感化
洋前中央繁華街の映画館にある4番スクリーンの出入り口、美月と昇太郎は見ていた映画の怒涛のラストスパートを見て放心状態になっていた。
あまりの衝撃と予測不可能な演出に2人は出入り口付近でボーッとしたまま立ち尽くしていた。
暫くすると、次に入る予定の映画を見に行く観客に昇太郎の肩がぶつかった。
「おおっと…。」
「うわっ…すみません、ぼうっとしてて。」
ぶつかった衝撃で我に返る昇太郎。
「いえいえ。」
ぶつかった観客に頭を下げた昇太郎はそのまま隣で未だにボーッとしている美月に肩を揺らしながら声をかける。
「美月さん、このままここで立ち尽くしてたら他の観客の邪魔になるので行きますよ。」
「はっ!
そっ…そそ、そうね、早くこの映画館を出ましょうか、目的の映画も見れた事だし…。」
昇太郎の声がけで目が覚めたら美月は一瞬にして映画の内容を思い出した。
そして、湧き出る羞恥に堪え切れず先行して映画館の出入り口を目指し歩き出す。
受付付近を通りかかると先程見た映画のポスターが柱部分に貼られていた。
思わず立ち止まり見上げてしまう程、周りにある映画のポスターよりも大きく、作り込みが凄いものだった。
数秒沈黙の空気が漂い、それに耐えられなくなった昇太郎は陳腐な感想を述べた。
「あ、荒々しい映画でしたね。」
しかし、隣にいる美月からは何も返事は返ってこず、聞こえてくるのは観客の足音と彼らの話し合う声だけだった。
不思議に思い、昇太郎は隣にいる美月の方を向いた。
すると、美月は何やら呪詛のように1人でぶつぶつと何かを喋っていた。
「ブツブツブツブツ…。」
「美月さん、どうかしましたか?」
「ひぇっ、何!?
そんなに顔近付けないで!」
「いや、焦点が定まっていない目で1人でぼそぼそと喋っていたものですから心配で…。」
「うっさい!
早く次のとこ行くわよ!
ほら案内するんでしょ!?
早くしなさい!」
「はっはい、すみません!」
昇太郎の声がけで再び我に返った美月は羞恥を打ち消すような大声で怒鳴る。
昇太郎はそれに対して90度に頭を下げて先行して映画館を出て次の目的地まで歩いていき、美月もそれに続いた---
洋前中央繁華街のとあるファミレス、そろそろ昼時の時間になったので美月と昇太郎はここで腹ごしらえをしようとしていた。
「洋前しかない小洒落たレストランとか喫茶店とかに行きたかったんですけど、やっぱり土地勘がないとどうにもなりませんね。
探し続けて見つけられればいいんですけど、その間にお腹はどんどん減るし、それに見つけたとしても食べ終わった後になったら迷子とかあり得るのでありきたりですみませんがチェーン店にしました。」
「仕方ないわよ。
まぁこれでも十分に羽は伸ばせてるし割と楽しいわよ?
今回は洋前という青原よりも数段発展した街に来れて満足って事でいいじゃない。
レジャー施設やスポットを回るのはこの次出張とかで来れたら回ればいいんじゃないかしら?
それまで洋前の土地をちゃんと下調べしたり地図を持ってくるでもいいわね。」
「そうですね…。
…って今さらっと言いましたけど、美月さん、また次も一緒に来てくれるんですか!?」
「………!」
昇太郎の当然な疑問に割と自然に口を滑らせた美月は瞬時に顔が赤く染まり、その場で俯く。
「き、急にどうしたんですか!?
具合悪いんですか!?」
「いや、何でもない…。
大丈夫よ…。」
(ほ、本当に大丈夫か?
ここに来るまでは平然としてたけど、また今ぶり返すように変になったぞ。
強がってるだけでマジで具合悪いんじゃ…)
「ねえ昇太郎…。」
「はい…。」
俯き沈黙を貫いていた美月だったが、突然昇太郎に声をかける。
「昇太郎はその…さっき見た映画の…恋人同士がやってた事をしたいの?」
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