カミングアウト

「失礼します。」


「入ってもいいよ。」


青原支部支部長室、朝礼後の隊員同士でのミーティングを終えた昇太郎はその部屋の扉をノックする。


入室の了承を得ると昇太郎はおずおずと部屋に入る。


部屋の中には朝礼後に既にいなくなっていた尾上が支部長らしい威厳を携えた様子で椅子に座っていた。


だが、部屋に入るなり昇太郎は支部長である尾上そっちのけで考え事をし始める。


(支部長が俺を指名で呼び出すって何なんだろう。

俺、何かしちゃったのか?

最近の俺は業績も我ながら良くて美月さんの指示に従いながら色々とこなして特に叱責されるような要素はどこにも…。

最近…?

あっ、そうか。

最近は良くなったけどそれ以前のサボり癖が遂に支部長にまで知れたという事かもしれない…。

だったら、ヤベえよ!

めちゃくちゃ怒られるじゃんか!

それもそれで恐ろしいけど、もっと問題なのは昨日の件だよなぁ…。)


昇太郎はゆっくりと尾上がいるデスクへと歩いていく


(あの時は仕事終わりで疲れて夜の変なテンションでやってしまった部分があるんだよなぁ…。

それに少し興奮気味でもあったし。

現に今はかなり冷静だ。

こうやって客観視も出来ているし至って正常。

とはいえ、場所は社内だぞ!?

そこら辺はもう少し考えられただろう。

付き合ってまだそんなに日が経っていないのにがっつきすぎなんだよ!)


そのまま歩くと思えばその場で頭を抱えて側にある壁に頭を打ちつける。


(そんな風にがっついているのが目に見えていたから美月さんだって俺のほっぺにき…き………してくれたんだろうさ!

半ば無理矢理にやらせてしまって…俺って奴は…最低だ!

最低すぎる…!

そういう風な事はもう少し互いの仲を育んだ後にするものだって自分でも分かってたくせによぉ…!

でも…あれは…凄え柔らかかったな…。)


最後にしてくれた口付けの感触を鮮明に思い出していた昇太郎は頬が赤く染まり、その様子は瞬間圧力鍋のように頭上から湯気が噴き出る勢いだった。


それを苦笑いで見ていた尾上は現実に引き戻すように注意をする


「こらこら、ここは僕の部屋だよ。

勝手に壁に頭打ちつけたりするのはやめなさい。

全く可笑しな人だね、君は。」


「す、すみません…。」


「まぁ、いいや。

とりあえず、デスクの前まで来てくれるかな?」


「はい…。」


昇太郎がデスクの前まで来ると尾上は座りながら話し始める。


「私はね、獅子谷君、君の事が気になるんだ。」


「はぁ…。」


(俺の事が気になるってどういうこったよ。

怒られると思えば、何か本題まで長くなりそうな前置きの一言で始めて…。

何を話されるのかがまるで分からん。)


そう思った矢先、今まで正していた姿勢を尾上は急に崩してデスクに片肘を付けながら話が長くなりそうな雰囲気で口を開いた。


「獅子谷昇太郎。

小中学校時代は無気力な日々を過ごしていたが高校から部活動で剣道に興味を持ち剣道に目覚め剣道少年となる。」


徐に開いた口から出てきた内容に思わず目を見開きながら驚く。


全てにおいて何もかもが当てはまっている昇太郎自身の生い立ちが語られていた。


だが、そんな驚く昇太郎もお構いなしに尾上は言葉を続けた。


「高校卒業後は就職もせず真っ先に近くにある剣術道場に通う日々。

両親のお金で通わせてもらっているのにも関わらず何の負い目もなく堂々としている昇太郎に日々両親は説教をする。

そんな状態だから家出する事もしばしばある。

そんな時、たまたま妖魔退治をしているところを目撃した青原支部の隊員達に雇用されて今に至る。

因みに高校在学中に好きな人に告白したが盛大にふ…。」


「うわー、うわー!」


それ以上先を言いかけたところで昇太郎が耳に響くような大音量で叫んで、言葉をかき消した。


「ははは!

いきなりこんな事言われて大パニックでしょ?

無理もないか。

すまないね。

人の命を預かる仕事な以上、いい加減な人を入れるわけにはいかないからね。

君を司る全ての内部事情を調べさせてもらったよ。

君の場合は性格はいい加減で大雑把だけど剣の腕は確かだから入社して日々を過ごしていく上でその性格を更生すればいいかなと思って採用したんだ。

案の定、サボり癖が徐々に直ってきてるじゃないか。」


「そ、そうですね…。

ありがとうございます…。

僕も大変嬉しいです…。」


(人を一目見て全てを理解する上に情報収集能力にも長けているなんて上に立つべくして生まれた人じゃねえか!

優秀すぎて逆に怖いぞ!)


ほぼ全ての生い立ちを正確にカミングアウトされた昇太郎。


全てを喋りきって満足げに笑みを浮かべる尾上に昇太郎は額に汗を浮かべ苦笑いで謝礼の言葉を返す。


「かなり驚いてるね。

そんなに驚いてくれると頑張った甲斐があるってもんだ。

それにこれも知ってるんだよ。」


そう言いながら尾上はポケットからスマホを取り出し、その画面を昇太郎に見せる。


画面に映ってるのは一枚の写真のようだ。

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