キスバレ

よく見ると、その写真の内容は見覚えがある。


それも脳内の記憶も新しいのだ。


つまり最近の事だ。


そして昇太郎は気付いた。


「これ、まさか…。」


「私も長年竜胆君と付き合っているが、彼女はかなりの堅物で誰に対しても淡白に接しているんだ。

周囲の浮ついた雰囲気や楽しい談笑なんかにも染まらない程にね。

勿論、例に漏れず、彼女を石金と言われるまでに育て上げた私に対してもだ。

だからこそ、こんな事は初めてであり、千年に一度あるかないかくらいの珍現象なんだよ。」


そうして、尾上はスマホを自分の顔の前に手繰り寄せて写真を凝視する。


「なにせ、君にキスするくらいに君に惚れ込んでいるんだろう?」


そう、その写真は昨日の待合室で美月と昇太郎がキスをしていた場面だったのだ。


どうやら、知らぬ間にその場面を目撃していた尾上が死角から撮影していたらしい。


「まぁ、でもアングルからして頬にやってるから大分ソフトな感じなのかな?」


写真を見て簡素な感想を述べる尾上に昇太郎は焦燥に駆られた表情で迫る。


「支部長、あの…どうか、この事は内密にして下さい!」


「えー、こんな大スクープになりそうな面白い事を誰にも言っちゃ駄目なの?

寧ろ、皆に話して話題を共有したいな。」


「本当に頼みます!

何だったら、何でもしますのでどうか、勘弁して下さい!」


最後の一言を言った瞬間、おちゃらけた表情が一変し、昇太郎を値踏みするような鋭い視線を向ける。


「ほう、今何でもするって言った?」


「はい、そうです!」


「本当に…何でもなんだね?」


「は、はい…大丈夫です!

男に二言はありません!」


再度の確認で了承を貰った尾上は不敵な笑顔を浮かべながらゆっくりと椅子から立ちあがる。


「じゃあ、そうだなぁ…。

ここにいなかったブランクがかなり長い上でここで再び仕事をする訳だからそれをいきなり全部やるってのもウォーミングアップの度を越して大変なんだよねぇ…。

だから、獅子谷君には私の負担を減らしてもらおうか。」


そうして、昇太郎は自分の仕事をする傍ら、尾上の仕事も半分受け持つ事になり、尾上の負担は実際減ったが昇太郎の負担は増えた状態で日々を送っていた。


周囲の隊員達も皆憐憫の眼差しで昇太郎を見つめており、中には手助けしようとした者もいたが尾上から事前に根回しを受けた鶴田がその度に制止していた。


鶴田も手伝いたい気持ちをグッと堪えて昇太郎の側で日々仕事をしていた。


その日々は実に6日間も続いた。


日に日に疲れが見え始める昇太郎ではあったが、エナジードリンクを常時携帯し何とかその場凌ぎで乗り切っていた。


そして、その6日目を乗り切った1週間後の7日目---

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