?」
「ええ、疲労回復に良いアーモンドと疲労回復に良いチョコでそれなりに身体が持つんじゃないかしら?」
「はい、分かりました。
しっかりと渡しておきます。」
「それでは、私はこれで仕事に戻ります。」
そう言いながら、身を翻し自身のデスクに戻ろうと数歩歩いたところで途端に立ち止まる。
そして、鶴田に振り返らないまま美月は口を開いた。
「彼の事、倒れないようにしっかりと見てあげて、鶴田さん。」
「はい、任せて下さい!」
威勢の良い鶴田の返事を背に美月は再びデスクに向かって歩き出した---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます